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12『舞台はダンジョンへ』

 


「あんた、中々やるじゃない」


「そりゃどうも」


「びっくりしたわ」


「……そうか」


 あの模擬戦から数時間が経過した。あの後の話だった。暁ヒナは気絶から起き上がった後に涙目で、何がゴニョゴニョ言ってから『またリベンジしにくるから』と去ってしまった。


 結局のところ、何が目的だったのかはよく分かっていない。


 秋元家の庭園。その庭に何個も備え付けられていたベンチの一つに、僕たちは座る。


「はぁ、それにしても疲れたよ。全くさ」


「私はあの程度の戦いじゃ疲れないけどね。その点、貴方はまだまだって感じ」



 ──なにマウント取ろうとしてるんだ。

 一般人に対して、この勇者は。



「ねえ。話は変わるのだけれど、貴方はこれから──というか明日は暇かしら?」


「暇じゃない」


「いいえ、暇よ」


「……僕が暇じゃないと、言っているんだ。だって明日は学校だぜ? 明日は金曜日だからな。放課後ならともかく」


「ならば、放課後でも構わないわ」


 僕は放課後も暇じゃないんだけどな。

 家に帰って寝るという仕事があるし。


「ないわよ」


「……僕の脳内を視姦しかんするなよ!?」


 プライバシーのカケラもなかった。


「で、何が目的なのさ。まさか僕とデートしたいのか」


「殺すわよ」


「ごめんなさい」


「……政府から依頼が届いてね。ある中級ダンジョンで『異変』が起こっいるらしいのよ」


 あぁ、なるほど。

 それはつまるところ。


「だから調査に行ってほしいとのことで。アンタもどうせ暇なら、ついてこさせて、戦力にでもしようと思ってね」


「はー、そうか。でも悪いな。僕はわざわざ自分以外のためにまで、そんなことをするほどお人好しじゃないんだよ」


「報酬出るわよ。百万円から」


「ごめんなさい、嘘ついてました。やりますやりますやりますやりま──」


 僕自身でも思う。

 お金の力って、凄い。



 ◇◇◇



 そのダンジョンは《オネイロス・ライト》とい名を持っている。

 普通の『中』危険度のダンジョンであった。

 その特徴として、こいつは入る度に、構造が変化するというギミックを持っていた。


「ただ、そのギミックが少々厄介なだけで、中にいる魔物はそんなに強くないわ」


「なるほど。だから難易度は、『中』なのな」


「そういうこと」


 難易度『中』は、全六種類の基本的な難易度の中で下から三番目に位置するモノだ。


 金曜日の放課後。午後三時三十分。

 結局、僕は彼女のダンジョン探索に付き合うことになった。

 ……やれやれ、である。


 一応、別にこれは勇者にとって仕事だが──配信などは可能らしい。


 それも彼女の仕事の一環だと、認識されているんだろう。だから僕も配信することにした。


 ダンジョンについてからだけど。


 今は目的地に向かうため、最寄駅から電車に乗っていた。ICカードを持ち合わせていなかった僕は、わざわざ切符を買う羽目になった。


 それでも少し一悶着した。


 ──切符買うの、少し難しくしすぎじゃないだようか?


 僕はそう愚痴を漏らす。


「まぁでも、どうせ強い魔物ばっかなんだろう」


「それは分からないわ」


 勇者はいかにも重そうで頑丈そうな、鉄の鎧を見に纏っていた。僕はというと安物の革鎧をつけ、腰にお気に入りのダガーナイフを携えているだけ。


 今思ったが、この装備は少し心細いかもしれないな。


「それにしても、ちょっとしたダンジョンの探索。まあ異変の調査ってことだけど……それをするだけに勇者を使ってるって、国は贅沢なもんだよな」


「ええ、そうね。贅沢よ。国指定冒険者アレスターを起用すればいいのにね」


 アレスター……知らない単語だった。


「アレスターってなんだ?」


「国が指定している、特別強い冒険者たちのこと。国指定冒険者アレスターはいま、全国で百人ぐらいはいるはずよ」


「へえ」


「それにソイツらって国の直での管轄だから。なんでアレスターを起用しないのか、私には意味が分からないわ」


 "ソイツら"と呼んでいる事から、勇者は『国指定冒険者アレスター』ではないのが推測出来た。


「ふーん。暁ヒナは違うのか?」


「あれは……流石に国指定冒険アレスターよりは格が下がるわよ」


「そんなもんなんだな」


 なるほど、理解した!

 と、そんな雑談を交わしていると、あっという間に目的の駅に到着するのだった。





ここまでお読み頂きありがとうございます!

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