10『模擬戦が遂に始まる』
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『二回目の配信、どうや?』
『まさか、"ホワイト"が暁ヒナと戦う事になるなんてなー』
『あれ、信者多すぎて苦手意識ある』
『因みに、ホワイトさんはどうやってアイツと戦うつもりなの?』
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視聴者数:123700
模擬戦当日の早朝。(とはいっても、模擬戦をすると取り決めてから、一日後のこと)。
僕は自宅の自室で、スマートフォンから2回目の配信を行なっていた。
ダンジョンなどではスマートフォンを極力使わないから、潜っていない間は沢山使うのだ──。
僕はスマートフォンから溢れ出てくるコメントに目を通しつつ、どうするかを考える。
「うーん、そうだなあ。どうやって戦おうか?」
因みに『ホワイト』とは、僕の配信者名であった。まぁ初回の配信で本名はバレてるんだけどな。
一応だ、いちおう。
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『そういえばホワイトさんって、学校と冒険者ってどうやって両立しているの?』
『勝つ方法はやっぱり、フォゥスの力でしょ』
『お金ちらつかせれば、勝たせてもらえるんじゃね?』
『まずさ、ホワイトってどれぐらい強いん? ただ勇者しか入れないはずのダンジョンにいたっていうだけ?』
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「えーっと、学校と冒険者の両立は。学校に政府から認証してもらえる冒険者届を出せば、ダンジョンに行っている間は公欠扱いにしてくれるんだ。勉強は勉強する時に滅茶苦茶頑張ってるから、問題ないよ」
コメントに流れてきた質問にも、このように適度に答えつつ、やはり思考する。
どうしようかな。
部屋に取り付けていた小窓の外からは、小鳥の囀りが聞こえてきて、僕の耳に届いた。
「……だと話が逸れた。暁ヒナに勝つためには、どうすればいい?」
僕は画面の前にいる人たちへ、そう問う。
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『分かんねー』
『アイツ強いから、模擬戦やるってなっても相手を瞬殺してばかりだったし。弱点は不明』
『昔戦ったやつは、水属性魔法を使って粉塵を体内へ取り込まないようにしてたよな』
『ホワイト、水属性魔法使える?』
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そこには、一個興味深いものが書き込まれていた。
「水属性魔法だって? ……魔法か」
魔法。僕はそれを使っている人間見たことがあるし、《スキル》は知らなかったが、ソレは知っていた。
魔素というものを体内に取り込み、発動する──科学とはベクトルの異なる世界による芸当だ。
それが使えれば、たとえスキル《火を吹く》を持っていたくても、火属性魔法から《火を吹かす》ことが可能なのだ。
確か魔法には属性というものがある。
その中でも基本属性と呼ばれるのが
《火》《水》《木》《闇》《光》
の五種類だ。
魔法には等級といって、基本的なものには
《低級》
《中級》
《上級》……といったものが挙げられる。他にも基本的なもので更に上のものがあるが、ここでは語らないでおくことにする。
そして他にも多種あるが、基本的なものに当てはまらない例外的なモノは大きくこの二つだ。
《古法》
《現法》
まぁ、それだけなんだがな。
僕が魔法について妙に詳しいのは、昔に色々あった体が──そこらへんは追々話す事にしよう。
「うーん、試してみるか……?」
僕はそれだけを口にした。
それからも、数十分ほどだが配信は続いた。
◇◇◇
学校が終わり放課後。
木曜日の話だった。僕はすぐさま勇者と共に、秋元家の豪邸へ訪れていた。
ま、前にも言った話だが勇者にしてみれば、それはただの帰宅である。
そしてそれから直ぐの出来事だった。
僕たちが庭園で待っていると、暁ヒナが現れた。
「やっはろ〜、久しぶり〜」
「一日ぶり、ですけどね」
僕を殺害しかけた少女は、屈託ない笑顔で此方を見つめ続けた。
そしてやはり秋元は居心地が悪そうだった。
僕的にも、ここの居心地は悪いけどな。
「どう? 準備できた?」
「もちろん」
「あ、そうそう。木の剣と鎌は、私の方で用意しておいたからぁ。ほれ」
「っと」
用意しておいた?
