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25『閃き』

 


「……痛っ」


「少しは我慢してくれよな」


「我慢してるんだけどなあ、心外」


「黙っててくれよ」


 ひたすらに逃げて辿り着いたのは、見知らぬフロアだった。ザ・洞窟的な───薄暗い、そして凹凸の激しい岩と岩の組み合わせで出来た開けた場所。


 お姫様抱っこをしていた暁ヒナを、ゆっくりと地面へと下ろす。


 岩の壁に腰をかけさせるように。

 矢が刺さった肩に、出来るだけ痛みを掛けないように。


「アンタは、回復魔法が使えないのか」


「私のこと、煽ってるの……」


 痛みに耐えつつ、だった。彼女は僕に対してそんな問いをしてきた。


「どうしてさ」


「回復魔法ってのは、覇級バーテクスなんだけれど」


 バーテクス。

 覇級バーテクス

 ……確かそれは、魔法の等級の中で一番上だったはずである。回復魔法ってのはそんなに難しくて規模がデカいものなのか。

 僕は此処で、それを初めて知った。


「暁ヒナの初耳学」


 ぼそっと、口にする。

 いやはや……心なしか、暁ヒナが僕の事を睨んできた気がした。もしかして聞こえていたんだろうか。

 ま、僕として馬鹿にしたわけじゃないし、やましい話でもない。

 つまり聞かれても、怒られる筋合いはない!


 ……のだけれど、しかしやはり他人にとって、何が心の琴線に触れるかは分からない。


 だから、このような言葉はあまり口ずさまない方が得策だろう。


「何か言った、きみ?」


「……何も言ってないさ。それより、覇級バーテクスの魔法なら回復魔法とやらは使えないな」


 もとより、僕はどうなものでも魔法というだけで使えないのだがな。魔素がない僕には、魔法の難易度の問題以前で──前提条件が達成出来ていないのだ。


 悲しいが、それが現実だ。


 じゃあ、どうすればいいだろうか。

 僕は彼女を見下ろしつつ思考する。彼女の肩に入った傷はかなり深い。


 出血を止めるために、服でも破いて縛ろうとも考えたが……その方法を肩に当て嵌めるのはちと厳しいところがあった。


「どうすればいい」


「……私のことを置いてけば、いいんじゃん?」


 悩む僕に、暁ヒナはとんでもない事を言い出した。


 ……おいおい。

 それは僕のことを侮蔑しているのか?

 僕の事を人殺しにでも仕立て上げようとしているのか?


「悪いな。その選択肢は、初めから無い」

 僕は言った。


 そうなのである。

 じゃなきゃ、あのアンデットたちに囲まれていた時──わざわざコイツを抱き抱えて走ろうとなんてしないだろうよ。


 そう。

 自分自身に言い聞かせた。


 最悪、傷を治す必要はない。

 彼女が動けるようになれば良いのだ。

 しかし、それをどうやってやるか。


「……魔法マジックアイテムは使えるか? 『脱出の煙』を」


「君、知らないの。このダンジョンは常に薄い霧が張ってあるせいで脱出の煙は使えないんだよ」


「暁ヒナの初耳学(二回目)」


 これなら切り抜けられると思ったんだが、ダメだった。どうやこのダンジョンでは脱出の煙は使えないらしい

 つまり緊急事態に陥ったら、頑張って自分の足で引き返さなきゃいけないわけか。


 ……待ってくれ。

 それならば、そうだとするのならば、今の僕は相当に危険な状況におかれているのではないだろうか。


 逃げれない。

 一人は負傷。

 僕の仲間二人とはぐれた。

 食糧は、大して持ってきていない。

 配信は繋がらない。


 誰がどう見ても、絶体絶命であった。


 くそう。どうすればいいんだ───。


「あ」


 あ。


 そこで僕は思いつく。

 簡単な事だった。


「そうだ暁ヒナ」


「なに」


「《魅了マリオネット》ってさ、魔物にも使えるのか?」


「それはどういう」


 どういう意味、ってか。


「魔物を操る事は出来るのか? ということだよ」

 だから、そう説明する。

 そして、そう聞いた。


 はてさてさては──質問ソレは、どのような答えを持って返ってくるだろうか。


「一応、出来ると思うけど……生物だし。でもなんでよ」


「それなら話が早い」


「は?」


「アンタは今、直接動くことはできない。肩の傷が痛むからだ。かといって脱出の煙で逃げることも出来ない」


 僕は多分いま、本当に自信満々な表情を浮かべていることだろう。逆にそれ以外想像つかなかった。

 暁ヒナに対して指を指す。


「ならば、出来ることは一つだ」


 そうだったのだ。



「アンタが、"ライダー"になる。そう。それだけだ」



 僕の考えは、こうだった。


 彼女は自分自身で動けない。

 ならば、彼女は自身のスキルで使役した魔物に乗せてもらい、"その魔物に動いてもらえばいいじゃないか"。


「へえ」


 少し悩む彼女であったが、次の瞬間には不敵な笑みを浮かべていた。そして、いつもの挑戦的な声色に──、


「良いね。君って、もしかすると私と同じぐらいには天才なのかもね」


 変わっていた。

 のだが、そこには微かにだが、今までにはなかった『尊敬』のような感情が籠められているようにも僕には感じ取れるのだった。




ここまでお読み頂きありがとうございます!

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