異世界転生して大変だって言うけど、神様だって苦労してんだよ!
ふんわり設定です。
よろしくお願いします。
オレはこの世界の管理を任されている者の一人。まあ、神様にもランク付けがあってな?その中でも下っ端なんだわ。この世界の管理者は今……何人だっけ?元は人間じゃない知的生命体も含まれてるから人で数えんのが合ってんのか何なのか分かんねえ。自分を自分で柱で数えるほど偉くなったつもりもねえ。ただ与えられた仕事を粛々と行うだけだ。
ま、同僚には天使を自称するヤツもいるけどな。世界の管理者になってすぐに言い放ったのが、神様より天使がいい!って何だそれ。
「うお〜い、堕天使ぃ〜!」
「誰が堕天使だコラ!カモフラって知ってんだろが!」
「知ってる知ってるぅ〜!人を誘惑して堕落させ、魂を篩にかけることがお仕事の天使でしょ?本人もいつもウッカリさんの駄目天使、つまり駄天使。」
「ばっきゃろー!今の仕事はそれだけじゃねえんだって!!」
自称天使が来やがった。何しに来やがったんだコイツ。
「大天使様にね〜、こっち手伝ってやれって言われてさぁ。元はアレでしょ?キミの故郷の魂なんでしょ?」
「そーだよ。何か知んねーけど、魂二つやって来たから同郷のよしみで馴染むまで神託下せってさ。」
「それが上手く行ってないらしいじゃん。」
「まあ、都合良くチートやって神使にして惑星の危機を脱しろって簡単な話だったんだけどな。何がどうしてこうなったのやら……。」
たまにうっかり次元を超えてやって来ちまう魂があんだけどよ。そいつらがさぁ、オレがまだ人間だった頃に暮らしてた世界の魂なワケよ。
どうやらオレの出身の世界、ここ数年次元超えて魂来ちゃうパターン多いんだよな〜。しかも最後に暮らした国な。極東の列島なんだけどよ。科学が発展しまくって人工エネルギーが集中してる上に災害大国だから次元の歪みが出やすいってなモンで、まーあ、その国から魂がバカスカ無くなってんだわな。その辺は適当にオレらで調整すっから。問題ないっちゃないんだけどよ。世界の終息の時に魂の総量が合ってりゃいいわけだから。長期スパンで見ればいいんだ。たくさん魂が出て行きすぎたのをあんまり悠長にしてっと世界が自然崩壊じゃなくて周りを巻き込むヤバめの崩壊するから、なるはやで解決してる。ソコら辺はオレの担当じゃないし。世界は無限にあるし。オレらにとっちゃ大した手間でもないんだ。
そんなわけで、ウチに来た同郷の魂二つの片方がな〜。これまた強烈で。夢子とかいうの?コッチ来たついでに神の使いとなって世界を救って欲しいって頼んだんだわ。ウチの世界は魔法が使えるんだけどよ。魔法があるってことは魔力の源があるってことで、それがまた厄介で。ソレがあると世界がヤバめの崩壊しがちなわけ。いわゆる瘴気ってヤツ?チートあげるからもう一人と協力して何とかしてね☆って頼んだのよ。そしたらさー。
『あたしが……神の使い……聖女になるんですか……?』
『うん。ついでにね?文化レベルも文明レベルも君のいた世界より低いから、内政チート的なこともしたり飯テロしたりしてだな、行った惑星の発展を促してって欲しいんだ。』
『あたしが……聖女……。』
