24『なんでアンタが此処にいる?』
「なんでアンタなんかとここで会わなきゃいけないんだ?」
「それは、こっちのセリフなんだけどねぇ」
「こっちのセリフさ」
「こっちのセリフ!」
暁ヒナ。
何で彼女がここにいるのか。何をしていたんだ。そのように聞きたいことは沢山あった。
まず最初に、彼女は一人でここにいた。
……勇者から聞いた話から察するに、暁ヒナはパーティで動いているもんかと思ったんだけどな。
違ったのである。
「なあ。アンタはここで」
僕は質問しようとした。
のだが、彼女がそれを遮ってきた。
「君さ、可愛い女の子のファンは出来た?」
その言葉を聞き、彼女と勝負した時のことを思い出した。そう言えばこの人と模擬戦をやるキッカケになったのが、模擬戦をすれば『僕に可愛い女の子のファンが付くかもよ?』とかいう現金な魅力だったのだ。
それをわざわざ、今聞いてくる彼女は性格が悪い。それにその答えぐらい、彼女なら走っていそうであったし。
「そんなことを聞いてどうするのさ」
「どうもしないけどねえ、気になるじゃん? ねえ。教えてよ?」
「ぐぬぬ。出来てない、よ」
僕がそう言うと、悪女は予想通りの反応を見せた。
『やっぱりね』。
と僕を煽るような表情である。
……くそう!
事実なので反論出来ないのが、悔しいところだ。
「そっかそっか、やっぱりそっかー!」
「それより僕は聞きたい。なんでアンタがこんな所に一人でいるんだ」
「え?」
それよりも、僕はそれを聞きたいのだ。自分自身への煽りを真正面から受け止め、その上で言う。
「あんたにはパーティーがあると聞いた。普通、ダンジョン攻略する時にはパーティーメンバーといくもんなんじゃないのか?」
こちらの質問にどう答えるのか、彼女は窺っているようだった。空白の数秒がそこにはあった。
「うん、そうだよ」
そして熟考の末に、ヒナは答えを出す。
どうやら本当にそうだったらしい。
そうなると、彼女も僕と同じ状況なんだろうか……?
「パーティーメンバーと一緒にこのダンジョンを攻略していたの。だけどこの洞窟の霧ではぐれてしまった。これでいいかな?」
"お前は随分と私のことを怪しんでいる"。
"それは分かっているよ"。
"この話には筋が通っているから、何も言えないだろう?"
そんな有無を言わさない雰囲気が、彼女の表情の裏側には籠っているように思えた。
……僕は黙って、そして記憶の中から一つのお話を取り出す。勇者が言っていたことを思い出す。
このダンジョンの4階層で、配信者兼冒険者の男が餓死(あくまでも暫定的には)をした。
正確には、不審死。
そしてその男はダンジョンに潜る前、ある冒険者パーティーから魔法アイテムを盗んでいた。
そして盗まれた冒険者パーティーこそが、今目の前にいる悪名高い暁ヒナのパーティーである。
と。
しかしこの話を本人の前で思い出すのは、いささか危険が伴うだろう。
だから僕はこのへんで止めにした。
「奇遇だな。僕も勇者たちと此処を攻略してたんだけどさ、このおかしな霧のせいではぐれてしまったんだ。一本道なのに。おかしいと思うよな」
だけど、僕は決して警戒を解かなかった。
彼女のことを目を細めるぐらいに警戒して見続ける。まあそれはアチラも同じことだったのだけれどね。
あっちとしても、僕のことを警戒している様子だった。
「無知な君に教えてあげるけど、このダンジョンの霧は特別なものだよ。だから、はぐれてしまうのは仕方がないの」
何が仕方がないのかは見当もつかない。
しかし、それはこの際なんでもよかった。
そんなことよりも。
「無知、って言うけどな。アンタはそんな無知な冒険者なりたてな少年にボコボコにされたんだぜ?」
無知。と言われたのが、何故か気に食わなかったのだろう。僕は無性に彼女のことを煽りたくなってしまった。
