11『城里学vs暁ヒナ。最強は発覚す』
城里の仕掛けた攻撃は、実に直線的だった───!
「っ、ちょっと短調すぎじゃない?」
あれだけ大口を叩いたのだ。
さぞかし強いのだろう。
そう思っていた矢先の、あまりに単調で適当な攻撃だ。
思わず暁ヒナは呆れた。
確かに"速度"に関して言えば、中々なものだが、それ以外に光るものがなかったのだ。
「はあ、私も随分と舐められたんだね?」
「ッ!」
一秒も経たぬ瞬間に、彼は十メートルほど距離を縮めてきた。同時に、木製の剣と鎌──その刃が衝突するっ!
まずはそう、《魅了》なんて面白くもないモノは使わない。
最初は、鎌だけで戦う。
彼女はそう決めていたのだ。
だから真正面から剣を受け止める。
が、鎌から伝わった衝撃により彼女は後退してしまう。
「へえ、ちょっとはやるようじゃない?」
「そりゃどうも」
思ったよりも、彼の剣……その威力が強かったのだ。見た感じ、まだ何も魔法をかけてはいないと思うのだが──。
彼女は疑問に思う。
「でもごめんねー、手加減はするつもりないから」
ヒナは後方へとのびのく。
距離を開ければ、リーチの長い──鎌の方が、明らかに有利であるからだ。
「え?」
しかし、彼は。
城里学は、彼女が思うよりもずっと疾いスピードで彼女へ迫り切っていた。
──速いッ!?
気がつけば、彼は眼前で剣を振り下ろそうとしている。
「っ!?!?!?」
暁ヒナは、城里の脚を蹴る事で──彼の姿勢を崩し──剣の軌道をズラすことで、それをなんとか回避する。
"しかし"、彼は。
地面に手をついて、その反動で起き上がった。
瞬時に姿勢を、本来の姿に取り戻したのだ。
「はぁ?」
信じられない光景に、戸惑う。
目の前にいる黒い狐は、本当に、一体、何者なんだ──。
彼女のアイデンティティともいえる遊び心すら、この瞬時の攻防で簡単に崩れ去ってしまった。
城里学と暁ヒナ。
その二人に、戦闘技術という面で圧倒的な差があることに。
彼女は気がつけなかったのだ。
このままだとカウンターを食らって、木製の剣に強打され彼女は気絶してしまうかもしれなかった。
気絶。それはつまり、負けを意味する。
それだけは避けたかった。
だから、仕方がない。
──彼女はスキルを使用することにした。
「魅了・浮遊」
小声で、でも威圧感のある声で彼女がそう歌う。直後だった。城里は目撃する。彼女の体から、様々な色彩を持つ粉塵が放出されているところを。
(……なるほど、これが彼女のスキル)
彼は今の勢いを維持したまま、いや利用して……後方へと下がる。
具体的な距離にして、二十メートルほどだろうか。
「はあ、はあ、はぁ」
先に息が切れていたのは、やはり暁ヒナの方だった。スキルを発動したはいいものの、まさかものの一瞬で体力をここまで削られてしまうとは。
流石の彼女でも予想外だった。
一拍、置く。
ーーーー
『うおおおお!!!?!?!? 何が起こったんだ!!!!』
『やべぇ!? ホワイト、強くね!?』
『ヒナたん! こんなキモオタに負けるなお!』
『どっちも頑張れー』
ーーーー
彼も彼女も知る由はないが、両者の配信ーーそのコメントはそのような応援で溢れかえっていた。
「凄い……機敏な動きね……信じられないわ」
リアルタイムで肉眼でその光景を見ていた、絶壁勇者も思わずそう呟いた。口癖の毒舌を忘れてしまうぐらいには、衝撃的な光景だったのだ。
「──降参してもいいぜ?」
「何を言ってるのー、きみ?」
「とても苦しそうだ。呼吸が浅く見える。それに体力も、その一瞬でかなり消耗したようだけど?」
彼の挑発は図星だった。
いつもの鈍感はどこにいった──と言いたいところだが、彼は『敏感系』を自負している為にそんなツッコミは不要。
「どう? 一回負けてみたら」
「ふざ、けるな──ッッ!!!!」
しかし、挑発しすぎた。
怒りはとっくに頂点へ辿り着いている。赤面しながらも暁ヒナは、鎌を高く上へと上げつつ、同時に飛翔した。
「短期飛翔!」
魔法を使用したのだ。彼女は地上から2メートルほど跳んだ。
そしてそのまま、木製の鎌を──城里の頭へと振り下ろす。
普通の人間ならば、即死だろう。
その鎌が木製とはいえど、かなりの衝撃なのは言わずもがなだった。
もしかすると普通の人間どころの話ではないかもしれない。魔法障壁を張った冒険者でも、死んでしまうかもしれない。
今のは、そんなレベルの攻撃だったのだ。
ハイレベルなもの。
だった。
はずなのに──?