『うん。だからね?まあ、生まれは身体との適合とこちらの都合があるから選択肢が狭まるんだけど、どうする?別に聞かずに適当に入れてもよかったんだけど、まあ、色々事情があって希望聞くことになったんだけどね?』
『聖女……あたしが……。』
『うん。ソレ、さっきも言ったね。』
この辺でヤバいって気付けばよかったんだよ。いや、知ってたよ?この世の始まりから終わりまで、幾つにも分かれたパターンてのはね?世界の管理者なら把握出来るから。この子のパターン、かなりヤバめなのよ。だから、ここで先に修正したかったんだけどなー、マジ下手打ったわー。
『君とね、もう一人。聖女になってもらうから。前世の記憶引き継いで転生してもらうからさ。今の性自認のままの方がいいよね?TS転生したいってなら止めないけど。その場合は聖者になんのか?聖人?どっちだ?まあ、なんでもいいか。』
『聖女……あたしが……聖女……。』
『おーい、聞いてる〜?』
『聖女に、なります。この世界、あたしが救います!』
そう、オレね。完璧このセリフに騙された。いや、彼女は本気だったんだよ。色々な欲が入り混じってたのは知ってたけどさ。マンガのヒロインみたいに世界を救ってシンデレラストーリー地で行ってやる!って意気込みは感じられたんだよ。別に彼女が転生後に誰と結婚しようがオレの仕事には関係ないしさ。その時は大丈夫だと思ったんだよ。
『よろしく頼むよ。君に与える力、自分で分かるようにはなってるけど、身体と能力っていうのはね、自分で鍛えてもらわないといけないから。まあ、何もしなくてもそこそこまでは上がると思うけど、努力して強い力を手に入れる姿そのものも周りに影響を及ぼすからね。』
転生先に決めた国、それなりに平和だけど政治中枢もそれなりに腐ってるからね。そこんとこも変えてってくれるといいなあ、なんて思ったよね。うん。間違いだった。
『それでね?生まれ先に何か希望ある?頭に思い浮かんだでしょ?その中で、この子に生まれたい!みたいなのある?』
『男爵家の庶子でお願いします!』
あー、この子好きそうだなって思った。流行ってんだろ?そういうの。ヒロインが好きなんだな。いや、元からヒロイン体質っぽいんだよ。ちょっとだけ情報公開してな?多分、コレ、出自と見た目で選んだね。ふわっふわのピンク髪にちょいとタレ目気味の胡桃色の目。孤児とか町娘とかもっと社会的に身分の低い転生先候補も、王女だの公爵令嬢だのの生まれながらのチートなお嬢様の転生先候補もあるのに、即決だもんな。人生最初にする苦難はどうでもいいのかな。若いうちの苦労は買ってでもせよって言うもんな。まあ、聖女である以上、苦労や苦難は避けられないんだけどさ。
ていうかなー、ぶっちゃけこの子の魂の格、低いんだわ。心配してたんだ、同僚たちも。
魂にも格があって、世界の無機物とかと一体化してるものとか、動植物とかの生命があるもの、ここには微生物なんかも含まれるけど、まあ、そこに一線を画すのが知的生命体の魂でさ。で、知的生命体ってのはどの進化を遂げても人型になりやすくてな?一つの世界の中で知的生命体が生まれるくらい進化するって結構低い確率で。オレらはそれを何度も何度もやり直して魂を磨き上げるんだけども。なんでかっつーと新しい管理者を召し上げるためな?今この瞬間も世界がポンポコ生まれてるからさ。オレらはいつでも人手不足なの。特に魔法のある世界はちょいちょいテコ入れしないとヤバめの崩壊に繋がりかねないから落ち着かないの。ブラックなの。猫の手もバカの手も借りたいの。誰か助けて。