僕はそれについて疑問を持つ。何故ならば、彼女はスマートフォンを右手に持っていて、ゴスロリ姿で、小さめのバッグを持っている以外は何も持ち合わせていなかったからだ。
ほぼ手ぶらだと言うのに、用意したってなんだ?
そう思った直後だった。
「──開封」
暁ヒナがそう口ずさむとほぼ同時に、彼女の周りを光の粉塵が回り始め……二つに集中して、二つの塊を作った。
そしてそれは、木製の剣と鎌に変化したのだった。
そして木製の剣を、僕に投げ渡してくるゴスロリ少女。
「どう、凄いでしょ?」
「見たことない魔法ですね」
僕はそう言った。
やっぱり、僕は無知なのかもしれない。
「現法魔法の一種ね。数年前にアメリカの研究所で開発されたばかりの、最先端魔法よ」
そこで、勇者が捕捉した。
便利なやつだな!
「へぇ、それは驚いたな。まさか四次◯ポケットみたいだぜ」
「そうね。あれは私でも使うのが、難しいかもしれない」
「詠唱すればいいだけなんじゃないのか?」
「基本的な魔法なら、それでも出来るけどね。……ただ、現法魔法は魔素の流れをを管理するのが複雑だから、そう簡単には使えないわよ」
「なるほどな」
と、雑談はそれほどまでにしておいて。そう注意するかのように、ヒナが会話に混ざってきた。
「えーっと、ホワイト君だっけ? 今日の朝の配信で名前知ったけど。ホワイト君は、別に剣で大丈夫? 鎌でもいいけど」
「いや、問題ないかな。それぞれの武器でやろうじゃないか」
「わあ、勇敢だね! まるで勇者みたい!」
煽り口調というか、言い方で彼女は浅く笑う。
「ああ、あと。これを使ってもいいかな?」
ついでにと、僕は懐からあるモノを取り出した。それは黒く塗られた狐のお面であった。
中学三年生である僕の妹が、修学旅行にてお土産として僕に買ってきてくれていた品である。
「お面? 別に構わないけど。視界悪くなるし、不利になるだけだと思うよぉ〜?」
「それでも僕は一向に構わないよ。それに僕の方が強いのは明白だし、少しハンデをあげた方がいいだろうとは思わないか?」
煽られた(多分)ので、煽り返しておいた。
すると彼女は少しむっとした表情で。
「言うね、冒険者成り立ての雑魚君がさ──」
そう言った。
まあいいさ。
怒れるなら、怒るだけ怒ってくれて構わないとも。……ちょっと威圧的なのは怖いが、僕は我慢するぜ!
それに、もう直ぐで戦うんだからバチバチに喧嘩してた方が盛り上がるだろうし?
僕はスマートフォンの画面を見た。
配信開始したのは、数十分前の話だったが、今の視聴者はいつの間にか十五万人を超えていた。
凄いな、こりゃあ。
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『メッチャ言うな、ホワイト』
『本当に勝てるん?』
『絶対コイツ負けるわ! やっぱり、ヒナたんがカツオ!』
『信者乙』
『こりゃ面白い戦いになるんじゃないか!?』
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アンチコメントやら、信者コメやら、中立派コメントが入り混じった所謂カオス状態。
僕はそれを見てげんなりした後に、スマートフォンを隣の勇者に預けた。
暁ヒナは、持参していた三脚に配信中のスマートフォンを取り付け、この状況をリアルタイムで映し出せるようにした。
互いに、準備万端だった。
「準備は、良いよね?」
「もちろん」
互いに、武器を構えた。
僕は緩慢な動作で、黒狐のお面をかぶった。紐があるから、それを頭にはめたのだ。
「じゃあ勇者である私が、合図するわ」
城里学と暁ヒナの、視線が交錯する。
息を大きく、一度吸い込む。
体調万全。
視界良好。
気分上々。
気持ちのいい夕晴が空を支配している最中。
「──初めッ!」
模擬戦が遂に始まる。
最初に攻撃を仕掛けたのは、僕だった。
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