41『息抜きをしよう!②』
シカクイを出る頃には、夕飯を食べるのに良い頃合いになっていた。午後六時半。
昼食はシカクイ近くの喫茶店で軽く食べた。
……東京は日が暮れても、人が多い。つーか夜になったからが東京は本番なのかもしれないが。
高校生の僕には、まだ早い話だ。
「お、重いわ。大型の魔獣を倒す為に使った大剣よりも重いわ!」
「それだけ買えばな」
秋元はこれでもかというぐらい服を買ったようで、紙袋の持ち手紐が両腕に大量に通されていた。
これ、何十万するんだ! と思ったが、
「そうは言っても、セールしてたやつしか買ってないわよ!」
今回の息抜きの費用は研究所が負担するということだった。
研究所というと最先端のことをしている割に、あまり国からの援助がないイメージだが……国際ダンジョン研究所は例外的にたんまりと貰っているそうだ。
半ば……つーか、横領な気がするけど。
ダメなお金な気がするけど。
「やっぱりアンタも僕と同じで貧乏人思考で、ついでに田舎者じゃないか」
「城里と一緒にしないでよねっ!」
「相変わらず幼馴染への扱いが酷い」
酷すぎて、僕が可哀想になってくる。此処まで言われているのに我慢している自分が、誇らしく感じてくる。
そんな極地に達していた。
「一応聞いとくけど、黒町」
「なあんだ?」
「どこに向かっているんだ?」
「どこに向かってねえ、待ってるだけさ」
それはというと、あれだろうか。
先刻、僕に言っていた『待てば勝手に何かが起こる』理論だろうか。
今回はそうともいかなそうだが……そう思いながら、でも僕は黒町に続き、夜になっても明るいこの街を歩いていた。
『やっほー』
ポケットに入れていたスマホからメッセージが届く。
こんな時に誰だろうか。
「まじかよ」
「急に独り言を喋らないで、気色悪いから」
毒舌絶壁勇者のことを無視して送り主の名前を見てみる……と、そこには『暁ヒナ』とだけ書かれていた。
僕は彼女と連絡先なんて交換した覚えないのだが。どうやったのか。
僕の連絡先を持っているのは、自分の母親と秋元と梅雨坂ぐらいだぞ?
『どうやって僕の連絡先を手に入れた』
気になったら居ても立っても居られない。
単刀直入にそう聞いてみた。一瞬で既読になり、返事が飛んでくる。
『梅雨ちゃんにお願いした!』
梅雨ちゃんというのは、梅雨坂のことだろう。アイツめ……のほほんとしているタイプだし、ヒナの口車に乗せられたのだろうな。
ぐぬぬ。
コイツに変な秘密を掴まれると嫌だからなあ、あまり深入りはしないようにしようと思っていたのだが……。
『そうか、じゃ』
『ちょ、ちょっと待ってよ!!』
早々にメッセージを終わらせようとするものの、拒まれる。
『城里っていま、東京にいるんだよね?』
『そうだが』
そこから返信は来なかった。なんなんだ、コイツは……。若干呆れながら僕がスマホをポケットに仕舞おうとした瞬間、また通知が鳴る。
言うまでもなく、暁ヒナからだった。
なんでこんな時差をつくるのか。
『なら明日、遊びに行って良い? 一緒に遊ぼうよ! 暇でしょ』
───怖い。
絶対罠だろ、と思いつつ……だがやはりだ、断るのは忍びなかった。
これが城里学という少年の性格である。取り敢えず、その唐突すぎる理由だけでも聞いておこう。
彼女を理解する手掛かりになるかもしれないからな。
『別にいいが。にしても随分と急だな、どうした?』
悪女というか、暴露系少女として有名な彼女のことだ。口は軽いに決まっている。……だって、好きだから(ハート)みたいな感じで僕を誘惑してくるに違いない!
既読になって、少し経って、答えが出たようだ。
『ちょうど、東京に行く用事が出来たからさ! ついでに!』
『ついでに、ぐらいなら別に無理して会いに来なくても大丈夫じゃないか』
『あー……やっぱ、優先順位一番だから!! とりま明日東京行くから、準備しといてよね! 場所とか後で教えるから!』
いくらなんでも、よく分からないぞ?
僕は最後に『よく分からないぞ』と送ったのだが、最終的に既読にはならなかった。
スマホの画面を閉じてポケットに入れる。
「めんどーな事になった」
女の子と遊ぶなんて──ダンジョン攻略一筋だった僕に出来るのだろうか。
不安である。
いやいや、深く考えるなよ。
相手は暁ヒナだぞ? 戦友だ。問題はない。
「やっほーなのじゃ!」
不意に黒町が立ち止まったかと思えば、その先にいたのは白衣でもなくライオン着ぐるみ姿でもない、
サイズの見合わないダボダボ黒パーカーを着る三宮の姿があった。
三宮旅路──ロリと言ったら怒る紫ロリで、神の子の彼女。
いつも見たいな奇天烈な格好ではなく、現代っ子ぽい。
「遅え、辣腕」
「悪いの、腰が痛くて」
どうやら適当に歩いていたのは、三宮を待つ為だったらしい。
「じゃ夕飯食べに行くぞ」
黒町が首を捻り振り返って、僕と秋元に対して言った。どうやら……このメンツ、この四人で食べるらしい。
一人は冒険者、
一人は勇者、
一人は神の子、
一人は最強頭脳。
───ああ、なんてカオスなメンバーだろうか。そりゃあもう楽しい食事になるだろう。
◇
追記
あれから何処に行こうか、黒町が介入せずに考えていたらいつの間にか口論に発展した。
最終的に焼肉屋に行った。
取り敢えず言える事は一つ。
……最高だった。
暁ヒナはただのツンとデレってやつ。
こうした、ほっこり回が僕は好きです。




