49『ピリオド』
速攻、であった。
僕たちの間へ──炎の男が近付くのと同時に、ダガーナイフを引き抜く。
牽制させてもらうぞ。
さっきよりも、さらに全力でいく。
『ハッ!』
男の拳が振り上げられる。
そして、振り下ろされる。
それよりも早く……まずは彼が天にあげた右腕を切り落とした。そのまま空いている左手でアッパーをかまして、上方向へと吹き飛ばす。
「クロマチ!」
「分かってるつーの、後輩。先輩をもう少し信頼しろよな」
上方向では既に最強頭脳が待機しており──次は地面に叩き落として、
落としたものを僕が殴り、蹴る。
『強サ、変わったカ?』
「変わってないさ。お前がしっかりと、僕の実力を直視出来ていなかっただけだろ?」
神の子は魔獣の上澄み的存在と認識しているが、実際はどうなんだろうか。彼の顔を掴み膝を喰らわす、その様にして何度も痛めつけながら……考えてみる。
前の包帯野郎のことを考えると──、
ただ斬るだけじゃあまり意味がないようだし。
『ダガ、貴様は俺に勝てナイ』
魔素が他の魔獣に比べて多い神の子は、魔素による肉体の回復など容易らしいからな。
彼は切れた右腕をもこもこと泡を立てるように生やした。
「むぅ」
取り敢えず何度か、もう一度と切り落としてみる。
右腕だけではなく。
左腕も。
右脚も。
左脚も。
胴体も四等分に切り裂く。
───だが、炎を絶やさず、男は再生した。
……やっぱりただ攻撃するのじゃ意味がなさそうだ。ここは最強頭脳の力を借りよう。
黒町の方を一瞥する。
彼はジャンプした後に僕の後方へ着地しており、現在は気怠そうに頭を掻いていた。
「どーしたよ」
「どーしたもこーしたも、どうすれば良い?」
戦闘中だから、手短に。
「どうすれば良いって、のは?」
「分かっているはずだろ、最強頭脳───コイツの倒し方さ。実際のところ、僕は神の子は倒したことがない」
「君も分かっているはずだろ」
いや、分かっていないから聞いているのだが……。黒町は妙にニヤけた表情をしている。
くそう、馬鹿にされている気がする!
「深く考えるな、柄じゃねぇ」
「深く考えるな、って……」
「そのまま攻撃し続ければ良いのさ。相手の魔素を使い尽くし、回復出来なくする──それが最適解だ」
最強頭脳が出した案は、酷く安直なものだった。
だがまあ、そうだな。
変に悩む必要はない。
ソレこそが僕にお似合いだ。
……力技でねじ伏せる。
彼が考え、僕は実行する。
「そういうことだってよ、──神の子」
『ヌゥ⁉︎』
ならば、と容赦せず。
全力で切り捨てていく。
先程と同様に──豆腐のように軽く鮮やかに、彼の四肢をダガーナイフで切断していく。
彼は何度も四肢を再生していくが、負けず劣らずと──僕も彼の四肢が復活する度に何度でもダガーナイフで切り裂いた。
キンキンキン─なんて、ものではなかった。
それなんかより、遥かにレベルが低い。
戦略も知略も策略もない、愚策にして苦肉の策から繰り広げられる──果てるまでの殺し合い。小学生の喧嘩みたいである。
「まだ続けるか?」
『グァ!?』
「最も続けないと言っても、僕は続けるけどね」
斬り、切り、霧を割く。
まるで霧のように柔らかい男の体を切断していくうちに、再生速度が鈍くなっていった。
……頃合いか。
『マ、マダッ!』
「終わりだよ」
ダガーナイフの斬撃は止まらないし、今更懺悔してももう遅い。
既にコイツは戦犯だ。
あまりにも多くの人を殺すキッカケとなった。
つまり死ぬべきである。
死ぬべき存在が此処にいるのだ。
──塵になるまで果てろ。
『……ァ』
そしてついに、呆気なくも唐突に。炎の男は再生をやめ、その場で四肢を切断されたまま地面に落っこちるのであった。
実に味気ない終幕である。
すぐさま、
「なんだ、地震?」
「東京にあるダンジョンが崩れ、魔獣が消えて行く音だよ。二言はねえ」
最強頭脳が言うならそうなのだろう。僕は振り返って、彼の所へ駆け寄った。静かにお礼をする三宮と、変わらずニヤニヤした表情の黒町。
それから、この戦いには参加していなかった──暗いというか、怒りの表情を浮かべる……秋元だ。
幼馴染の女勇者はどうしてか、コチラを睨んでいる。
「どうしたのさ、勇者。そんな怖い顔して」
「アンタ──本当に何者なのよ」
「だから前も言っただろ」
前にも僕は、ソレを明言したはずだ。ネオイロス・ライトの攻略期間中の、学校からの帰り道で。彼女の喧嘩に発展した時に確かに、口を開いたはずだ。
魔素が生まれつき無いから、
剣術を極めただけの……
「僕は僕という者でしかないし、城里学は城里学でしかない」
神殺しに生まれた少年に過ぎない。
「またそれ」
「でも前は納得していたじゃないか」
「前はそうだけど……でも、こんな次元の違うもの見せられたら!」
彼女の気持ちも分からなくはない。
だが、実に乙女心を理解していないこと言うが───じゃあ、僕はどうすれば良いって話になるのだ。
ならば勇者に合わせて手加減をしていればいいのか?
それはきっと、違うだろう。
「あー、終わり終わり。せっかくの凱旋なんだからよ、辛気臭いトークは後回しにしてくれ」
しかし無理やり──、
本当に無理やりである。黒町がこの話題を途中で断ち切った。
このままいけば、更なる口論に発展していたかもしれないし、ありがたいヘルプだったな。
さすがだぜ、
最強頭脳!
「取り敢えず……状況を整理する為にも、研究所に戻ろう。もしかすると、消えってかもしれねぇがな」
そうだったと思いだす。
この騒動、ダンジョンから魔獣を出した主犯格である格上の魔獣を倒すと──辺り一帯のダンジョンが消滅するのだっけか。
僕たちが最近泊まっていた国際ダンジョン研究所は、一応ダンジョンの中に存在するからな。
壊れていてもおかしく無い。
……そうすると、
「寝泊まりする場所がなくなって困るなあ」
周りを見渡してから、そう言ってみた。
知っての通り、周りには粉々になったコンクリの破片しかない。
東京の象徴とも行ける高層ビルたちは、軒並み壊されてしまっているからな。
「まあ、どうにかなるだろ」
「そうじゃよ。どうにかなるもんじゃ」
「そうかなぁ」
ああ、それと……後で暁ヒナに連絡を取らなければな。
あれからどうなったか。
みんなは無事かどうか。
そして
──考えてみると、
僕は随分と暁ヒナにお世話になっているなあと感じるのであった。
いつかお礼をすることにでも、しよう。
ともかくそんなわけで……いきなり始まった東京の魔獣による動乱は治ったわけである。
新天地での展開に一旦のピリオドが付くことになる。
しかしまだ、始まったばかりでもあった。
僕たちの物語はまだまだ続いていく。
新作短編の『現代勇者はロリ魔王を社会的に抹殺したい』のほうもぜひ!
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1月17日は更新をお休みさせてもらいます。