なのでだな。彼女の魂は知的生命体でいられる魂の中でも低め。転生繰り返して魂の磨きをやってんのは何処でも誰でも同じだけど、原型留めたまま次元を超えられたのがマジで奇跡なくらい格が低い。ホント何で来たの。損傷あった方が大手を振るって魂改変出来たのに。あと何回かやらかしたら仏教でいう畜生に魂落とされるレベルよ、コレ。
『了解。まあ、あとは魂に情報書き込んどくから。オレとコンタクト取りたいときは神域か聖域に行って。神殿の礼拝所とかね。力がつけばどこからでも呼びかけは出来るから。まずソコクリアしないとなんともなんないから。いいかな?』
『はい!がんばります!』
男漁りにばっか精出すんじゃねーぞ、とは口に出せなかった。
『ん、期待してる。では、次元を超えし強き者の魂よ、新たな生を謳歌したまえ。』
で、彼女の魂に為すべきこととかどうやって力を高めてくのかとかを書き込んで、ご希望通り某国の男爵の庶子でいずれ引き取られるご令嬢の身体にポイっとしたわけだ。
「回想終わった?」
「おう、待たせて悪かったな。」
「まー、でも、彼女。面白いくらい最悪なパターン選んでるよね。しかも、世界にとって最悪なパターン。」
「それなー、どうにかならんかな。」
「もう一人の子、メンタル大丈夫?有望株の魂に傷付けたらアカンって言われたんだけど。」
「今んとこ何とか持ってる。やー、とんだビッチが来たもんだ。」
「初手を間違えたのはキミだよ。あの子に謝った方がいい。」
「謝ったわ!赦されたわ!何なの、あの子!自分が親兄弟にも婚約者にも、なんなら世界に疎まれてるのに!健気すぎねえか!?」
「清いだけの心じゃ、管理者にはなれない。一皮剥けてもらわないとだよ。」
もう一人の魂は管理者候補だ。あと数回転生を繰り返して魂の磨きが完了するところを、聖女の役割を与えて今世で磨き終える予定だったんだが……あのクソビッチのせいで……腹立つわぁ!!
「彼女の周りに一人だけ、まともなヤツがいるね。」
「ん?ああ、あの子たちがいる国の人間じゃないからな。帝国の皇帝の息子だから、神の化身の血が入ってる。耐性あるんだろ。」
「まさか人間社会で禁忌とされた魅力魔法を自分で編み出しちゃうなんてね。才能はあるのにな〜。」
無駄遣いしかしてねーけどな!!!
あのビッチは努力の方向が間違ってて、今でも神殿に来なければオレらの声が聞こえない。んでもって、本人は全然来ない。夢に入り込んで説教しても馬耳東風。どうしてくれんだ世界終わるぞコラ。また一からやり直せばいいけども、それもそれで手間がかかるんだよ!
あーあ。オレの故郷で今んとこ一番最後に管理者になったヤツの世界でも同じようにあの国から転生者来たんだけどよ。まあ、そいつも同じ国出身でさ。何の因果か、最後の生の孫がいたんだよね、その中に。その子がかなり頑張ってさ〜!何とかヤバめの崩壊回避出来そうなんだよ。その子も管理者候補に上がったらしくてさ。本人望んでなさそうだけど、世界が安定すりゃ何回か転生繰り返してその内管理者になるんだと思う。
コッチでもそれを目標にしてたのにさ〜!クソビッチのせいで崩壊寸前だわオレの理性が!!!
