44『本気と、遭遇』
私は、城里の姿を見続けていた。
勇者である自分ですら油断すれば一気に離されるぐらいの超ハイペースで、
──彼は魔獣を殺しながら進んでいる。
本当にフザけている。
「ねえ、分かったから……待ってよ!」
魔獣の強弱など関係なく、ただ掃除をする様に全てを無差別に殺していく。
城里学は強いなんて次元を飛び越えている最強の少年だと、私は改めて認識させられた。
今まで本気を隠していたことに、確かな怒りを覚えつつも……今はただ彼に追いつくため、走るのに忙しい。
◇
「ん」
研究所で俺はコーヒーを飲みながら、つまらん新聞で情報収集をしていた頃合い。
研究所が、いいや、この世界が揺れた。
「あ?」
デスクに置いていた三宮のマグカップの中で、コーヒーが波を起こしている。
「地震かの?」
「そう断定する自信はねぇな」
「ほう、最強頭脳にしては随分と曖昧な物言いじゃの!」
そりゃあ、ただ言葉遊びしただけだからな。
……この気持ち悪い揺れの感じは、確実に地震ではない。
となると考えられるのは……、
俺はその新聞をデスクに投げ捨てた。
先程まで読んでいた記事は『北海道での魔獣惨劇事故ーー発生前に地震のような揺れか』だ。
「この信用ならねえ記事も少しは役に立つじゃねえか、おい、三宮」
「なんじゃ」
「───この揺れはダンジョンから魔獣が溢れ出した衝撃によるもんだ。間違いねえ」
「……にわかに信じられんのじゃが、お主が言うのならそうなのじゃろうな」
だとしたら、俺たちは何をするのが最適解か?
……そうだな。そろそろ後輩に本気を出してもらおうとしよう。アイツを自由にして暴れさせられれば、それだけで多分片付く。
国指定冒険者の試験に向けて、良い肩慣らしとなるだろう。
いやでも、それだけじゃ解決できねー面倒な案件もある。
「どうしたのじゃ、着替えて。まさか出掛けるのか?」
「そーいうこっだあ、アイツらだけじゃ解決できねー問題があるからな」
「ワッシもお供するのじゃよ」
「ああ」
そういう訳で、俺たちも外に出るのであった。
◇
気が付く頃には、辺り一帯にいた魔物は大体倒し切っていた。
流石の僕である。本気を出すとちょっと我を失いかけるが、それさえ気にしなければまぁまぁやってくれる。
だがまだ本気を切らしてはいけない──、
まだ強い気配が一体残っている。
「強い気配の正体は……コイツか」
ソイツは、燃え果てるビルの屋根に立っていた。炎に焼かれている──否、自分で炎を出して燃えている人型の化物。
長い赤髪に、穴が空いていたりするボロボロの茶色のロングコートで着飾る男。
「……」
その男はビルの上に立ったまま、コチラを一瞥する。
「よ、ようやく止まったわね……アンタっ!」
「待て」
僕は近づいて来る、というか追い越そうとする秋元に対して手で制す。
ここから先は危険だ。
その男はビルから飛び降りると、徐々に僕たちの方へと歩み寄ってきた。
彼の歩いた跡には、ただ炎だけが残っている。
刹那。
「ッッ!」
その化け物は大きく天へと飛び、僕に向かって……落ちて来る。
ダガーナイフで応戦しようとしたが、相手は炎を纏っていてこのままじゃやり合えない。
回避に専念する。
「避けるぞ、秋元」
「え、ええ……」
まずは回避。
相手が地面に衝突するのと同時に、道路のコンクリートにヒビが入り、割れ、衝撃波によって道路の破片たちが吹き飛んでいく。
そのまま着地の衝撃で痺れることもなく、僕に殴りを入れて来る。
「結構やるじゃん」
コイツの武器は拳か──面白い、僕もそれなら、ソレで戦ってやるさ。
しっかりと見て、避ける。
次は回し蹴り。姿勢を低くする事もなく、必要最低限の距離を空けて再び避ける。
ダガーナイフをその場の地面に突き刺し、
次はこっちの番だぜ──と、燃え盛る男の頬に向かって僕は全力で右ストレートをかました。
『うぐぅ!?』
拳が若干焦げて熱い。
「ほら、次が来るぞ?」
吹き飛んでいく男にジャンプで追いつき、僕は更にアッパーを繰り出して……上に吹き飛ばす。
5メートルぐらいは、上方向に飛んだだろうか?
