表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/57

41『息抜きをしよう!②』

 


 シカクイを出る頃には、夕飯を食べるのに良い頃合いになっていた。午後六時半。

 昼食はシカクイ近くの喫茶店で軽く食べた。

 ……東京は日が暮れても、人が多い。つーか夜になったからが東京は本番なのかもしれないが。


 高校生の僕には、まだ早い話だ。


「お、重いわ。大型の魔獣を倒す為に使った大剣よりも重いわ!」


「それだけ買えばな」


 秋元はこれでもかというぐらい服を買ったようで、紙袋の持ち手紐が両腕に大量に通されていた。

 これ、何十万するんだ! と思ったが、


「そうは言っても、セールしてたやつしか買ってないわよ!」


 今回の息抜きの費用は研究所が負担するということだった。


 研究所というと最先端のことをしている割に、あまり国からの援助がないイメージだが……国際ダンジョン研究所は例外的にたんまりと貰っているそうだ。


 半ば……つーか、横領な気がするけど。

 ダメなお金な気がするけど。


「やっぱりアンタも僕と同じで貧乏人思考で、ついでに田舎者じゃないか」


城里アンタと一緒にしないでよねっ!」


「相変わらず幼馴染への扱いが酷い」


 酷すぎて、僕が可哀想になってくる。此処まで言われているのに我慢している自分が、誇らしく感じてくる。


 そんな極地に達していた。


「一応聞いとくけど、黒町」


「なあんだ?」


「どこに向かっているんだ?」


「どこに向かってねえ、待ってるだけさ」


 それはというと、あれだろうか。

 先刻、僕に言っていた『待てば勝手に何かが起こる』理論だろうか。

 今回はそうともいかなそうだが……そう思いながら、でも僕は黒町に続き、夜になっても明るいこの街を歩いていた。


『やっほー』


 ポケットに入れていたスマホからメッセージが届く。

 こんな時に誰だろうか。


「まじかよ」


「急に独り言を喋らないで、気色悪いから」


 毒舌絶壁勇者のことを無視して送り主の名前を見てみる……と、そこには『暁ヒナ』とだけ書かれていた。


 僕は彼女と連絡先なんて交換した覚えないのだが。どうやったのか。


 僕の連絡先を持っているのは、自分の母親と秋元と梅雨坂ぐらいだぞ?


『どうやって僕の連絡先を手に入れた』


 気になったら居ても立っても居られない。

 単刀直入にそう聞いてみた。一瞬で既読になり、返事が飛んでくる。


『梅雨ちゃんにお願いした!』


 梅雨ちゃんというのは、梅雨坂のことだろう。アイツめ……のほほんとしているタイプだし、ヒナの口車に乗せられたのだろうな。

 ぐぬぬ。

 コイツに変な秘密を掴まれると嫌だからなあ、あまり深入りはしないようにしようと思っていたのだが……。


『そうか、じゃ』


『ちょ、ちょっと待ってよ!!』


 早々にメッセージを終わらせようとするものの、拒まれる。


『城里っていま、東京にいるんだよね?』


『そうだが』


 そこから返信は来なかった。なんなんだ、コイツは……。若干呆れながら僕がスマホをポケットに仕舞おうとした瞬間、また通知が鳴る。


 言うまでもなく、暁ヒナからだった。

 なんでこんな時差をつくるのか。


『なら明日、遊びに行って良い? 一緒に遊ぼうよ! 暇でしょ』


 ───怖い。


 絶対罠だろ、と思いつつ……だがやはりだ、断るのは忍びなかった。

 これが城里学という少年の性格である。取り敢えず、その唐突すぎる理由だけでも聞いておこう。


 彼女を理解する手掛かりになるかもしれないからな。


『別にいいが。にしても随分と急だな、どうした?』


 悪女というか、暴露系少女として有名な彼女のことだ。口は軽いに決まっている。……だって、好きだから(ハート)みたいな感じで僕を誘惑してくるに違いない!


 既読になって、少し経って、答えが出たようだ。


『ちょうど、東京に行く用事が出来たからさ! ついでに!』


『ついでに、ぐらいなら別に無理して会いに来なくても大丈夫じゃないか』


『あー……やっぱ、優先順位一番だから!! とりま明日東京行くから、準備しといてよね! 場所とか後で教えるから!』


 いくらなんでも、よく分からないぞ?

 僕は最後に『よく分からないぞ』と送ったのだが、最終的に既読にはならなかった。

 スマホの画面を閉じてポケットに入れる。


「めんどーな事になった」


 女の子と遊ぶなんて──ダンジョン攻略一筋だった僕に出来るのだろうか。

 不安である。


 いやいや、深く考えるなよ。

 相手は暁ヒナだぞ? 戦友だ。問題はない。


「やっほーなのじゃ!」


 不意に黒町が立ち止まったかと思えば、その先にいたのは白衣でもなくライオン着ぐるみ姿でもない、


 サイズの見合わないダボダボ黒パーカーを着る三宮の姿があった。


 三宮さんぐう旅路たびじ──ロリと言ったら怒る紫ロリで、神の子の彼女。

 いつも見たいな奇天烈な格好ではなく、現代っ子ぽい。


「遅え、辣腕らつわん


「悪いの、腰が痛くて」


 どうやら適当に歩いていたのは、三宮を待つ為だったらしい。


「じゃ夕飯食べに行くぞ」


 黒町が首を捻り振り返って、僕と秋元に対して言った。どうやら……このメンツ、この四人で食べるらしい。


 一人は冒険者、

 一人は勇者、

 一人は神の子、

 一人は最強頭脳。


 ───ああ、なんてカオスなメンバーだろうか。そりゃあもう楽しい食事になるだろう。



 ◇


 追記



 あれから何処に行こうか、黒町が介入せずに考えていたらいつの間にか口論に発展した。

 最終的に焼肉屋に行った。


 取り敢えず言える事は一つ。


 ……最高だった。


暁ヒナはただのツンとデレってやつ。

こうした、ほっこり回が僕は好きです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