「歴史の分岐点でダメそうなら強制終了だって。」
「決定早くねえ?」
「大天使様、即断即決の人だからね。格も高いし。」
オレらみたいな下っ端とは違うもんな。だから魔法の世界の割に管理者の人数少ないんだよ、ココ。割り当ての力は平等だけど、格が高いとやれることが違うから。オレらは魂のまま思考して存在出来る思念体なんだけどな。あの子たちの魂が来たときに擬似的に思念体の状態にして回想にあったような面談したんだけどよ。ダメだったな、効果なかったわ、ビッチには。
「それにしても彼女、聖女とは対極にいるね。別に純潔である必要はないけどさ、あれだけ男侍らせて。あの国の倫理観とは真逆いってるのにね。誰も気付いてないのもすごい。あ、帝国の皇子様は気付いてるのか。」
『わたし、聖女なんてガラじゃないんですけど……。』
公爵令嬢に転生することに決めたもう一つの魂は、オレの説明を聞いてそう答えたんだったな。
『便宜的に聖女って言ってるだけだから。分かりやすいだろ?瘴気を浄化しつつ、俺TUEEEEEして、世の中に革命起こして世界を発展して欲しいのよ。』
『俺つええって、何ですか?』
オレもたまに故郷にアクセスしてっからついスラング放っちまったんだけど、彼女は疎かった。分かりやすく人型を取って彼女とも対話してたんだけど、久しぶりに顔から火が吐き出そうなくらい恥ずかしかった。
『端的に言えば、元いた世界の知識を利用してこちらの世界を発展させ、人類を成熟に導いて欲しい。』
『……何となく、理解はしました。でも、やれる気がしません。』
慎重な人だった。あのビッチに対してはそれが裏目に出て後手に回るハメになり、今、彼女は窮地に立たされている。神域が国内にあるからあの国選んだんだけど、間違いだったかな。せめて二人を別々の国に降ろせば良かった。
『その辺はサポートするから。身体の成長と能力に乖離があると身体が耐えきれなくて廃人になったりするから、そこんとこは努力してもらわないといけない。大丈夫そうかな?』
『はい。お役目ということなら、精一杯頑張ります。あの、出来ないとペナルティがあったりなんかは……?』
『ナイナイ!そしたら別の方法を試す予定だから!』
まさか強制終了とは言えないけど。魔法の世界は元の魂の形に引き摺られやすいから、また同じ道を辿るパターンも多いんだけどね。その辺を微調整していくのもオレら管理者の役割だから。只人は知らなくていいことだ。いたずらに不安を煽るのも悪いしな。
『重要な情報は魂に直接叩き込むからね。今ここで聞いてかなくても分かるようになるから安心して。』
『ご配慮ありがとうございます。』
『んじゃ、転生先を選んでもらおうかな。頭に浮かんだ中で希望ある?』
『生活に困らず、お役目に励むこと以外のことに時間を取られず、搾取されないような立場がいいのではないかと思うのですが。』
『それなら公爵令嬢がオススメだよ。王弟の娘で、王家の家族仲は良好。まあ、高位貴族な分、勉強は大変かもしれないけど、その中で革新的な知識を発信して行ってくれると嬉しいかな。』
『分かりました。この世界、文化レベルや生活水準はどれくらいなんですか?』
『産業革命以前のヨーロッパって感じかな?だから、君のいた国の同時代より不衛生だし、治安も悪い。そこも手を加えてくれると助かる。』
『私が前の生で得た知識を忘れないように、プロテクト?かけてもらうことはできるのですか?』
『それはデフォでついた機能だよ。一度見聞きした情報も取り出せるようになってる。ただ、それに対しての理解力とか思考力は君自身に準拠する。うまくやってくれると嬉しい。』
『大した人間ではないんですけどね。人には言えない、褒められないようなこともしたことがありますし。』
いや、もう一人よりマシだよ。てか、全然いい。何馬身差どころか惑星間の距離くらい差がついてる。そう思ったけど、これも口に出せるわけないよな。彼女だけが頼りなんだからさ。
『それは因果の関係さ。善人なおもって往生を遂ぐいわんや悪人をやってなモンだ。』