「……ふ」
彼は軽く握っていた剣一本で、その攻撃を軽々しく受け流してしまったのだ。
まるで何も起きてないかのように、平然と。
あまりに呆気なくて、彼女はそのまま……城里を通り越して、地面へ滑り転んでしまった。
「えーっと、大丈夫か? いや、大丈夫には見えないけど」
「大丈夫っ、あんたなんかに心配される筋合いはないもーん!」
「はぁ」
振り返って心配してくる彼に対し、未だ強気な行動を取る悪女。しかし彼女にも、彼女なりの作戦がまだ残っていた。
(まさかこんなにも、剣術に長けてるとは思わないけど……でも、"それだけ"。それだけなら勝てる)
地面にへたり込んだまま、ヒナは彼に気づかれないように微笑む。
ここまで喋ったりしていたんだ。
彼はいくらお面をかぶっていたとしても、粉塵を吸い込んでしまうだろう。
そしたら、まあスキルを使って終わりだ。
さて、反撃してやろうじゃない。
そう思って彼女は、こっそりと《魅了》を発動させた。
「……なにさ?」
「──汝に命ずる。降参しなさい!」
「はにゃ、対戦相手に向かって何言ってんだ? 馬鹿野郎かよ、あんたはさ」
「は、はぁ!?」
""しかし""、彼は。
彼は──暁ヒナの《魅了》が効いていなかったッ!
意味が分からない。
あからさまに動揺する彼女。
「い、意味が分からないんだけど!?」
「ふん。魅了が効かなくて、驚いているんだろう?」
「……」
「その秘密はこの仮面にあるのさ。まぁ正確には仮面だけじゃ心細いから……息を吸うところに、『濡れたティッシュ』を入れてるんだけどな」
その時、彼から出た答え合わせは呆気ないものだった。まさか。私の粉塵を、濡れたティッシュで吸収しているだなんて──と。
彼女は、やはり唖然としてしまう。
彼は今朝、視聴者に教えてもらった水属性魔法を、配信を終えた後に試しに詠唱したのだが、成功しなかった。
つまりこれは彼の代替え案なのである。
水属性魔法の代わりなのである。
濡れたティッシュがな。
そしてそれは随分とカッコ悪いので、他の人には内緒である。
「っ私のスキルを、馬鹿にしないで!」
「いや、別に。馬鹿にしてるわけじゃあないんだけど……ってぇ!?」
刹那。
彼女は鎌を振り上げて、その刃の先端を、彼のお面へと引っ掛けて無理矢理取り外した。
「ッッっ!!!」
つまり。これで、そんな小細工は出来なくなったわけだ。
彼はなすがままに。されるがままに。魅了の粉塵を吸ってしまうのだ。
その屈辱を、とくと味わえばいいわ。
彼女はそう思いながら歯を食いしばって、更に粉塵を撒き散らす──。
しかし、いつまで経っても魅了の効果は発動出来なかった。とはいっても数十秒も経っていないのだが。
「……は?」
そこには、衝撃的な。原始的な景色が映っていた。
なんと。
城里学は、粉塵を吸わない為に……息を止めていたのだ。そのせいだろう。
頬が赤く染まっていた。
でも、頬を赤く染め上げたいのは彼女の方だった。
──こんな原始的なやり方で、自分の自慢スキルを"対策"されてしまうなんて!
今にも発狂したい気分だった。
いや、今にも発狂するところだった。
"""しかし"""、彼女は。
発狂しなかった。
何故ならば。
城里学が、信じられない速度で木刀を彼女の首元当たる寸前まで振るって、その衝撃で彼女が気絶してしまったからである。
ばたり、と可愛く彼女はその場で倒れた。
ーーーー
『あれ、気絶しちゃった?』
『つ、強え……』
『今度からホワイト様と呼び慕います!』
『やべええええええ!!!!! 勝ったあああああああ!?!?!?!?』
『こりゃ、歴史が変わってく出来事だぜ』
『俺たちはどうやら、とんでもないヤツの披露宴に招待されてたらしい……』
ーーーー
そして。
この模擬戦の勝利者が『城里学』であることは、誰がどう見ても一目瞭然であった。
……彼は遮蔽物やら何やら、他にも策を用意していたのだが。どうやら、それは使わずに終わってしまったようだった。
視聴者数:346500
◇◇◇
後日、それらの話題はネットニュースに載ることになる。そして再びアクセス数日刊、そしてそれから週刊一位を取ることになるのだった。
『暁ヒナ、模擬戦で冒険者ホワイトに敗れる!?
彗星の如く現れた冒険者"ホワイト"。噂されるのは、存在するはずのない二人目の勇者説……?』
──こうして僕は始めてしまった。
これから波乱に巻き込まれ、勇者に巻き込まれ、総理大臣でもしねぇよと言うぐらい壮絶な人生を送ってしまう───フザけた物語が。
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