54『東京護衛』
久しぶりです。
お願いです、ブクマ外さないでください。
こっちもしっかり更新していきます。
────……一刀両断。
言葉によるものではなく、物理的。
僕はお気に入りのダガーナイフで、目の前にいる猪型の魔獣を切り裂いた。
空は雲一つない晴天。
しかし地面はでこぼこ、
辺りを見渡せば────何もない。
これが日本の首都だと言われても、誰も本当だと信じないだろう。
「ったく、改めて見ても……凄い壊滅具合だよなあ」
「ホントね。アンタの頭の中ぐらい壊滅的」
「勇者がそんな不謹慎なこと言っていいのかよ」
「んー、まあ、うん」
どうやら失言だと今更に気づいたらしい。
視線が泳いでいた。
まるで僕みたいだ。
そう言うと絶対に怒るから、言わないけど。
「さて、取り敢えずここら一帯にいた魔物は片付けたけども」
僕と秋元、そして黒町の三人で───国から冒険者に出された依頼"東京の護衛"を行っていた。
ここで配信しながら活躍する事で冒険者ホワイトの株を上げようっていう作戦だ。
「ん。まあここら辺にもう用はねえな、戻るぞ」
「りょーかい」
僕たちが魔物を倒す姿を配信やら、もしくは他の冒険者などを通じて記録しておく事で、『魔物討伐数』を国に明確な数字としてデータベースに残す事が出来るらしい。
そういう風な明確に数字化できるものがあれば、国指定冒険者の推薦にも有利に働くとかなんとか。
「っと、その前に……これを見てみろ」
黒町はポケットからスマホを取り出して、僕たちに何かを見せてきた。
「これはなんですか?」
「公式魔獣討伐記録……」
スマホに映るそのサイトでは、ランキング形式で冒険者の名前と数字が記載されていた。
「これがいわゆる、この依頼で活躍した実績ってやつだ。物理最強。お前にはこれで、そーだなあ、最低でも3位以上を取ってもらわねえと、厳しいってところだ」
「3位……どれぐらい凄いのか、ちんぷんかんぷんだよ」
「まあ、凄え」
「最強頭脳が言うぐらいなら、そうなんだろうね」
腕を組んでため息を漏らす。
いやあ、思ったよりも修羅の道かもしれん。
ーーーーー
『東京護衛』
魔獣討伐ランキング。公式記録。
一位。
リーシャ・ベッケンバウアー
記録:1230
二位。
松丘武
記録:1078
三位。
風山次郎
記録:986
……以下略
二百三位
ホワイト
記録:98
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「うーん。これ本当に三位狙えるのかよ、先輩」
「せいぜい安心しろよ、後輩。──このランキングに載ってる冒険者はほぼみんな無名だ。お前より実力の高いやつはそういない」
黒町はそう言うけどさ、
僕としては実に不安だよ。
だって最低でも三位にならなきゃいけないのに、三位との差は──約900もある。
もうダンジョンから溢れ出てきた魔獣も討伐しきれた頃だろうに、本当に追い越せるのか?
本当に疑問だった。
「松丘武ってのは、私たちを襲ってきた国指定冒険者ですよね?」
秋元が最強頭脳に問う。
僕は覚えてないのでわからない。
誰だよそいつ。
「ああ、そうだ。後はみな素人だろう。少なくとも国指定冒険者ではねえ、だからって弱えとは限らないけどな」
それから一拍おいて、彼は言う。
「ともかく時間がない。限られた時間内で、魔獣が倒し尽くされる前に俺たちが狩らなきゃいけねー。だから急ぐしかない」
分かったか後輩?
と、黒町は僕を一瞥する。
いやまあ、分かってるさ。
分かってるとも。
でも、出来るかどうかは別なんだよ。
「一応、聞いておくけど──実現可能なんだよな? 僕が三位以上を取ること」
城里学の質問。
──残念、愚問だった。
「はっ、物理最強。オレをなんだと思ってる」
「最強頭脳」
「その通り。だから理由はいらねえよ、それだけさ」
……つまり最強頭脳の名のもとに、保証してくれる、と?
「あのランキングを見ただろ? 三位中、国指定冒険者は一人しかいなかった。それはどういう意味か、分かるか?」
「えーと。弱くて、魔物を倒せなかったから」
「アンタバカあ!?」
え? 勇者の方から予想外のツッコミが飛んでくる。秋元ってそんなテンションじゃなかったよな……。
「…………ごほん」
冷めた空気をリセットするように、彼が咳払いした。
いやあ、これはキツイ。
「アイツらはな、基本的に金が貰える仕事じゃなきゃ動かねーのさ。だからこの依頼には積極的に参加しようとしねえってわけ」
「最悪だな。金の亡者にだけはなりたくないよ」
お金はあればあるだけ便利だろうが、別にあったところで使わないので余らせるのがオチなんだよな。
少なくとも僕の場合は。
「同感だ。つーわけで、そんな中でも参加している松丘武──コイツはつまり、他の何かで国から金などをもらって、この依頼をこなしているに違いないという思考に至る」
「というと」
「例えば東京護衛の魔獣討伐数において、城里学……冒険者ホワイトが上位に来ないように妨害しろ、とかな」
「なるほど」
もしそれが本当なら、随分とあくどいな。
松丘武。
──確か、東京の混乱に乗じて僕たちを襲ってきた国指定冒険者だったか。
正直、火山とかのゾーンで勝手に死んだんじゃないかとか考えてたけど……一応はプロ冒険者ってことか。
案外しぶとい。
「ま、頑張ろうぜ。もうそれしか言えねえな」
「ああ」
だが、残念ながら彼は僕の敵ですらない。
障壁にはなりえない。
「まだ東京護衛は始まったばかりだからね」
───懸念点はそう、
このまま彼が僕にちょっかいをかけようとし続けたら、あやまって、
まちがって、
""僕が彼を殺してしまうのではないか""、
という可能性があることであった。




