03『大人気配信者兼勇者、視聴者数で僕に負ける』
「ど、どうしてどうしてどうしてえええ!? ぜったい、私の視聴者を買収したでしょこれ!?」
僕の携帯画面を盗み見た秋元の、最初の第一声はそれだった。
全く。普段の態度は変わって、うるさいやつだ。
「してない」
僕は即座に否定した。
視聴者を買収する悪質な配信者がいる、という話は聞いたことがある。
だがそれにはまず大金が必要だし、僕はその前提を満たせていない為にそんなことは出来ないのだ。
出来るわけがないのだ。
「嘘つけ! この嘘つき! 私には分かるわよ、私は騙せないわよ!」
「いや知らないよ」
「ぁあ、頭が混乱するし困惑中よ! まずアンタが此処にいる時代意味分からないし! この視聴者数もなによ! 始めたばかりで私を上回って!!!!」
僕だって困惑しているんだ。勘弁してほしい。そう思いつつ、携帯を一瞥した。
大量のコメントが波のように押し寄せてくる。
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『修羅場! 修羅場だぁぁああ!!!』
『やっと気付いた(笑)』
『フォールセブンさんは、こんな驚き方するんですね』
『萌え、その一言に尽きる』
『というかここ勇者専用の超高難易度ダンジョンなんだろ? やばくね?』
『↑てことはさ、勇者は百年の間で一人、一人しか存在出来ないていう話あるけど、あれは嘘でーーこの城里さんも勇者なんじゃね!?』
ーーーー
このように、大繁盛中だった。
なるほど。配信というのは、こういうものなのか……! 僕はなんとなく理解したような気がした。
「ちょっとみんなー! この人の配信なんて見ないで、私の配信に来てよ!!」
懇願するように涙目で、勝手に女勇者は僕の配信に乱入してくる。
おいおい。
この配信は、僕の領域なんだぜ? それを忘れてもらっては、困る。
「おーい、勝手に僕の配信に乱入するなよな」
「もうずっと前から乱入していたもんなんだから、別にこの際いいじゃない!」
「なんでそんなに泣き気味なんだよ」
「あんたなんかに負けて悔しいのよ!」
はぁ……因縁みたいなのを感じるのは、あんただけだと思うんだけどな。
「あんたなんかにって、中々酷くないか!? 僕だって頑張ってるんだぞ配信!」
「配信初めて一日目で、頑張りましたって私のこと馬鹿にしてるの!? 私は三年前から始めてるんですけど!!!!」
そりゃあ、ご愁傷様だな。
「イライラするなよ、本当にさ。余裕を持つって大事なことだと思うぜ? 僕が言えることじゃないが」
「本当に貴方が言えることじゃないわね!」
「落ち着け、フセンちゃん」
「馬鹿にするなあああ!!!」
彼女は急に立ち上がったかと思ったから、僕を押し倒してくるではないか──。
「おい、何をする! やめて! 犯される! やだ、お嫁に行けないわ!」
「キモい!」
フセンは毒舌だった。
ライオンのような恐ろしい形相で、彼女は僕に馬乗りになってきたのだ。その途端、女勇者は勇者にあるまじき行動に出た。
僕に殴りかかってきたのだ。
「痛い!」
「キモい!」
「痛い痛い痛い痛い!!!」
「キモいキモいキモいキモい!!!」
なんで。どうして、こんなことになってやがるのだ。何故僕は彼女に殴りかかられなきゃいかんのだ。
「ど、どうして僕を殴るんだ勇者! 僕は特にあんたを、お前を怒らせるようなことなんてしてないし……これ、配信されているんだぜ? って痛い!?」
僕の弁解に聞く耳を持たない、付箋勇者。
フセンは、本当の付箋みたいに切れやすかったのだ。
いや知らないし。
そんな冗談言う余裕、今の僕にはないけどね!
いや、あるのかもしれない。
「痛い!」
「そんなの決まってるでしょ、色々なことで立て続けに私を困惑させるは、私の名前を"付箋"って馬鹿にしたり!」
なるほど。
フセンと呼んだことが、彼女の逆鱗に触れてしまったようだった。
心の琴線に触れたのだ。
人間はどういうことで怒るのか、分からないもんだな。
「あ」
その時、ふとジーパンのポケットに入れていたスマートフォンが地面に落下した。
落ちていないかと不安になって、彼女の暴力に耐えつつソレを微かに覗いた。
そこには、丁度充電が0%になり、電源が切れる寸前の画面が映し出されていた。
配信は自動的に中止されており、僕は絶望する。
やべ、これ終わった。
配信が切れてしまったら、彼女はもっと僕に対して暴力を振るってくるんじゃないだろうか!?
「城里学の人生〜完〜」
僕はそう言って、先程の彼女みたいに目を瞑るのだった。
それから。
それから、また一悶着あって取り敢えずダンジョンを抜け出したのは数十分後の話だった。
それはまあ、次の話で語るとしよう。
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