昔オレが書いた本の一文ね。管理者になってみて分かったことだけど、善人だろうが悪人だろうが魂は魂なんだわ。オレは間違ってなかったね。間違っていたとしても、管理者から見れば人間の思想なんて些事なんだよ。大事なのは世界のヤバめの崩壊を防ぐことなんだから。悪ぶって演じる必要もなかったんだなぁ。まあ、それでもあの国じゃオレの教えは結構広まったみたいだけど。
『性悪説ですね。』
『ん。精進したまえよ。』
ここでドヤったオレ、ちょっと恥ずかしかったな。偉そうにすんの苦手なんだよ。もっと天使ぶらないと夢だと思われるよ!ってコイツがいつもうるさいんだけどな。
『なんか聞きたいことある?』
『いえ、疑問があれば都度質問しますので。』
『おけ。では、次元を超えし強き者の魂よ、新たな生を謳歌したまえ。』
そんなわけで彼女を転生先に降ろしたわけだけど。
「あ、大天使様……うわぁ、まじかぁ。」
オレら思念体は個の意識を超越して共有している。まあ、なんだ。簡単に言えばテレパシーみたいなモンで指令が下ったわけだ。
「分岐点を早めるって、本気か?まだ何もしてねーぞ。たかが婚約破棄じゃねえか。」
「でもそこから確実に選択肢が狭まるよ。彼女の振る舞いによってはどっちに転ぶか……いや、もう七三くらいでもう一人の子の理想通りになっちゃうんじゃない?」
「せめて八二で決めて欲しいんだけど。」
「リスクより手間かかっても安全な方で行きたいんだよ。」
「そりゃ分かってるんだけどよぉ。……せっかく完全な状態でコッチに来たってのに、可哀想だな、あの子。」
「肩入れするの?」
「いや、見守るだけだ。管理者だからな。」
「そうだね。あ、そうそう!キミの後輩の世界、面白いことになってるね!」
「は?面白いこと?」
「うん!移動した魂が道を通って戻ったんだよ!めずらしいこともあるもんだ。しかも、全員が完璧な形で。あと一人、くっついてった子もいるけど。」
「……うっわ、マジか。すげえな、後輩の孫。」
「近い血縁で管理者候補に上がるって今までなかったのにねー。史上初じゃないの?」
「世代を跨げばあったけどなぁ。しかし、人の身で管理者の能力を手に入れるか。あちらさんたちも無茶振りするな。」
「アレはいずれ全員が管理者候補になるね。すごいや。」
人手が増えるのはいいことだ。その辺はあちらさんにお任せしよう。問題はウチだよウチ!!
歴史の分岐点。ある一点に於いて、不可避の出来事。そこからまた無限に選択肢が広がっている。それがもうすぐ近付いて来ている。お?彼女からコンタクトがあった。
『神様。神様。聞こえますか?』
「聞こえてるよーん!」
「お前が先にしゃべるのかよっ!」
『あの、神様は二柱いらっしゃるのですか?』
「もっといるよ!魔法の世界は不安定だから多めに人員寄越されてるんだ。チョー忙しいんだよ!」
の割にはお前、よその世界覗き見して笑ってんじゃねえか。性格の悪いヤツだ。
「どうかした?」
『あの、どうやら、わたくしの処刑計画があるようなのです。どなたもわたくしの言葉に聞く耳を持ってくださらなくて……。与えられた役割も果たせず、申し訳ございません。まだ世界は瘴気の危機に曝されているというのに。』
「あ〜、それな〜。いや、嫌な役回りさせてすまないと思ってる。聞き飽きたかもしんないけど、悪かったな。」
「それちゃんと謝ってる?」
「誠心誠意謝っとるわ!!」
『いえ、よろしいのです。全ては神の御心のままに。』
「別にボクらの希望する通りになってるわけじゃないよ。」
『そう……なのです、ね……。』
「まあ、あんま悲観しなくていいよ〜。キミの(魂の)ことは守ってあげるからさ!」
「おい、お前適当なことを言うなよ。」
「だってさ〜!だったらせめてアドバイスしなよ!」
『あの、わたくしは大丈夫なので!自力で何とか致しますので!』
「いやいや、キミに必要なのは〝人から求められること〟だから!」
『それは、あの方が、やってくださると……。』
「アレは人為的なモンだ。魅了魔法だからな。人の心を歪めてる。」
「まあ、心が歪んでたってボクらの仕事には関係ないんだけどね。あの子が死ねば意味なくなるし、数十年ちょっとの問題じゃない?」
