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34『少年の着ぐるみに需要はありますか』

 

「ほら、これとかどうじゃ……」


 ライオンの着ぐるみで着飾る──紫髪(神でもある)の子。三宮は、無数のぬいぐるみが掛けられたクローゼットで物色しながら僕に聞いてくる。


 お前も着るのだ。

 それなら、どれが良いか選べ……と。


「それなに」


「最近流行りの、魔法少女とかじゃったかの」


「魔法少女は趣味じゃない」


 ココは国際ダンジョン研究所の──あの立方体メインフロアから通路という通路を歩き到着した奥深くの試着室であった。

 なんでダンジョンの研究をする機関に、試着室とか用意されているのか。


 頭沸いてるのではないか、と僕は若干疑っている。


「趣味じゃないとは言っても、インパクトはあるじゃろ。えーっと、城里は配信者なのだから……ばず、ばず、バズる? んじゃかいかの」


 それはそうかもしれないが、なんだか恥である。いや決して僕は着ぐるみ好きを馬鹿にしているわけではなく、自分がそれを着用するのが嫌だという話であった。


 そもそも前提として、僕は三宮の『着ぐるみを着るか?』という提案に承諾した覚えなどない。

 三宮が勝手に進めているだけだ。


「じゃあこれはどうじゃ!」


 白と緑カラーの龍の着ぐるみか。


「可愛い」


「ではッ!!」


「でも却下かな」


 悪いが、可愛い系は好みじゃない。


「ガーン……なのじゃ」


 三宮は頭を垂れて、それから首を左右に振って唸っている。

『ぐぬぬ、どうしたものかの。なんとか着ぐるみを着させなければならぬ』

 そんな執念が、彼女の体からは滲み出ていた。


 どんだけ僕に着させたいのかね。


「じゃあ聞くのじゃが、城里は何が趣味なのじゃ。何の着ぐるみ趣味なのじゃ」


 まず僕は着ぐるみが趣味じゃない、と言えばそこで話は終わりだろう。でもそれだと、色々と話をしてくれた三宮に悪い思いをさせてしまう気がする。

 それに純粋に、このまで断っていると可哀想だ。


「そうだな……」


 だから、僕は考えてみる。

 趣味──強いて言えば、どのような着ぐるみを着る事は許せるのか。


 彼女が見つめるクローゼットに吊るされた着ぐるみ達を眺め考えてみる。


 ドラゴンやワニ、恐竜、カエル、多種多様な着ぐるみが揃えられている。

 あれ、この場所ってダンジョンを研究している所だよな……? 実際それは名前だけで、実は着ぐるみ集め研究所ですと言われても納得しそうなのだが。


「僕はカッコいいのが好きなタイプの少年だからな。やはり」


「さっきの龍も見方によってはカッコいいのじゃが」


 そうではなくて、コレが良い。

 一つの着ぐるみに右手指の先端を向ける。


「熊のぬいぐるみ?」


「そう。これ、なんか牙がカッコいいし……なにより熊だぞ? 熊は怖い。怖い物には憧れるってこと」


「そ、そういうものかの? 最近の若者はよく分からぬな」


 黒色の剛毛が全身に生えた、小さめのクマの着ぐるみ。何をモチーフにしているのだろうか。

 クマ───ツキノワグマだろうか。


 猪型魔獣ファンゴルとどちらの方が強いのか気になるな。……思えばダンジョンで、クマの魔獣とはまだ一線も交えたことがない。

 強そうだし、自分の剣の修行になりそうだし、ぜひとも戦ってみたいものだ。


 剣有りで。


「まあ、ともかくこれで構わない」


「──ワッシとしても、着ぐるみを着てくれる事はなにより嬉しいからの! 感謝じゃよ」


 そんな訳で、僕は熊の着ぐるみを試着してみるのであった。



 ◇



 息苦しいので──せっかくなのに悪いが、頭の部分だけ外して着ぐるみを着てみた。

 とにかく暑く、動きにくい。

 これを着用したままの戦闘は困難だろう。不可能ではなくても、難しくなるはずだ。


「こんな密室の中で着ぐるみってよくよく考えたらヤバいじゃん……暑くて溶けそうなんだけど」


「大丈夫じゃ。慣れるのじゃ」


「──アンタは熱中症を甘く見とる」


「だって、ワッシは人間じゃないからの。熱中症にはならないのじゃよ」


 ……こいつ、ぶん殴って良いかな。

 僕は相手がロリ(高齢)だからといっても、容赦しないからな。

 普通に泣かせる気で攻撃するからな?


「でもまあ、お主よ」


「なにさ」


「似合っていて、カッコいいのじゃよ」


 急にドストレートで褒められてしまった。

 やだ、恥ずかしいわっ!

 最近は誰と話しても罵倒ばかりされてきていた様な気がしたから、僕は今とっても新鮮な気持ちです。

 はい。


「うぐ」


「なんじゃ顔を赤らめて、もしやワッシに褒められて恥ずかしがっておるのか?」


 バレてしまった。


「……あぅ」


 だってよくよく考えてみれば、やはり羞恥心って隠しきれなくないか? 


 別にこんな趣味がある人間では僕はないし、もう高校生なのに──子供みたいな着ぐるみを着て、ちょっとばかりではないぐらいに恥ずかしいぞ。


「ちょっと聞いて、城里っ!!」


 僕が恥ずかしがっていると、

 試着室の扉が勢いよく開けられてしまったので──羞恥心も相まってとても驚いてしまう。


「あわあわあわあ……」


 ドアの先にいたのは、秋元奈々(ゆうしゃ)であった。


「って、城里?」


「な、なにさ。秋元」


 驚いていたのは、どうやら僕だけではなかった様子だ。秋元も同じくこの光景に驚いていた。

 呆然とその場で立ち尽くし、それから聞いてくる、


「……二人で着ぐるみ着て、何してんの?」


「いや、ただ着ぐるみを試着してただけ……だが」


「は?」


 頭にクエスチョンマークを浮かべる秋元。あ、そうだ。良いことを思いついたぞ。


「そうだ秋元──アンタも着るぞ、着ぐるみを」


「は? え、ちょ、……はい?」


「ほら早く!」


 そんなわけで半ば無理やり、いいや無理やり、秋元にも着ぐるみを着させるのだった。

 因みに彼女に着させた着ぐるみは、恐竜のものである。

 魔法少女の奴を最初僕がおすすめしてみたが、残念ながら断られてしまった。


「恥ずかしいわ……」


「我に帰った。僕は一体、何をしているのだろうか」


 少し時間が経って、我に帰る僕。羞恥心で顔を赤らめる秋元。そんな僕たち二人を見て、ニヤける三宮。


 最後に僕たち三人はこの着ぐるみ姿で記念写真を撮り、許可を貰ったので写真や文字がメインのSNSに初投稿してみるのであった。

 ……僕は配信だけしていて、動画系以外のSNSは使用した事がなかったのである。


 というわけで、


 城里学。

 冒険者ホワイトの文字系SNSデビューである。


 後にこの記念写真は、SNSで大反響を呼ぶのであった。


ここまでお読み頂きありがとうございます!

ランキング駆け上がってみたいです!! 良ければ広告の下から【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、続きを書いていく励みになるのでよろしくお願いします!!

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