まだまだ僕の心も、子どもらしい。
いや、まだ十六歳なのだし体の方も子供なのかもしれないが。
「へぇ、喧嘩売ってるの。君」
「それは、受け取る側の解釈次第。だろうさ」
「……別に私としては、此処で《魅力》を使っても構わないんだよ? ここでそれを使えば、君は前みたいに避けれないと思うけどね」
僕は無言でダガーナイフに手をやった。
彼女がスキルを使おうとすれば、その前に僕が叩き斬ってやるぜその体を──という意思表示である。
「今はスマートフォンが圏外で配信もストップしてるし、やりたいならやっても……構わない」
そして僕はそう言った。
今にも戦いに発展しそう。
そんな折──洞窟の奥から、何かが歩いてくる音が聞こえたのだ。
そしてそれは、またしても人だった。
「あ」
それは、どちらかの仲間だろうと。
僕は思った。
きっと暁ヒナも思っていたことだろう(この人の考えていることは基本的には不明瞭だが、その思考だけはリンクするように伝わってきた)。
───グサッ。
それも束の間、続いてそんな音が響いた。
「え?」
そして僕は見た。……暁ヒナの右肩に、洞窟の奥から飛んできた矢が突き刺さる瞬間を。
「痛ッ!」
途端に彼女の肩から血が流れ出し、ゴスロリを赤く染めていった。彼女は痛みを我慢しているのか、その場で膝をついた。
……あまりにも唐突すぎた。
しかし、理解した。
洞窟の奥にいた人は、僕たちどちらかの仲間ではないし、そして人ですらなかった。
そう。それはゆっくりと、骨を鳴らしながら歩いてきた。
それは、所謂"骸骨兵士"だった。
そして弓を持っていた。コイツがヒナに攻撃を仕掛けたのだろう。
しかもソイツらはタチの悪いことに一体ではなく、数十体もいた。列をつくってコチラへ進軍してきていたのだ。
「くそ!」
僕は彼女を一瞥する。
暁ヒナは目を瞑り、歯を食いしばり、右肩を左手で抑えていた。
到底一人では動けそうになかった。
──こりゃ、まずい。本当にまずい。
このまま彼女を置き去りにして逃げる事は、多分簡単ではないが、さほど難しいことではないだろう。
だがそれは、暁ヒナを見殺しにすることを意味する。
それは僕にとって、自らの手で人を殺めるのと同じような感覚だった。
だから……そんなことはしたくなかった。
逡巡はない。
僕は急いで彼女の元へ駆け寄り、そして。
「痛いっ!」
「ちょっと痛むのは我慢してくれよ……! 助けるから!」
「きゃっ!」
暁ヒナをお姫様抱っこした。
そして彼女を大切に抱き抱えたまま、元来た場所へと全速力で走り出す──!
背後から数本の矢が高速で飛んでくる。
全速力で走りながら後ろからどのような軌道で矢が飛んでくるかってのを確認するのは、流石の僕でも不可能だった。
だから、矢に当たるのを覚悟したのだが。
「右に避けて、真ん中と左に矢が飛んでくる……」
その必要はなかった。
傷が痛む中でも暁ヒナがそう教えてくれたのだ。頑張って、彼女は彼女なりに協力しようとしてくれてるのか。
彼女の視界から確認出来る矢の軌道を、僕に教えてくれた。
僕は彼女の指示に従う。
すると、見事に矢を避けることができた……!
「次は左、」
「次は真ん中」
「全方位から、姿勢を低くして……」
と。
「っ、まぁなんとなく予想はしてたけど。帰り道がなくなってるな……構造がめっきり変わってやがる」
暁ヒナの協力のおかげで。
僕たちは取り敢えず、アンデットの大群から逃げ、更にダンジョンの奥地へと潜っていくのだった。
まずは、彼女の肩の傷を治す方法を見つけなくてはならないだろうな……。
そろそろ夢迷宮のダンジョン編も中盤、佳境です!
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