21『遭遇』
渓谷を落下している最中。コウモリが僕の目の前へと、迫ってきていた。それも一匹だけじゃない、大量にだ。
一匹だけなら楽に対処出来ただろうが、目に見える範囲でも……僕を狙うコウモリの魔物は数百といた。
「……っ!」
腰にかけていたダガーナイフを取り出して、一番最初に僕へと飛び交ってきたコウモリの翼を切り裂く!
その一匹は飛ぶ翼を失い、
「ギャァ!?」
渓谷下の溶岩川へと落ちていった。
それだけで済めばいいものの、僕に暇を与えることなく、コウモリたちは我が先と突っ込んでくる。
流石に一人での対処は厳しい。
十匹ぐらいが、同時に僕の眼前まで羽ばたいた。
「私に任せなさい」
秋元が魔法を使い、異空間から聖剣を手に取った。そして光り輝く聖剣を振るう。
黄金の刃だった。
聖剣が剣を横に振るうと、光となって可視化された斬撃が威力を持ち、コウモリの群れを殲滅させていく。
"魔法+聖剣"でしか出せない技なんだろう。
凄いものを見た。
それに続いて梅雨坂も援護してくれた。
「行きますよ、私の魔法も!」
無詠唱魔法を得意とする彼女には、スピードがあった。ただ魔素を集め凝縮し放つだけの、基礎的な攻撃を尋常じゃない速度で繰り返していく!
まるで光線銃だ。
近未来的な光が飛び交う。
「うおお、凄いな……」
僕はその景色に感動した。
梅雨坂の光線。魔素を凝縮することで、様々な色に光り輝く濃縮エネルギーを一点に放つ。
そんな攻撃は、七色で綺麗だったのだ。
コウモリの群れが蹂躙されていく。
……僕も負けてられないな。
「やってやるか」
そう思ってダガーナイフに思いっきりの力を込め──その刃で攻撃するのではなく、団扇のように風を仰いだ──。
他の風を巻き込んで、大きくしていく感覚で。
体重全てをかけて。
野球選手の如く、勢いよくダガーナイフを振る。
──いけ!
非常に小さなバットだ。
だから、仰げる風も微量なものだが。
それでも、コウモリの群れを全滅させるには充分だったようである。
コウモリの魔物。その大半は僕が仰いだ風に押しのけられ、壁に激突し即死したようだった。
残党も生き残れたとはいえ、瀕死の状態に陥っていた。
窮地は脱した。
僕はそう思いつつ、秋元が見つけてくれた地面に向かって宙を泳ぐのだった。
ふぅ、びっくりした。
……本当に。
◇◇◇
浮遊魔法を解除してもらい、僕たちは渓谷の深部を歩いていた。これでもまだ1階層と言うのだから信じられない。
それにしても、ここは地上よりも暑かった。
すぐ真横に溶岩の川があるせいだろう。
……まあそれは、僕たちにどうする事もできない案件なわけだが。
「はあ、びっくりしたな」
「ええ、びっくりしたわ。貴方の人外っぷりにね。なによあれ! 魔法を使わずに、ただ団扇みたいにナイフを使って、ほぼコウモリを壊滅させちゃうなんて」
「別に大したことじゃないさ」
「大したことよ!」
それよりも、だ。と僕は話題を変える。
「それよりも、これからどう進むよ」
僕は聞いた。
「……どうって、次の階層へ続く道を探すしかないわよ」
「それはそうか。確かにそうだな」
僕はスマートフォンで配信の様子を確認してから、ポケットにしまった。
よし、先へ急ごう。
「暑くて溶けそうですぅ……」
幸い、進むべき道はあった。
まるで炭鉱みたいな劣悪環境、狭い道だったが……確かに道はあったのだ。現在位置から少し川沿いに歩いた所に、崖の下にそれはあった。だから僕たちはそこを進んでいくことにした。
「よし、行こう」
「ええ」
途中、気持ち悪い蜘蛛の魔物が大量に押し寄せてきた。のだがそれは軽々しく梅雨坂が対処してくれた。
しかし、梅雨坂は今にも溶けそうな表情をしていた。
どうやら彼女は暑いのが苦手らしい。
今にも、液体に変わりそうだった。
道なりに、奥へと進んでいく。
「これ以上暑くなったら嫌です……アイスが食べたいです」
「頑張りましょう、蛍。あともう少しで次の階層に行けると思うわよ」
「が、頑張りますう」
勇者も流石にこの環境はキツいのか。走ってもないのに息切れ気味で、額からは汗を垂らしていた。僕のハンカチを貸してやろうか、ベロという名の。