僕も同じ高さまで飛び、やり返そうと回し蹴りを選択し、相手を地面に叩きつけた──ッ!
『がぁ!』
もう一発だ。
そこで仕留める。
そう思った矢先、邪魔が入るっていうが最近の定石になってきた気がする。
僕の頭目掛けて銃弾が飛んでくる。
「おっとすまんすまん、間違えた。間違えちまったよ。あまりに動きがトリッキーで、バケモン同士が戦っているのかと勘違いしたぜぇ」
首を捻らせて避ける。……コイツをやり損ねたので、体制を立て直すために距離を取る。
立ち尽くしている勇者の隣に立ち、
それから闖入者の方を見た。
「誰だよ、アンタ」
「え? 俺のこと知らないのか?」
詳しくは知らないが、アサルトライフルらしき銃器を片手に持つ……筋肉質のスキンヘッド男だった。
奇しくも、この男もロングコートを羽織っていた。どんな偶然だ?
「ま、知らねえっつーなら仕方がない。俺もそこまで有名じゃないからな、お前さんと違って」
「……なによ、やっぱり城里のこと知っているじゃない」
失礼な男に対し、隣の勇者が愚痴をこぼす。
「テメェらが冒険者ホワイトと勇者だな?」
「悪いが変な人には黙秘権を行使させてもらうよ」
「ああ、そうかい。じゃあ面倒だし、死んでくれや」
名も知らぬその男はそれだけ言って、僕にアサルトライフルの銃口を向けてきた。
「最後に一つ聞いておくけど」
「あ?」
「アンタが誰だか知らないけど……もしかして、この緊急事態を引き起こしたのは、アンタだったりするのか?」
最後の質問。
それに彼は、
「俺はただの国指定冒険者で、この状況は知らねえ。オマエを殺すのに丁度いいから、勢いに乗っかっただけ」
答えた。
「そっか」
ただ思うことは、一つだけである。
「そりゃ興醒めだよ──よくも、僕の本気を邪魔してくれた」
ああ、本当にクッソイラつく。
これだから命令に従う国家の犬は嫌いなのだ。つっても、僕はこれからソレにならなきゃいけないのだが。
数秒もない後、
───銃弾がコチラに向かって放たれる。
どうするか。
地面に突き刺していたダガーナイフを足で弾き飛ばして手で掴む。
あとコンマ何秒かで銃弾は僕に衝突する。最もこんなことは防ぎたいので、ナイフで弾き飛ばす。
だが、そんなこと考えている意味はなかった様である。
『オレとコイツの邪魔をするな』
炎の男が、僕とアレスターの間に介入し銃弾を溶かす。
そして同時に、彼を起点として大爆発が起こった。焦げない程度の薄い炎の波が僕たちを襲い、世界を焼き尽くす──。
目を瞑って耐える。
「し、城里……!」
「え?」
目を開く。
と、そこに広がっていたのは……火山の中のようなマグマ地帯であった。
見る感じ洞窟の中らしい。
いや、所々には他の魔獣らしき何かが散見される。
つまりこれは、
「ダンジョンか──!?」
『ヨウコソ、歓迎スルゼ』
僕たちは、正体不明の炎男によってどうやらダンジョンに転移させられてしまったらしかった。
いや、正体はすぐに判明した。
「アンタ一体何者だよ、喋れるって……ああ、まさか?」
今まで喋れてきた魔獣、人以外のものには共通点がある。包帯男やら、三宮やら──そう、それは、
「まさか、ネオイロス・ライトの──子。アンタも神の子なのかっ!?」
『その通リダ』
どうやら僕は、神の子にかなりのご縁があるらしかった。
残念ながらランキングから落ちてしまいました!
ポイントを入れてくださった方、ありがとうございます。まだまだ物語は続きますので、よろしくお願いします。
というか! 明日も高校があって、地獄です! そして! 共通テストがある受験生のみなさん、応援してます(ここで言っても届かないかもしれませんが)!!!




