廃れた町の
廃れた町の小道を歩いていた。ゴミは拾われることはなく、少しでも強く吹くと風が砂っぽい。
伸ばし放題のひげの男がつばの裂けた帽子の奥から歩行者を凝視している。そのぼろぼろのシャツの男の前を彼が通り過ぎようとも通り過ぎた後も男は因縁をつけることも乞うこともしなかった。壁に背を持たれへたり込んだ男は帽子を深くかぶりなおして、どこか安心したような表情になった。
小道を抜けると、かつては家だったと思われる、柱が四方に残され屋根のない部屋があった。かろうじて残っている背と同じくらいになってしまっている壁にもたれかかって、汚れた髪と衣服の女が座っている。彼は彼女の前で立ち止まった。彼女は彼を見上げた。薄ら笑いをした。黄色い歯が見えた。整えられてない前髪の奥からあきらめたような目があった。彼が言葉をかけると、彼女は同意しなかった。力なく言葉を捨てた。それでも彼は言葉をかけ続けた。彼女は癖のように「どうせ」というフレーズを繰り返した。崩れてしまっているのに家の、部屋のどこかが欠ける音がする、柱が鳴る音がする。風が吹いたからだ。彼女は驚く様子も逃げる様子もしない。彼が言い、彼女が答える。唯一彼女から言い出したのは煙草を持っているかと尋ねたことだ。彼は持っていないと答えた。彼女はやはりあきらめた顔をした。彼女は煙草をたしなんだことはないとつぶやいた。彼は「それならどうして持っているかと聞いたんだい?」という疑問が沸いたが、彼女に問わなかった。その代わりに彼はこの部屋は、この家はどんなだったかを尋ねた。彼女はやはりあきらめた表情はしているものの、口調だけはどこか嬉々としているようで、ああだったこうだったと語った。それは時間にしたらどれくらいだろうか。30分、いや1時間はゆうに過ぎただろう。彼は彼女を遮ることなく、あくびをすることなく、時折相槌を打ちながら聞いていた。言い終えると、彼女はあきらめていた顔から遠くを見つめるような目つきになって悲しそうにつぶやいた。「お願いします」
彼は声なくうなずくと合掌をして流々と調子のある文句を述べ始めた。それが終わると、彼女は消えていた。彼はもう一度合掌をし直した。帰る。
あの小道の、つばの裂けた帽子をかぶった男がいたところには白骨が転がっていた。