……いや、今のは流石にキモいか。
うん。
進んでいく。
汗を流しつつ、進んでいく。
二十分ほど歩いた頃だろうか、辺りの気温が低下していることに気が付いた。
さっきまでは平気で40℃ぐらいあったように思えたけどここら辺は、あっても25℃程度だろう。
深みに行くほど、涼しくなっていっている。
「環境が変わってきたわね」
「あんたもそう思うのか?」
「ええ、当然でしょ。これぐらい気がつくわ」
一応、僕はダンジョンに二ヶ月間潜っていたし、34階層まで行っていたから分かる。
ダンジョンにおいて、環境が劇的に変化していくのは『階層が変化する』時なのだ。
階層の境目。
つまり、環境が変わりつつあるということは、ここは階層の境目という事になる。
「この調子だと、2階層まではもうすぐね」
「そうだろうね」
温度が低くなってきたからか、梅雨坂も微かにだが元気を取り戻してきていた。
とはいっても、まだまだ暑い。しかし地上の暑さとは違い、ここは乾いた暑さなのでまだ良かった。
地上の暑さってのは、湿気だらけで不快でしかないからな……。
下へと続いていく長い道を、僕たちはかなり歩き尽くした。
歩いて、歩いて、とにかく歩いた。
時間にして、もう一時間は歩いただろう。
そんな頃だった。
先行し歩いていた僕は歩みを止める。
この先の道が、少し開けていたからだ。
後ろを歩いていた勇者を僕は一瞥した。
「思ったよりも早かったわね」
「僕には相場がわからないけど、お前が言うのなら、そうなんだろうな」
今の気温は大体13℃前後といったあたりか。
涼しくなってはいるが、そろそろ寒くもなってきていた。
「もしかして、もうすぐで2階層ですか?」
梅雨坂が僕に聞く。
「多分な」
僕はそう答えた。
ダンジョンというのは階層が変わる時、環境が変わる。しかしその前に、次の階層へ行くのに必要なことがあった。
それは、この階層のボスを倒すことだった。
そう。
ダンジョンというのは、フロアボスを倒さないと次の階層に行けないのである。
そして大体、フロアボスが現れる場所の相場は決まっている。次の階層への入り口、その前にいることが大半なのだ。
つまり、現在に置き換えて言うと。
『ココ』なのであった。
因みにだが、フロアボスというのはそのダンジョンに入った皆が倒さなければならない。先に入った冒険者がフロアボスを倒したからって、それが消えて、無視できるものじゃないのだ。
それぞれの冒険者が来るたびに、フロアボスは何度でも蘇る。
ダンジョンの最新部にいる主を倒さない限りは。
「行こう。フロアボスと戦う準備はみんな、大丈夫だよな?」
「大丈夫よ」
「大丈夫です〜」
僕は腰にかけていたダガーナイフを、ゆっくりと引き抜いた。そして脚を再稼働させる。
ゆっくりと前へ進み、前方を開いた瞳孔で凝視した。
開けた通路に出て、数歩歩いたその時だった。
前方からの突風が僕たちを襲う──!
「うおっ!?」
僕の髪が上へと巻き上げられ、思わずそのまま後ろへと吹き飛んでしまう勢いだった。
地面で踏ん張ってなかったら、間違いなく吹き飛ばされていた。
「フロアボスは何かしらねっ」
「──来るッ、みんな気をつけ……!」
僕がこう声かけをしようとするものの、それは轟音を鳴らす風にかき消されてしまう。
そして通路の奥から、その風の正体が姿を現した。
それは先程まで僕たちが嫌というほど見てきた。
黒い毛に、大きな翼、鋭い牙に、赤の眼。
そう。
コウモリの魔物。
……その超巨大バージョンだったのだ!
吸血鳥。
勇者がそう口にした。
どうやら、それが相手の名前らしい……!
オーケー、準備は整った。
さあ、果てしなく尽きるまで……殺りあおうじゃないか!
火蓋は、切られた。
ここまでお読み頂きありがとうございます!
ランキング駆け上がってみたいです!! 良ければ広告の下から【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると、続きを書いていく励みになるのでよろしくお願いします!!