「いや、地上の人類にとっちゃ長い時間だろ。だろ?君は今苦しみの真っ只中にいる。確かにそこからの脱却は君自身の力でやらなきゃいけないことだけど、誰かに頼るのも君自身の力だ。言ってる意味、分かる?」
『どなたかに、助けを求めろ、ということでしょうか。』
「そういうこと。」
「そうそう。管理者は人間関係に手出しはしないからね。忙しくて。」
『ですが、そんな他力本願なことは……。』
「あー、それね。他力本願。意味違うから。」
他力ってのは他人の力じゃなくて阿弥陀如来の本願力のことだからな。管理者になってみれば阿弥陀様なんていなくて、もっと淡々とした仕事が待ってたわけだけど。神も仏もなかったわけだ。一応、神様扱いされてるけども、だ。人格はあるから、仏のような性格の管理者もいるぞ。オレもあのバランス力を見習いたいと思っている。
『そういえば、習いました、歴史の授業で。他力とは仏の慈悲である、と。』
「そういうことよ。でも、そこに至るにはよ?慈悲を頂けるように南無阿弥陀仏を唱えなきゃいけないわけ。」
『念仏はとんと唱えておりませんでしたが……。』
「まあ、ここで置き換えてみよう。君の周りにはあのビッチの魅了で頭イカれたヤツしかいない。家族や婚約者、友人、みな狂ってる。おけ?」
『はい。我が国は彼女の魅了で混乱の最中でございます。』
「んでだ。よぉーーーーっく周りを見て、※ただしイケメンは除くってヤツ、いない?」
『イケメン……?』
多分、この子もその彼のこと、好きなんだよな。ちっと頭でっかちだから、いつも否定するけど。あっちは彼女にデッロデロのあっまあまに溺愛する準備に勤しんでるよ。問題は、その助け船が間に合わない確率の方がデカいってことだ。
「要するに、キミに優しいイケメンに助けを求めなさいってことだよ。」
彼女はハッと息を呑んだ。思い当たる節があったんだろ。
『ですけど、あの方が助けてくださるでしょうか……。』
「そりゃ大丈夫だよ。だって彼、キミにムガッ!ムー!ムー!」
余計なこと言うなっての!まあ、口塞いだところで念話なんだから意味ないんだけど。
「もうすぐ帝国に浄化行くんだろ?」
『わたくしは留守を守る役目になっておりまして……。』
「それ、何とかねじ込め。ていうか、ねじ込めるようにソイツに可愛くお願いしろ。両手を上げて喜んでくれるさ。」
『元々わたくしへの打診だったのですが、あの子がそれを変更させたのですよ?』
「官僚が言いなりになってるだけだろ。」
「あの子、あの皇子様も狙ってるもんね〜。彼の側近は神の化身の血筋じゃないからまんまと騙されてんじゃん。」
「もう一人の再従兄弟だっていう護衛は何とか保ってるけどな。」
『あの、神の化身とは……?』
「あー、ボクらがどうしても地上に介入しなきゃいけないときに使う身体のことだよ!」
「あの帝国の皇族はその血を継いでる。特に彼はその血が濃い。あの子の半端な魅了程度なら耐えるだろうさ。会う度に不快感はあるようだけどな。」
「可哀想だよね〜。魅了に対抗すると心の臓を鷲掴みされたり胃の腑も捻れるような痛みが出たり吐き気したりするからね!」
『あの方は、そんな痛みに耐えて……。』
まあ、腹にイチモツニモツあるような男だけど、至極真っ当だよ、彼は。オススメしてあげたいけど、それは野暮ってモンだよな。
「というわけで、彼とコンタクトを取って、人払いの上で相談するといい。君の試練はまずその機会を得ることだな。」
難しそうだけど。君が令嬢生活で獲得した羞恥をかなぐり捨てれば何とかなるかな?元々違う常識の国で育った記憶があるんだから、その辺は乗り越えて欲しいモンだ。
『わかりました……わたくし、頑張ります。』
「ん。期待してる。」
「それでは可愛い神の使徒よ。天使の愛し子の使命を全うし世界を導きたまえ。ついでに幸せになるんだよー!」
「ついでかよっ!!!」
クスクス笑って、彼女は通信を切った。
その後の彼女が起こした行動は。まず、例の皇子様の寝所に潜り込んだよ。やることが思った以上に大胆でビックリしたわ。だって、前世の映画やアニメのスパイみたいな黒尽くめでさ〜。どうやって作ったのその服。新月の闇夜に紛れて、バルコニーから侵入ってさ。大胆すぎねえ?
