37『正反対で同じ存在』
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『うぉ、部屋豪華だな!』
『ここって研究所の宿泊施設? ホテル?』
『勇者と相部屋ですか』
『雑談配信来たコレ』
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ホテル内での配信は、自由とのことだった。僕はホテル備え付けのクリーム色の寝巻に着替え、スマホで配信を開始する。
もう11時頃と夜が深いのであまり集まらないかと思っていたが、視聴者数は直ぐに一万人を超えた。凄い。
注目されている事がヒシヒシと伝わってきて、体が敏感というか強張ってしまうな。
「久しぶりです、ホワイトです」
とりま、そんな挨拶から始める。
でもそこから先が思いつかない。
「あー……」
このコメント的に言うと雑談配信──そうだ、なんでこんなことをしたのか。
僕は今まで一度たりとも雑談配信なんてした事がなかった。なにせいつもはダンジョン攻略中に配信していたから……雑談とかする暇はなかったのである。
やばい。
適当に始めてしまった。
何について話そう。
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『おーい、どした?』
『もしかしていっつもダンジョン配信ばかりしてるから、話すことない?』
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視聴者の勘は鋭かった。
どうしよ……。
あ、そうだ。
「今日は僕、冒険者ホワイトに対する質問コーナーを行っていきたいと思います」
配信の種にはど定番なんじゃないだろうか。質問コーナーっていうのはさ。
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『来たコレ』
『ホワイトの強さの秘訣を聞きたい』
『子路里家って知ってる?』
『ゲームとかしますか?』
……etc
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凄え、なんで一般人のことがそんなに気になるのか不思議だ……注目してくれるのは嬉しいけれどね。
ともかくだ。"質問コーナー"という言葉を出した時点で、配信のコメント欄は質問で埋め尽くされてしまった。
答えられる質問には、ドンドン答えていこう。
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登録者数:596000
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めちゃくちゃ色々な質問に答えて配信を終える時には、日付が変わりかけていた。
もう深夜だ。深夜である。僕も今日の疲れが溜まっているのか、眠くなってきた。
「よしっと」
配信終了ボタンを押した。
視聴者数は最高で13万を超えていた。僕変なこと言ってないよな……。
13万人が見ている前で失言なんてしたら、それはもう炎上どころではないだろう。
そう考えると、悪寒が走った。
「というかいつの間にだな、目標登録者数の半分超えてるじゃん」
現在の登録者数は59万人。
僕が配信サイトにて目標としている登録者数は100万人である。
これからも頑張っていこう。
「寝るかな!」
そして眠いし、今日はもう備え付けのフカフカベッドで眠らせてもらうことにしよう。
───コンコン、と。
しかし……ふと、ドアがノックされた。思わずスマホの画面をもう一度見てしまった。
『00:13』。
こんな時間に来客って、おいおい。
とんだ常識知らずもいたものだ。
「つっても、無視するのも忍びないよなあ」
台形のベッドサイドランプだけが部屋の中を照らしている。薄暗く、わざわざベッドに倒れた体を起こすのは難しかった。
でもやはり此処で体を起こせない僕ではない。
「はいはい、今出ますよー」
だからゆったりとした動きで体を立ち上げて、ドアを開けた。
開けた……のだが、扉の先には誰もいなかった。
「は?」
待ってくれ、怖くなってきたぞ……!
僕はこういう心霊系は苦手なのだ。だから次の瞬間、びっくりしたけれど同時に安堵する。
相手は幽霊ではなかったようだ。
「はあ、こわっ」
天井に張り付いついた何者かが、コチラの首を狙って落ちてくる。首を横に移動させて回避、それから体を動かして相手と距離を取った。
細く長い、薄暗い廊下。
ダンジョンよりも狭く、動きにくい場所だ。
「夜中に一人でいるところを狙ってくるとか、どんだけ僕を殺したいのさ……」
黒フードを被るソイツの正体は分からない。すらっとした体型に、左手に持った──短剣。
コレで僕の首を刺そうとしたのか。
ダガーナイフ好きの僕とは気が合いそうである。
「……」
「そりゃ答えないよな」
相手は声を出さないまま、僕に突っ込んでくる。とは言っても松永のような力技ではなく、壁と天井を蹴り上げバネのように突進してきたのだ。
立体的でアクロバティック、こういう局所的な場所でしかできない動き。
──錯乱目的だろうが、僕の動体視力を舐めないでほしい。
「そっちがやる気なら、コッチも本気でいくから!」
いつもの様にダガーナイフを取り出して構え、臨戦体制に……ってあれ?
