04『どうやらなんか凄いことになっているらしい』
あの後また喧嘩したのだが、それがひと段落したので。
僕と彼女はダンジョンを『脱出の煙』という魔法アイテムで脱出したのち、地上に戻り、僕は彼女と別れて久々の実家のベッドで一休みしていた。
僕の実家は、茨城県のそこそこの都会に建っていた。批判するわけじゃあないが、まぁ別に茨城県でザ・都会と言えるところはないのだが。
比較的都会な場所に家は建っていた。
そして僕は家から最短距離にあるそこそこの進学校に通っていた。
「はぁ、眠い」
ため息をつく僕は、ああ、きっとクールでカッコよくて美男子なんだろうな!
勉強も出来て、エリートで、コミュ力高くて、顔面偏差値あって、強くて!
……っと、そんなわけなかった。
現実を不意に直視してしまい失望する最中に、充電中の携帯が一回振動した。
先程、充電が完了したかどうか確かめる為に、電源を付けたのだ。
まだその時は53%ぐらいだったから、そのままコードにぶっ刺したのだけれどね。
「ん」
ベッドで横になったまま携帯を持ち上げ、画面を開く。
ーーーー
『あんた、凄いことになってるわよ……』
ーーーー
そこには、一つのメッセージが映し出されていた。というか通知が来たから、メッセージアプリを僕が開いたのだ。
誰からのモノか、それは最早言うまでもないかもしれない。
送り主は、秋元奈々だった。
凄いことになってる。
と言われても、その情報があまりに断片的すぎるがために僕にはあまり理解が出来ない。
だから、電話をかけてみることにした。
プルルルル……と発信音が二回ほどなり、繋がった。
「っあんた、なんで急に電話なんか掛けてくるのよ!」
「え? いや、メッセージだとやり取りしにくいだろ。ほら。文字って断片的だし」
「貴方、全世界の文学者に喧嘩打ったわよ?」
え? なんかまずいかもしれない。取り敢えず、ナチュラルに話題を変えることで、僕が全世界の文学者たちから暗殺されることは免れることにしよう。
「今って、配信してないよな。フセン」
「……してない」
「そうか、なら良いんだけどさ。聞きたいんだ。凄いことになってるって、一体何がだよ?」
普通に僕は、素直にそう聞いた。
すると携帯越しに大きなため息が聞こえてきた。嘆息である。
「あんたって、本当に何も知らないのね!」
そして流れるようにそう言ってきた。
なんて失礼な。僕だって、知ってることぐらい沢山あるさ。
いや本当に。
本当に。
いや本当に───?
ふと僕は、自分の幼馴染が『勇者』であることすら最近というか先ほど知ったことを思い出した。
そうだ。
僕は無知だった。
「……あんたが、話題になってるのよ」
「うーん。話の全容が掴めない。もうちょっと、補語を」
「っ! つまり、──あんたが! あの配信のせいで一躍有名人になっちゃってるのよ! ネットニュースにも取り上げられて、そのメディアの急上昇ランキング一位になったりして、やばいの──!!!」
ふむ。なるほど。
やばいらしい。
「そのヤバさを、他に例えるとしたら?」
「貴方の無知がやばい、ってことと。そうね。藤◯拓海がハチロクに乗って走る秋名のライン」
「はぁ、それはヤバいな」
理解したぞ、僕は! それは確かに、実にヤバいかもしれないな。
僕は電話しながら、そういえばなんだか配信サイトからの通知が多いなと感じた。
なんだか数秒に一回、通知が来ていたのだ。
これは確かに、実にヤバい。
「……」
電話しながら、僕が先程配信したばかりの──大手配信サイトを僕は見た。
"嫌な予感"。
「配信サイトでの貴方への登録者数、見た?」
「今、見た」
お気に入りの配信者がいた場合、その配信サイトでアカウントを持っている人は、その人を"お気に入り登録"出来るのだ。
登録すると、その人が最近を始めた時に通知が来たりする。
配信者側としては、その登録者数がある一定以上を超えると様々な恩恵が受けられたりする。そうだ。
僕はまだその水準に達してないから知らない──と思いかけ、そして、同時に僕は幻覚を疑った。
ーーーー
登録者数:57000
ーーーー
そう。五万七千人が僕のアカウントをお気に入り登録していたのだ。
「こりゃあ確かにうん、凄いな。ほぼ六万人って……」
「ホントよね、イライラするわ!」
「どうしてさ」
とはいっても現実味がないというか。
あまりにも急すぎて、実感が湧かなかった。
僕はその大手サイトの端に表示されていたニュースの広告を開いた。すると、それも日本最大級の大手ウェブニュースサイトに飛び、表示されていく。
アクセス数日刊一位のニュースから順に、並ぶようにーー僕の目に映った。
「おお……」
そして、アクセス数日刊一位のニュース。
その見出しを僕はゆっくりと読み上げた。
『フォールセブンが勇者専用ダンジョンにて遭遇した!! 謎の美男子! その正体は如何に──』
……つまるところ、僕は世間的に美男子と評価されてしまったらしい。
えへへ、照れるなぁ。
「いやはや、僕が美男子か。うん。なるほど。このニュースサイトは信用出来る」
「それは信用出来ないわね!」
電話越しに、またしても深い深いため息が聞こえてきた。そんなため息ばかり吐いてたら、幸福も逃げてっちゃうぜ?
「それにしても、この記事面白いな」
僕はゆっくりと記事を読み進めていった。
「面白いの?」
「ああ、お前が発狂していたっていう話をキメ細かく描写してやがる」
「貴方を殺すわ」
「なんて?」
「世の中知らなきゃ良いこともあるの。私に不利益な情報とかね。そんなものをわざわざ教えてきた貴方は、私に殺されるべきだわ」
「なんで!?」
待ってくれ、それは随分と理不尽だし、誤解じゃないだろうか!
僕はそう抗議の声をあげようとするものの、
「明日からの学校、復学直後の覚悟しておきさない」
彼女はそう言って電話を切ってしまうのだった。
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