まあ、気配で気付いた彼に殺されかけたのはご愛嬌か?声ですぐに彼女だって分かったけどな。ランタンの小さな灯りを点けて彼女を見たら身体のラインがバッチリ出てるから、大慌てだったな〜。若いっていいやね。それでも手を出さない彼は立派だよ。まあ、あの服どうやって脱がすのか知らねーけど。
そんでもって、彼の暗躍で彼女が帝国への使者の座をクソビッチから奪い返したわけだ。
暗躍って何って?ああ、瘴気を貯める技術が帝国にはあってだな?そろそろいい加減ソレが溜まってきちまって、それの浄化を彼女の国に頼んでたんだけどよ?それをコッソリ持ち込んで、あの国の端っこで大規模瘴気を発生させたわけさ。そうすっといつも偉そうにしてるクソビッチに浄化のお鉢が回って来るわけだ。ろくすっぽ出来ないくせによ。彼女の功績、全部自分のものにしてるからなアイツ。浄化なんてろくにやったことないんだわ。
力が弱くても安全で、ちょっとずつやればいつかは終わる帝国の瘴気タンクの浄化より、国民の生活に影響を及ぼす大規模瘴気の方に力の強い聖女を派遣すんのは当然のことだよなぁ?一応、国内だし?留守は守れるし?
てなわけで、彼女はめでたく皇子様と共に国外へ。魅了にかかってた皇子様の側近も、魅了の範囲から出たから何とか正気を取り戻してだな。まだ頭が混乱してるみてーだけど。
彼女らの通ってる学校の卒業パーティーで婚約者の王太子が婚約破棄を目論んでたんだけど、国土の五分の一を覆う森の半分に瘴気が広がったモンだからそれどころじゃなくなってさ。
その間に王太子有責での婚約破棄をされたくなければ、彼女と王太子の穏便な婚約解消を発表しろって彼が権力と武力をかさにきて使者寄越して国王に迫って。証拠は揃いまくってたからね〜。よく集めてくれたよ、彼。むしろあのバカップルのストーカーだったんじゃないかってくらいな。
しかも手続きが済む前にクソビッチが妊娠しやがってよ〜。王太子の子だって主張してっけど本人父親が誰なのか分かってねえんだぜ、ウケる。オレらは知ってるけどな。管理者だからよ。王太子でないことは確かだぜ。いや、あの二人も婚前交渉はしてたけどな。
つわりが〜とかほざいて浄化が進まなくて彼女に帰還要請という名の命令が出てさ。帝国が約束が違うってゴネたわけ。こっちの浄化はまだ終わってないってな。瘴気発生率は高いからな、帝国。広すぎってのもあるけど。
しかも何処で聞いたのかまだ隠してたクソビッチの妊娠ゴシップもついでに突き付けて、いやぁ、アレは見ものだった。
とりあえず、婚約破棄の手続きが済まないと帰りませんって彼女も強気だわな。あのビッチ、自分の力じゃ瘴気の浄化し切らないからって遠征中の三ヶ月間朝昼晩男と致してたよ。あそこから逃げるのに、他に方法が思い浮かばなかったんだろうな。王太子の婚約破棄聞いて浮かれたビッチがこれで王妃なれる!と喜んだのも束の間、ついでに決定された王太子の廃嫡で怒り狂ってよ。腹の子は本当は騎士団長の子なのよ!とか言い出して。
おいおい、騎士団長妻帯者だぜ?妊娠経過から遠征中に仕込んだのも丸わかりだし、騎士の面目も丸潰れだよな。カワイソ。
ま、腹の子の父親は騎士団長でもないんだけどな。
そんなこんなで、ビッチは療養という名の幽閉。国王も魅了かかってて、最初はよ?息子がビッチに魅かれるのも無理はない、彼女の力が弱いのもたまたまであって彼女の責任ではない、穏便に済ませてくれるなら有難いとか言ってたんだけど!
