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王子様は見放される

魔女にはまだ会えませんでした。

エリオットパパンの決断です。

当然の帰結とも言えます。

この街には騎士団と警察がいる。


騎士団は国境沿いにあるこの街の防衛、国から派遣されている軍隊だ。警察はその土地の人間で組織され、犯罪を取り締まり、防犯を喚起したりと街の治安を守っている。


有事の際は協力体制を取るが、お互い独立した組織だ。


魔女へのつなぎを騎士団に依頼することをエリオットの父マックスは渋ったが、ニールがメリーに同行して警察の管轄に当たるエリオットの件を騎士団に報告しても問題ないように取り計らう、と言うので、出し惜しみはするな、と一言伝えると、その件ばかりにかまけてはいられないと言わんばかりに仕事を続けた。


メリーはそんなマックスに対して冷たいと怒ったが、お前は過保護なんだ、これは自業自得だ、と、レベッカの手紙のことから女関係のトラブルと推測したのか、書類に目を落としたまま呆れた顔でため息をついた。


メリーは怒りでわなわなと震えて更に怒鳴り散らしたが、ニールに止められて騎士団へ向かう準備を始めた。


マックスは、勤務態度は悪くないし営業マンとしての成績も良いが、私生活に自重が足りないエリオットを経営者として信頼するにあたわず、と今回の件で見切りをつけていた。


このままではいずれ、エリオットの行いで商会の評判が下がるだろうと危機感を持つほど、街でのエリオットの評判は最悪だった。


マックスは、エリオットは観賞用には良いが、奴と個人的に関わるな、と、年頃の娘を持つ親が娘たちに言い聞かせていると知っていた。


だが、メリーはその現状を分かっていない。耳にしていないわけではないだろう。ただ、息子が女たちから愛されるのを年甲斐もなく嫉妬する男親の戯言だとでも思っているのだろう。


商会にはエリオットより四つ上のニールの孫が働いているのだが、サマンサと恋人関係で、なかなか見込みがある。


彼を婿養子にして頭に据えてもいいし、彼には相応しい立場を与えてサマンサを後継者にしてもいいとマックスは考えていた。ニールもそれでも構わないと言っている。彼と二人三脚で商会を盛り立ててくれることだろう。


しかし、日頃から目が余るほど過保護にこよなく息子を愛するメリーがそのことを知れば、今の比ではないほど荒れる。


まだ話す時ではない、今はとにかくエリオットが目覚めるのを待つばかりだ。


メリーとニールは、騎士団に着いた。アポ無しだったが、袖の下を握らせて、なんとか面会することができた。


面会用の部屋に入ると、交渉ごとの時によく見る若い騎士が二人、壁際と扉の前に立っていた。


「急にお伺いして申し訳ありません。お時間を取っていただきありがとうございます。」


二人は頭を下げた。向かい合うのは、取引で顔見知りの資材管理の責任者だ。もちろん、騎士である。兵站長という立派な役付きだ。


「いやぁ、突然で驚きましたけどね。いつもグッドマンさんにはお世話になってますから、お気になさらず。今日はどうされました?」


国境沿いの街に駐屯している騎士、特に役付きは中央から来ている貴族の中でも武門で知られる家が出身の者だ。そういった家の者が多い中、兵站長のリチャードという男は平凡な男爵家の出身で、平民である商人にも気さくな態度で接する男だった。


だが、締めるところは締める。平たく言えば、値切り交渉が上手い。商人からすれば手強い相手だ。


今回の件で助力を願えば確実に足元を見られる。しかし、マックスは出し惜しみするな、と言った。


経営者としてエリオットに見切りをつけたが、息子を助けたい気持ちはあるのだろう。純粋な親心なのか、何か思惑があるのか。


ニールが事情を説明した。マックスから、メリーは主観的なことしか言わないからなるべくしゃべらせるな、と指示されていた。それ以前に、メリーは交渉ごとが得意ではない。


数字に強く、トラブルシューティングには定評のある彼女がなぜ、と従業員は一度は思うが、胆力があるが故に自分が思うようにことを進めたがり、後からクレームが発生することもしばしばだったので、納得せざるを得なかった。


サマンサが産まれたことで一度仕事から離れたのを機に、見栄えのする肩書きをつけて裏方に徹するようマックスとニール、そして先代で誘導した。それはメリーの自尊心をひどく喜ばせた。


「そうですか、そのようなことが。お仕事柄、表沙汰にはしたくないでしょうに、よく相談してくださいました。それで、私どもを頼ってくださったのは?」


リチャードは、まるで心の底から心配しているような、親切を装った顔をする。


「医師のケビン先生のところの看護師のアン女史に、明日、森の魔女がこちらに薬を卸しに来ると伺いました。その時にご紹介いただけないでしょうか。」


後ろで控えている若い騎士の一人がピクリと眉を顰めた。もう一人は苦笑いしている。


「うーん、あの人はちょっと偏屈でねぇ。まあ、魔女なんてものは往々にして変わってますがね。普通の薬師では作れないような薬を扱うので、国で保護されている存在なんです。そこはお分かりですよね?」


魔女たちは隣国の、そのまた向こうにある山々を越えて、ある日突然現れた。迫害されて逃げてきたというが、その実、元いた国の為政者に使い潰しされるのに反発して、一服盛ってから出奔してきたのだった。


遠い異国の薬の知識を武器に、この国の中枢にすり寄りつつも自由にしているのは、囲い込めば祖国の王族の二の轍を踏ませるぞ、と脅しをかけたからであった。


騎士団に薬を卸しているのも、この国での永住権を得るための条件のひとつだ。もちろん、他にもいくつかの条件があるが、あとは森で自給自足に近い生活をし、たまにやってくる個人の客を相手に法外な金をぶん取って暮らしている。


「もちろんです。無理なお願いを申し上げていることは重々承知しております。森の魔女にエリオットさんを治していただけるのなら、治療費も言い値で支払うつもりです。騎士団にももちろん、お礼をさせていただきます。個人的な金銭は受け取れないとおっしゃるならば、お取り引きで出来る限りの融通をさせていただきます。」


ニールは直球勝負に出た。騎士団は公的な組織なので、表向き賄賂は受け取れない。もちろん裏ではそういうやりとりが横行しているが、見つかれば厳罰対象、場合によってはクビになる。リチャードは危ない橋は渡らない男だ。門番に握らせた程度の賄賂ですら受け取らない可能性がある。


「お願いします!このままでは息子が衰弱して死んでしまいます!なんでもいたしますから、どうか森の魔女につなぎをつけてくださいませ!あの子は、あの子はすっかり冷たくなってしまって、まるで死んでいるようで、このまま儚くなってしまったらと思うと本当に恐ろしいのです!リチャード様、どうか、どうか、森の魔女をご紹介くださいませ!!」


メリーが目に涙を浮かべて訴えた。マックスから黙って頭を下げているように言われていたのに、完全に興奮状態に陥っている。


「なんでも、ですか。申し訳ないですなぁ。」


言質を取られてしまった。面倒な交渉になることは確実だ。


ニールは余計なことを言ったメリーを苦々しく思った。

エリオットはパパンに切られたことをどう思うのでしょうか。


話が遅々として進まず。週末には完結する予定です。

連載にするとあれもこれもと書き込んでしまうので、なかなか終わりません。難しいですね。

上手にまとめられる作家さん方を心から尊敬します。


お読みいただきありがとうございます!

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