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魔女、激怒する

ようやく魔女とご対面です。

魔女なのか、魔女っ子なのか。

ニールとリチャードの話し合いは思いの外、長引くことはなかった。


ニールはリチャードから、近々、この街と隣国との国境で戦闘が起きることを教えられた。


魔女を紹介してもらう条件は、その際の物資を無償提供することで決まった。但し、魔女の紹介料というだけで、魔女本人が依頼を受けるかは関係がない。


リチャードは一応、魔女の説得の後押しをするつもりではある。言うだけならタダだ。形だけでも手助けすれば、グッドマン商会としては尚更条件を断れない。


物資の無償提供をグッドマン商会からの申し出という形にすれば、騎士団と取引のある他の業者もそれに倣わないわけにはいかない、というのがリチャードの狙いだ。


欲を出して普段の取引額をあからさまに値引きすれば、グッドマン商会に何かあったのではないかと勘繰られることもあるだろう。


ある意味、グッドマン商会としてもありがたい条件だった。


兵站長であるリチャードも、臨時の出費が抑えられて好都合だった。


商会に戻ってマックスに報告すれば、そうか、わかった、と答えただけだった。どこからか開戦の情報を聞きつけていたのかもしれない。


マックスは案外ニールに対しても秘密主義だ。渡される情報は確実なことばかりなので、不確定なものは流さないだけとも言える。


翌日、ニールとレベッカは魔女に会うため、騎士団を訪れた。メリーは昨日のことがあるので、留守番になった。


同行を認められずに荒れ狂うかと誰しも思っていたが、意外なことにメリーは落ち着いていた。落ち着いていたというより、意気消沈していた。


騎士団で部屋を追い出された後、すれ違う若い騎士はみな一様にメリーに対して厳しい視線を投げかけた。


時折、嫌味なのか罵りなのか、耳に届くか届かないかくらいの声で呟いている者もいた。


メリーが騎士団を訪れた用件を知らずしてこの態度。規律ある騎士が身内に嫌味の一つも言いたくなるくらい、息子が恨まれているとようやく実感を持てた。


馬車まで送ってくれたヘンリーは、はっきりとオブラートに包まずこう言った。


「もう御母堂はこちらにいらっしゃらないでくださいね。彼の身内など、若い者はみな、顔も見たくありませんから。」


そう言ったヘンリーだが、ニールを迎えに玄関口に来ると、同行してきたレベッカを見て、少し意外そうな顔をした。


レベッカは、ニールがエリオットの婚約者として自分を紹介したので内心不快だった。ヘンリーはそれを察したのか、聞いていた昨日の態度とは違う、同情を含んだ目でレベッカに笑いかけた。


レベッカは今日も学校が休みでなければ良かったのに、と思った。浮気三昧だったエリオットの婚約者として見られるのも嫌だし、魔女に会うのも怖いし、ニールと二人なのも

気まずい。


昨日と同じ部屋に通され、しばらくの間待たされた。茶など出てくるわけもない。リチャードも現れない。


三十分は待っただろうか。男女の会話する声が聞こえてきたと思えば、すぐに扉をノックする音がした。


部屋に待機していたヘンリーが扉を開ける。


ニールが立ち上がったので、レベッカも続いて立ち上がった。


「お待たせしました。お連れしましたよ。」


リチャードは笑顔で入ってきた。一方、魔女と思われる小柄な女は、魔女らしい黒いマントのフードを目深に被り、口元しか見えないが、その赤い唇の形は歪んでいる。


「ちょっと!さっき断ったでしょ!めずらしくお茶出してくれるって言うからついてきたのに!!」


魔女はおかんむりだ。意外と若い声にレベッカは驚きを隠せない。


「あ!ちょっとアンタ!バカにした顔して!なんなのよ!!ソバカス地味女!アタシが若いからってバカにしてんでしょ!」


フードを取ると、この国にはない黒髪と黒い瞳、象牙色の肌が現れた。紅を引かずとも赤い唇は、大層言葉遣いが荒かった。黙っていれば異国のお伽噺のお姫さまのような風貌。歳はレベッカとさほど変わらないようだ。


「い、い、いえ、そんなこと、お、お、お、思ってません!」


レベッカは緊張すると吃ってしまう。それもエリオットとの結婚を不安に思う理由のひとつだった。結婚すれば客対応は免れない。吃るとメリーにいつも怒られて、余計吃音が出るので本当に嫌だった。


容姿について貶められたことは、エリオットで慣れているのでどうということはない。美麗な者の近くにいた故に、逆に美醜について思うことがなくなっていった。


「アタシはアンタなんかと違って、美少女な上に手に職持って、立派に生きてんだからね!侮らないことね!」


何か容姿について嫌なことでもあったのだろうか。魔女と言っても案外俗っぽい。もっと浮世離れした老婆を想像していたレベッカは、ハイ、ハイ、と、激しく何度も頷くと、魔女は満足したのか、大人しく席についた。


「リチャード!お茶!怒鳴ったから喉渇いた!」


「ハイハイ、お姫さま。仰せの通りに。」


「あー!もう!また子供扱いなの!?もう薬持ってこないわよ!」


「そうしたら、貴女は国から罰せられますよ。美味しいお菓子もいただいたところですから、怒らない、怒らない。かわいい顔が台無しですよ?」


「アタシがかわいいのは当たり前でしょ!薬は他のところに卸すからいいわよ!アンタたちはそっから買えば!美味しくなかったら承知しないんだからね!ホントにやるわよ!」


「味は保証しますよ。なんといっても、グッドマン商会の人気商品ですからね。」


ニールは昨日、贈答用に一番上等な菓子を手土産に持ってきた。それを魔女に出すつもりらしい。


魔女は目を眇めてニールとレベッカを見た。


「ふうん、なら、楽しみだわ。」


レベッカは魔女の視線ひとつで完全に固まってしまった。


やはりここへ来るべきではなかった。つくづくそう思った。


魔女、攻撃的な性格と思いきや、実はリチャードに甘えてるだけです。騎士団では他の騎士とは余りしゃべりたがりません。

客とはちゃんと話します。基本、偉そうですけど。


次、エリオットの件について魔女の説明回。


お読みいただき、ありがとうございます。

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