ビッチはさ、遠征中のやらかしのせいである意味一番安全な愚者の塔って王族専用の貴賓牢に入れたのな?罪人としてじゃねえよ?匿うためな?まあでも、そこって魔法使えなくなる素材で作られてんだけど!そしたら一斉に魅了が切れてさ!どうなるか分かるよな!?
あの国、最早機能してねーんじゃねーの?国王がやっとのことで呼び出して会った王太子は残念ながら半端な魅了を長期に渡って受けてた後遺症で廃人だし。第二王子は子どもすぎてまだ魅了にかけられてなかったから良かったな。あの子が育つまで国があるかは分かんないけどな。
皇子様に保護された彼女は、どうやら今絶賛口説かれ中のようだ。あの様子ならハッピーエンドも近そうだ。世界も維持の方向で一安心。魔法の世界の強制終了からのやり直しって簡単なようでめんどくさいんだよ。同じ道辿りがちだからな。
『ちょっと!』
「なんか呼んでるよ。」
「みたいだな。」
『神様ってば!』
「あそこに入れられてるのに通信出来るの?」
「あ?オレの力でつなげてるからな。でも受信の感度はあっち次第だぞ。アイツ、神域聖域以外で通信出来ないから、そもそも。」
「じゃあ、ボクらの声も聞こえないよね。うおーい、クソビッチぃ〜!アバズレ〜!」
楽しそうだな、おい。自称とはいえ天使のセリフじゃねーぞソレ。
『聞いてんの!?助けなさいよ!!』
「騒音だなぁ。」
『どうなってんのよ!?この世界はあたしが主役なんでしょ!?あたしは聖女なのよ!?何でこんな目に!!』
コイツ、もしかして異世界転生モノの何かの世界だと思ってる?そういうパターンもあるけどお生憎様。ウチは違うんで。
『ちょっとおっっ!!聞きなさいよーーっ!!!』
「うっせーな、聞こえねーくせによ。」
「もういいんじゃない?通信の線、切っちゃえば?」
「同時に聖女の力もなくなるけど。」
「別にコイツにいらなくない?」
まあ、そうだな。次元超えてきたのが一人じゃなかったからあげただけだし。つか、貸してる?みたいな。
「あの子だけで何とかなりそうだし、いっか。」
「大天使様もOKだって。早急に次の転生に向かわせるように、か。ご愁傷様。」
「前世に引き続き、短い人生だったな。次はこんなんじゃないといいんだけど。」
「次回は魂が洗われるから、キレイさっぱり忘れるでしょ。」
「これ以上生きてたら畜生確実だもんなぁ。」
「死んだ方がマシって彼女のためにあるような言葉だね。」
言い得て妙だな。悪いけど、世界の安寧の為だ。すまんな。
南無阿弥陀仏!!
恋愛ジャンルではなかったかもしれませんね。
ご期待された方、すみません。
次元の管理者という設定は他の連載でも書いています。(かなり後半からですが……)
ご興味がありましたら元の作品の方もどうぞ。
『悪役同盟!〜同じ事故が原因で転生した4人の悪役令嬢は同盟を組んで断罪を回避したい!〜』
https://ncode.syosetu.com/n5496hr/