02『女勇者、乱入!! 修羅場なう』
百年に一度生まれ、百年の間に一人しか存在出来ない。
"勇者"。
それはこの世界に突如として現れたダンジョンと共に現れた、神の子である。
ダンジョンが出現したことにより溢れ出した魔素を用いて──人間は『魔法』『スキル』が扱えるようになった。
それは一般人でも行うことが出来た。
しかし、勇者はその魔素を最大活用することが出来た。
『大魔法』『ユニークスキル』といわれるモノたちは、そう、魔素を最大活用出来るいわゆる勇者しか使えない。
魔素を体に馴染ませるという体質は、魔法を扱う上でとても重要であった。
そして勇者というのは一般人の数千倍、魔素が体に馴染みやすかったのだ。
秋元奈々。
いいや、『フォールセブン』という名を持つ人間は、人類史上初めての女勇者として名を馳せていた。
勇者が現れてからまだ300年しか経っていないし、彼女を含め歴代三人しか勇者はいないわけだが。
それはともかく。
彼女は僕の幼馴染なわけだが、彼女が勇者だなんて僕は知らなかった。
どうやら僕は、自分が思っている以上に周りが見えていないらしかった。
「で、そんな勇者がこんなところで何してるのさ……」
かなり開けた場所だった。基本的には水に囲まれたオアシスのようなところ。
誰が踏んでも、何人踏んでも沈まない睡蓮の葉が目の前の湖に浮いている。
湖の水質はかなり綺麗だった。
湖ばかりで、ところどころ地面がある、時々大きな滝がある、そんなリゾート地みたいな景色が広がる──ダンジョン1階層。
そこで僕は地面に腰を下ろし、秋元と焚き火を囲むようにして談笑していた。
「こっちのセリフよ、……それは。なんで一般人の貴方がいるの」
「さあ」
彼女は随分と疲弊している様子であった。
「……はあ、この際、まぁそれは良いわ」
「それは?」
「ええ、それはね。私がいま一番言いたい。いや聞きたいのは、どうして一般人で冒険者なりたてのあんたが、この高難易度ダンジョンで生き残って、そしてどうやって34階層まで行けたのか──ってことよ」
勇者の私ですら、ようやく2階層を突破して3階層に辿り着いたというのに。
と、彼女は付け足した。
「それは、どうしてだろうな。どうやってだろうな」
「誤魔化さないで、ハッキリ答えてよ」
「えぇ? いやぁ、そう言われてもなあ。僕にも分からんのさ、どうしてかって。別に普通に、ダンジョン攻略を頑張ってただけ」
ダンジョン1階層はかなり寒い。
息を吐けば、それが凍るとまではいかないが、白色に染まっていく。
「むぅ、普通って何? 一応言っておくけど、このダンジョンは本当に危険なのよ。勇者である私ですら、最初から苦戦する──命の危機に瀕するレベルの危険度なの」
「うん」
「頑張って攻略したからって、普通の人間がどうこう出来るレベルのところじゃないのよ」
そう言われても、出来ちゃったんだから仕方がないだろう。
まぁ彼女にそれほどまで詰められたのだから、僕も一旦考えてみることにした。深く考えてみることにした。
腕を組んで、目を瞑って、思考に耽る。
はてさて、これが、僕が今いるダンジョンが勇者専用の──『超高難易度』ダンジョンだとして。僕はどうして、人生で初めてのダンジョン攻略にもかかわらず、こうも生き残れたのだろうか。
自分の視点からしてみれば、ただ頑張って生き抜いていただけ、と。そう説明できるが。
それだと秋元が納得してくれないし、意味のない説明だ。
「うーむ」
「じゃあそのダガーナイフは? それが凄い魔剣だったりしないの!?」
「それは違うと思うけど、だってコレは僕が一般的なお店で……昔、父に買ってもらった護身用の武器だから」
じゃあなおさら、
どうしてだろう。一体、どうしてなんだろう……。
何か引っかかることはないだろうか。強いてあげてみれば、僕は小さい頃から特撮『お面ライダー』が大好きで、よく真似て遊んでいたぐらいだし。
お面ライダーの真似をして、修行だっ! って頑張ってたけど、それはあくまでも、どこまでいってもお遊びの領域を出ることはないだろう。
それから高難易度ダンジョンで生き残る術を学べたわけでもない。
つまるところ、心当たりはなかった。
うん。ないな。
──と、そこまで考えて、僕はあることに至った。
待てよ。と。
なんか忘れている気がしたのだ──とても大事な事を、僕はすっかり頭から、記憶から除外しているような気がする。
もう一つ。
何かもう一つ足りない。
「えぇぇえええ!?!?!?」
だが、何かは思いつかなかった。
刹那。秋元が叫んだ。
びっくりした僕は思考を中断し、思わず目を開く。
「びっくりした。急に叫ばないでくれよ、あきも……じゃなくて、えーと、フォールセブン」
というか、フォールセブンっていちいち呼びにくいな。
この際、付箋と呼んでも構わないだろうか? いや、独断でそう呼ぼう。
彼女が慌てふためいている中、僕はそんな事を心の中で決めるのだった。
「だって! だって!! さっきまでーー5万人いたのに!!」
「何が」
「配信の視聴者数よ! さっきまで5万人もいたのに、今じゃ3000人になってるんですけど!!」
あぁ、配信……そういえば僕もしていたな。配信を切るのを忘れていた。
僕はスマートフォンを取り出して、画面を見た。
まぁ僕みたいな過疎配信者(というか始めたばかりだから、自虐するほど悲観しなくても良いのだろうが)じゃ、視聴者数なんて超えて150人ぐらいだろうさ。
別に承認欲求があるわけではないが、少なくなったと嘆いても3000人の彼女には少し嫉妬を覚えてしまう。
……しかし、だった。
そこには。
僕のスマートフォンの画面には。
「……え?」
視聴者数:47000。
と、表示されていたのだ。
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