ダガーナイフが無いッ!?!?
忘れていた。僕は寝巻きに着替える時に、枕元に置いていたのだ。
そして今は、そのままである。
「くそ、素手かよ」
作戦変更──やり合うより、相手を拘束するべきだ。
黒フードが天井を蹴り上げて眼前に迫る。短剣の先端をコチラに向けて弧を描く様に、今にも突き刺そうとしてくる。
……その刺突を前に進むことで避け、相手の脚を掴む。
そのまま、長い長い廊下の中でぶん投げたっ!
相手は受け身をとってくる。
気絶させる勢いで投げたが、加減が過ぎたのだろうか。
にしてもココまでやれる実力者って……何者だよ。もしかして松永が起きて、拘束を解いたりしたのか? いやいや、アイツはこんな動きをする様なやつではない。
でも国指定冒険者レベルの実力者であることに変わりはないだろうな。
「もう一度やるか?」
僕がそう言うと、相手はクナイを3本投げつけてきた。物凄い速度で、しかも避けにくい……胴体と頭、避けた先となるであろう場所に投げつけていやがる。
間違いなく策士だ。
やはり僕の命を狙う国指定冒険者だろうか。
「でも、まだ僕を倒すには足りねえよ」
クナイの先端に触れないように、根本を脚と素手で弾き飛ばす。これで直接体に当たるヤツは弾き飛ばした───後はひとつ。
避けた先の軌道にあったクナイは壁に当たって、突き刺さらずにコチラへと跳ね返ってくる。
音で判断し、僕はそれを回避した。
鉄の武器が床に落ちる。
「やるじゃないか、アンタ……」
クナイを手に取って言う。
先端には毒が塗ってある可能性が高いため、根本を持って。
「だが僕に武器を持たせた時点で、アンタの敗北は確定したけどね」
と。
「はっ、降参だなこりゃあ」
そこで黒フードの男は、フードを外し両手をあげて初めて声を出した。息切れの音すら聞こえてきていない。
まだまだやろうと思えば、出来るのだろうが。
「……アンタは?」
知らない人だった。
「夜中の来訪には注意した方がいいぜ、後輩」
僕と同じ少年のような顔立ち。
赤を基調とした髪に、若干白が混じっている──声も若かった。
「あ? もしや、俺のこと誰だか分からない? いやまじかー」
「急に命を狙ってくる先輩なんて、記憶にないよ」
本当である。
しかも、ここまで動ける奴なんて……。
「アンタも国指定冒険者か?」
僕は静かに、廊下に立つ赤髪の少年へ聞いた。
「残念ながら違え、つーか、あんな力技野郎共と一緒にして欲しくねえのよ。俺はさ」
「はあ」
「そもそも今……お前の命を本気で狙っている国指定冒険者だったら、こんな正面から戦わねえだろ?」
「そりゃそうだ。普通は寝ている最中とかを狙うと思う」
「だろ?」
じゃあ尚更、この人が誰だか分からなくなってきたのだが。
「ま、俺は俺様だよ。俺はお前の先輩だよ。俺はお前と同じだよ。───よう、正反対の"最強"」
意味の分からない自己紹介から始まった。
少年は僕と鏡合わせの正反対。
最強と最強の同様、頭脳の物理の正反対。そこで生まれる初めての──親友にして同じ僕。
これが僕とコイツ、これから長く続く付き合いとなる少年との出会い。
意味の分からないはずの自己紹介なのに、どうしてか僕は分かってしまった。
「……ッなるほどね、理解したよ。最強頭脳」
「分かったならいいぜ、物理最強」
そこに立っている少年はそう、
勇者が信頼出来ると言っていた、国際ダンジョン研究所ナンバーワンの地位を持つ──天才少年にして、
"『"最強頭脳"』"の、
黒町であった。
「このサプライズは肝が冷えたんじゃねえか? 俺も頑張ったぜ、物理最強にドッキリを仕掛けるのはよ。昼飯前ぐらいには」
どうやら彼が、勇者と三宮の話し合いの時に出てこなかったのは……姿を現さなかったのは……僕にサプライズをする為だったらしい。
───アホか。
それはとってもふざけている。
そして実に、それは僕の趣味であり……興が乗る出来事であった。
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