もうくり返さない
―また、またなの?私はいつまで繰り返せばいいの?
この空間も今回で86回目かしら。今までの私の姿――
いつもいつも、暗殺されたり処刑されたりほんとうんざりだわ。
その時、一筋の光が差した
あぁ、もうやり直しが始まるの?全く、少しくらい休ませてくれてもいいんじゃなくって?
フッと目が覚めた。そこは見慣れた自分の部屋。そして机の上には新しい日記、それから侍女のアンナ。この光景も86回目だ
「ラフィーナお嬢様!来月にはお披露目ですよ〜!」
「ええ、そうね。」
この返しをしたのはいつだったかしら?確か45回目。この後のアンナのセリフは…
楽しみじゃないんですか?
「楽しみじゃないんですか?」
「楽しみよ。アンナ、とびきり可愛い服を用意してちょうだい」
私はラフィーナ・アレキサンドラ。公爵令嬢。1回目の人生はそれはもう悲惨なものだった。お母様は私を愛してくれず、父も騎士の仕事で構ってくれない。愛を求めた私は第1皇子のラルク・ラクール様に付きまとい私の幼なじみで皇子の婚約者のマリーナ・クラリスをいじめ倒して処刑…だった。
初めの人生は侍女のアンナにも冷たくしてたわね。最後まで付き添ってくれた、いい侍女なのに。
だいじなのはこのお披露目会。私はまだ9歳で、目は付けられていない。だから私は今回の人生…
「お父様!!」
「なんだ」
相変わらず無愛想だわ。家族に興味が無いんですものね!私なんかどうでもいいのでしょう?
「私、剣士になりたいですわ!」
私の父、騎士団団長のマルク・アレキサンドラ。今迄にないほどアホらしい顔をしていますわ
「と、突然何を言い出す?」
「そ、そうですよお嬢様!!剣士って…」
今までは公爵令嬢として人生を歩み、全て死んでいた。だから私は自分を守れる術を、生きる術を手に入れたい。幸いにもこの国では10歳のお披露目会まで外に顔を全く出さない決まりだ。だから明日のお披露目会で剣士を目指してると言ってしまえば直ぐに広まり、変に思った皇子とも関わらずに済むはず…!2回目以降の人生ではどう頑張っても皇子と絡む羽目になっていた。今回こそは徹底的に避けきってやろうという意思がある。もう冤罪も暗殺も御免だ
「私、お父様のような剣士になりたいんですの!」
「旦那様、どうされるのですか」
「…ラフィーナの好きにすればいい」
私は初めて父の無関心さに感謝した。
「ありがとうございます!!」
そうと決まれば、と当日から剣士の訓練が始まった。さすがは騎士団長と行ったところだろう、根回しが早く信頼出来る剣士をわたしの教育係と置いてくれた
「初めまして、マルクス・サルーンと申します。お嬢様が…剣を?」
「ええ!かっこいいお父様を見ていて憧れたのよ」
本当はそんなこと1ミリもないけれど!
「では…厳しくいたしますからね?」
「ええ、よろしくお願いするわ。マルクス先生!」
その日から訓練、体力作りの日々が始まった。86回も人生を繰り返すことに比べれば簡単なもので、何回目だか忘れたけど前のやり直しの時に馬でまる3日走った時よりも楽だった。時の流れは早く、既に3週間が経とうとしていた
「ラフィーナお嬢様は飲み込みが早いです。体力も着いてきたので本格的な剣の指導に入りましょう」
今まで木刀で素振りだったのが、1対1で件の指導をしてくれるようになった。お父様は時々顔を出すが、相変わらず無愛想。お母様は様子すら見にこなかった。もう顔も覚えていない
「そうです!体重をかけて、そう。回してください」
言われた通りにすると女の私でもしっかりと押しのけることが出来た。
「ふぅ、マルクス先生は流石だわ。」
「いえいえ、ラフィーナお嬢様は女性ですから力が付きにくいので、簡単に敵を倒す方法を教えてます。飲み込みがいいのですよ」
そんな日々を送り、ついにお披露目の日の前日になった。
「アンナ。明日のことなのだけれど、いつも通りさらしを巻いて欲しいの」
「さらしですか?でも、何故…」
「そっちの方が落ち着くのよ。それから…髪を、男の子ぐらい短く切ってちょうだい」
「え、」
驚くわよね。
髪は女の命だ。この国のものは皆、そう教えられてきた。だから毛先を整える、長くなりすぎないようにする事はあろうとも、男性のようにする者など居ない。ましてや私は公爵令嬢。この金髪の美しい髪を切るなど、と思っているのだろう
「意志を示したいのよ。女だからって舐められたくなんかないもの。絶対に剣士になってみせるの!」
86回目のお披露目。でも、今日は前回までとは違う声が聞こえた。皆の前に出ていくと、会場が静まり返った。可愛らしいドレス…というのは、他の女性となんら変わりない。でも、胸は目立たせず、髪は短い。会場がザワザワとしだした
お父様が私の方をちらっと見てから、真っ直ぐと会場をみた
「我が娘、ラフィーナ・アレキサンドラです。娘は女性ですが、私と同じ剣士を目指しております。」
会場のざわめきが最高潮に達した。お父様に目で自己紹介をしろと訴えられたので、1歩前にでてドレスの裾を掴む
「ごきげんよう。本日はお披露目に来ていただいて誠にありがとうござます。先程も父から言葉があった通り、わたしは剣士になりたいと考えております。それは、父の剣士としての背中を見て育ったため。皆様が困惑するのも分かるのですが、今し方ご理解いただけると嬉しいですわ。」
そういい真っ直ぐと遠くを見つめ、1歩下がった。どこからともなく拍手が聞こえ、それに合わせて皆ぎこちない拍手をした。
私は、今回の人生で必ず、このループを抜け出してみせるわ。
「へー、ラフィーナ嬢ね。面白そう」




