27『進む』
『グルルルルゥぅ──‼︎』
「うおっ、こりゃあかなり爽快だな!」
さて、今の現状を説明するとしよう。
単刀直入に言えば、はい。……僕は暁ヒナと一緒に、彼女の《魅了》で操ったファンゴルに乗っていた。
そして馬のように、洞窟の中を駆け抜けていく。
「あの、肩がめちゃくちゃ痛いからさ……あまり速度は、ね?」
「いやいける。いけるだろ、もっと!」
「いや、これガチだからね──痛っ!?」
前に座っていたヒナがよろけて、ファンゴルから落ちそうになる。
「あぶなっ!?」
後方に座っていた僕が咄嗟に彼女の両肩を掴んで、元の位置に戻した。
「ありがと……」
「例には及ばない。というか、こんな所で落ちて死なれちゃ」
助けた意味がないだろう、って話だ。
肩を怪我しているとはいえ、暁ヒナはかなりの実力者である。
僕がどれだけ強かろうが、一人だと心細い。だから彼女がいてくれた方が安心できるわけ……。
「にしてもアンタ本当に大丈夫なのかよ、その怪我で……2階層、3階層を突破できるのか?」
「出来るか出来ないかじゃなくて、やってやる。ってこと」
その言葉を聞いて、僕は少し驚いてしまった。
……まじか。
暁ヒナがそんなことを言い出すなんて、柄じゃないな。
別に彼女を深く知っているわけじゃないが。
それでも、根性論的な発言はしないものだと思っていた。
「若干……意外だな、いいや、かなりかも」
「だって、そうすしかないじゃん」
なんで?
「だって、君は私のことを疑っているでしょ?」
このダンジョンに僕たちは、4階層で起こった異変の調査に来たわけだが──。
"余計な詮索はするな"という含み笑い。
ネオイロス・ライトの2階層で、暁ヒナと出会った時、僕は確かにソレを感じたのだ。
しかし、緊急事態のあの時に優先すべきは生命線の確保だったから……変に口出しをするのは諦めたのである。
少なくとも次にその話題を出すのは、
"ダンジョンでとある冒険者が変死したのは、アンタの所為か? "
と尋ねるのは、4階層に行ってからだ。
……なんて考えていた。
なのに。
「そりゃあそうだけど。なに、随分と急だね」
「わだかまりは早いところ、取っ払う方がいいじゃん?」
「払えるならな」
それなら、その方がいいだろう。
勘違いは時と場合によっては、最悪な状況を生み出したりするし。
つーか、そんなのザラにある。
ファンゴルに二人乗りし、どんどん洞窟の奥に潜っていく。
「……」
彼女はとたんに押し黙ってしまった。
まさかと思うが、疑惑を払拭させる何の持ち合わせもない状態で……こんな話を切り出したのか。
それなら暁ヒナという少女は、僕が思っているよりもずっと──アホでバカなのかもしれないな。
笑えるな!
「実はね」
「ああ」
「どうやって疑惑を晴らそうとか、そんなのは一切考えてなかった」
やはり馬鹿だった。
筋金入りの。
「じゃあなおさらだよ、なんで急にこの話を──勿論、さっきの話は聞いているし、僕も勘違いとかは早めに無くした方がいいのには共感するけど」
なおさら、彼女のことが分からなくなってきた。
くそう。
ただのダンジョン攻略オタクの僕に、暁ヒナを攻略するのはちょっと難しすぎるぜ。
……あの絶壁勇者さんなら、ともかく。
「いやね。一応、私は違いますからねって意思表示しとこっかなって」
私はやっていないし関係ないよ──ということね。
「はあ」
「一応、君に助けてもらっちゃったわけだし。命の恩人だし?」
どうやら、彼女にも感謝の気持ちというものがしっかりあるらしい。
ちょっと見直した。
「そうか……っと」
叩いて合図し、ファンゴルを止める。
「行き止まりだね」
「そうだな、この感じだと。うん。多分引き返せば、先に進めるってパターンだろうな」
流石は夢迷宮なんて呼ばれているだけあるというか、本当に……ただの迷宮だ。
モンスターがそこら中にいるような構造じゃないから、いつもやっている力任せの攻略法じゃ通じない。
僕もいつか、力任せを卒業したいモノだ。
「じゃあ引き返そうか」
「ああ……って」
「うわわわわ!?」
ふと、突然───大きな揺れが洞窟を襲う。
ゴゴゴゴゴと音を立て、砂塵が宙を舞う。
「まずいかもしれない」
「えっ?」
まずいどころじゃない。
ヤバい。
天井の岩々が崩れるッッ!
「……天井が崩れるぞ。走れ、ファンゴルっ!」
急いでファンゴルを走らせて引き返す、その先に何があるかは知らないが……ここで押し潰されるようりは、きっとマシだろ?
『グルルルルゥッッ!!!』
全速力で暗闇を駆け抜けていく。
「笑えない!」
「ねえ、天井から岩が落ちて来てもさ。その、君がナイフで吹っ飛ばせたりはしないの?」
「笑えない冗談はやめてくれ──僕をなんだと思ってる」
「人外」
まじかよ。
「そりゃ心外だぜ。あと、僕だってそこまで万能な人間じゃないわけ。分かるか?」
「分からなーいでーす」
……やっぱり気が変わった。
ここで、ヒナを叩き落としてやろうか。そうすれば、その後のダンジョン攻略は楽になる。
───なんてのは笑える冗談で、
今はとにかくこの状況を打破しなければならない……!!
◇
ほぼ同時刻、ダンジョン3階層──フロアボス・エリアにて。
「ねえ、ななっち?」
「何かしら」
「城里クンを置いていって、しかもズンズン進んじゃって良いのかなあ」
勇者と死神は、はぐれてしまった冒険者ホワイトを2階層に置き去りにし……
今にも4階層へ足を踏み入れようとしていた。
大きな振動を起こしながら、目の前にいた赤い鱗をした火龍が倒れていく。
「良いの良いの。蛍は気にしなくて良いわ。アイツはこんなところで死ぬ奴じゃないわよ」
もしこのダンジョンに殺される程度の男なら、
だって既に私が殺しているもの──。
秋元奈々は心の中でそう付け足した。
「そっかあ、そうだよね。めちゃ強だもんね、城里クンは!」
……しかし、勇者たちはまだ認識していない。
このダンジョンの特異性を。
何故『中』危険度のダンジョンだというのに、未だ完全に攻略されていないのか。
その理由は単純だ。
───"ネオイロス・ライト"。
このダンジョンに、"最下層"はない。
とてもお久しぶりです。
色々としたい事が落ち着いてきたので、こっちの作品も再開しようと思います。
流行は過ぎ去ってしまったような気がしますが……。
ここまでお読み頂きありがとうございます。
ランキング駆け上がってみたいです!! 良ければ広告の下から【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、続きを書いていく励みになるのでよろしくお願いします!!