51『暁ヒナは何をしていたか』
時は少し前に遡る。
ドラゴンを暁ヒナが操り、燃え上がる東京都上空を飛んでいた。その時に。
◇
「頑張ってね、二人とも!」
城里と勇者がドラゴンから飛び降りた。この事件を、大災害を解決する為に。
彼らは彼らなりに奮闘するのである。正直な話、私だって加勢に回りたかったけれど。
城里に、
『僕はこの戦いに加勢するから、ヒナはみんなを安全な所を探して届けてやってくれないか』
と言われてしまったから。
そう、託されてしまったから。
だから私はこのドラゴンに乗る一般人を、安全な所まで運ばなければならないのだ──っ!
「みんな、大丈夫ですか……!」
振り返って、みんなに確認を取る。
ドラゴンの背中に乗るのは全部で、22人。若者が多い印象だけれど、高齢者も数人いる。
ケアは必要だし、最新の注意を払わなければならない。
それに、ここで怪我をさせて──城里に失望されたくなかった。
「大丈夫です!」
「一応なんとか……」
「元気よぉ」
ちょっと待って。
急に私は何を考えているのだろうか。……城里に失望されない様にって、まるで恋する乙女ではないか。
私は悪女系配信者としてのキャラで今まで貫いてきたというのに!
──これじゃあ本当に……。
「ん」
その時。
前方から何かがやって来る。
「コウモリ──?」
それはそう、コウモリ型の魔獣であった。空にいる限り安全かと思っていたけれど、案外そういうわけではないっぽい。
「どうしよ」
見た感じ、三十匹弱いる。
この操っているドラゴンならば炎を吐けるから、どうにかなるかもしれない。
というか瞬殺できるだろう。
ドラゴンっていうのは、基本的に魔獣の中でも上澄みの強さを誇る。
でも。
でも、だ。
──私は彼らを安全に、安全な場所まで届けなければならない。
ブレスを吐けば倒せるだろうが、しかしコチラに振動が来る。炎を吐く衝撃が。
するとどうだろう。
その衝撃に、果たして高齢者は耐えられるのか。お爺ちゃん、お婆ちゃんが振り落とされないのか。
そう。
振り落とされない保証はどこにもない。
「……っ」
しかし、そうはいっても──それ以外に方法はないのだ。
……本当にそうだろうか?
よくよく考えるのだ。
暁ヒナ……自分よ。
「私のスキルを使えば」
全力で──《魅了》を行使すれば、何とかなるのではないだろうか。城里みたいに凄い神業は出来ないけど、それでも、近付くことはできる。
「《魅了》っ!」
ならば。
考えている暇はなかった。
即座にスキルを発動し、粉を撒き散らす──この感じだと、コウモリとドラゴンが衝突するまで後1秒もなかった。
ギリギリ。
もうブレスは間に合わない。
粉さえ吸い込んでくれれば、押しつけられれば……っ!
「魅了・浮遊っっっ!!!」
粉が舞う。宙を舞う。先へ舞う。
──ぶつかる。
『キィィィィ!!』
「耳を抑えて!」
コウモリ特有の超音波の様な叫び声を耳で抑えて耐えながら、全神経をスキルの操作に充てる。
吸い込んだ。
……操れるコウモリは約30匹、たったの5匹だった。
このままだと残り25匹にひっつかれ、襲われてしまう。
「錯乱しろッ!」
でも、決してそうはさせない。
私は使役した5匹のコウモリを、他のコウモリに衝突させる事で……群れを散らせ、地に落とすことに成功した。
なんとか、九死に一生を得た。
はあ、緊張したよ……。
違うかな。緊張どころではない。
まるで城里に告白することを想像している時と同じぐらいドキドキして──って、私は何を言っているのっ!?!?
「はあ、はあ、落ち着こう。暁ヒナ」
自分自身で自分を宥める。
落ち着くのだ、暁ヒナよ。
私は確かに城里と結婚したい気分だけれど……じゃ、じゃなくて!
ああっ、もうダメ。
やめやめ、考えるのはやめよう。
打ち切りだ。
……これ以上の思考は私をダメにする。
「どうしたんですか、あの、顔赤いですが……」
ふと一般人であろう女性が話しかけて来た。私は彼女やら、ドラゴンに乗る人たちには背中しか向けていないはずなのに。
それでも赤く見えるぐらい、紅潮していたのだろう。
やばい。
どんどん、段々恥ずかしくなってきた。
ともかく安全な所へ──そう、頭を切り替えた矢先である。
さっきとは違う、次は男の人が叫んだ。
「あ、あのテントは! ──なんかヘリポートみたいになっているあれは!」
「もしかして! おーい! 人だぞー!」
ちょうど、東京を抜けて街も見慣れた光景に戻った頃。……境目の様な部分に仮設テントが建てられていた。
実に早い対応だなあ、と感心しつつ……私たちは魔獣ではなく、魔獣を操る人だと『手を振って』地上の人たちに伝えながら降下した。
どうやらここは、国が急遽設置した避難施設であった。




