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王子様は診察される

エリオットの新たな女、登場。

店に着くと、再びロンがエリオットをお姫様抱っこで住居部分まで運ぶ。気を失った麗しい男が、筋骨隆々の逞しい男に横抱きで運ばれる様はどことなく耽美であった。


自室のベッドに降ろされても、エリオットは起きない。体温がかなり下がっているので湯たんぽを用意して、布団を厚めにかける。


マックスは店に着いてすぐ仕事に戻った。メリーに医者の診察が終わったら呼ぶように声をかけていたので、心配していないわけではないだろう。


メリーはベッド脇に椅子を置き、布団に手を差し入れてエリオットの手を握った。


「このまま目覚めなかったらどうしたらいいの……」


退室するタイミングを逃した上に、仕事に戻っていいかも聞きづらい状況で、レベッカは手持ち無沙汰になった。


レベッカとて、エリオットが心配でないわけがない。しかし、原因も分からぬ状態では何も出来ない。


ニールが扉をノックして医者を連れ入ってきた。看護師の女性も一緒だ。レベッカはエリオットが彼女とデートしているところを見たことがあった。


「奥様、ケビン先生がいらっしゃいました。」


「ああ、先生!息子が、息子が、眠ったまま目覚めないんです!何をしても起きなくて、身体もこんなに冷たくて……どうか、なんとかしてください!」


メリーは縋るように涙声で叫ぶ。


「診察いたしますので、少し離れていただけますかな?アン。」


看護師はアンというようだ。サイドテーブルで診察のための器具を手際よく準備していく。


ケビン医師はエリオットの脈を取り、血圧を測り、眼球を確認し、シャツのボタンを外して体温計で計っている間に聴診器をあて、所見をカルテに書きつけている。


一度退室したニールが洗面器に水を入れて戻ってきた。


口をガーゼをかませて開かせ、舌の色を確認しようと顔を近付けると、「ん?」と小さく漏らした。


「何が分かりましたか?」


とメリーが問う。


「ん、ああ、いや、甘い匂いがしたもんでね。なんだったかな。」


眠りの直前に口にしたものの匂いだろう。酒の匂いでもしたのだろうか、とレベッカは思った。


「今のところ身体に異常は見られませんね。」


ケビン医師は洗面器で手を洗い、フム、と考え込んだ。


「アン、試薬出して。」


アンはサイドテーブルの上の器具を片付けると、いくつかの瓶を並べていく。スポイトをケビン医師に手渡すと、またおすまし顔で控えていた。


ケビン医師はスポイトで、先程口を開けた時から噛ませたままのガーゼをエリオットから引き抜いた。試薬で濡らしていき、色とりどりの試薬が小さく滲んでいくのを皆で注視している。


「ああ、これか。」


ある試薬が、元の青色から緑色に変化した。


ケビン医師は床に置いた大きな鞄から紙を取り出して処方箋を書いてくれた。


「ニールさん、とりあえずこれを大至急もらってきてくれますか?」


ニールは処方箋を受け取り、一礼して部屋を出ていった。


「先生!息子は!エリオットは!大丈夫なんですか!?」


「うーん、今のところ命に別状はありません。ただ、今ニールさんにお願いしたものは生命維持に必要なものなので、それを飲ませなければいけないんです。」


「それじゃあエリオットは目覚めないと言うの!?」


「わかりません。」


「どういうことですか?」


「症例はね、文献で読んだだけで実際見るのは初めてなんですが、この状態の原因は魔女の秘薬なんですね。彼女らは我々とは違う薬のレシピを持っています。研究者はいるんですが、まだ分からないことの方が多くてねぇ。今回は知られている秘薬だったんで、試薬に引っかかりましたけども。どうすれば目が覚めるのかは分かっておらんのですよ。魔女に聞いてみるしかないですね。」


「魔女……」


メリーは呆然としてしまった。魔女は世界のあちこちにいる。この街にも、日帰りできる距離の森に住んでいる。だが、森のどこに家があるのかは分からない。見つかったら幸運を神に祈れ、と言われるくらいだ。


ケビン医師は、今回の秘薬は人間ではあり得ない仮死状態にし、眠りにつかせるもので、緩やかに死に向かうらしい。薬で栄養と水分を摂取させると、そう簡単に死ぬことはないと言う。意識のない人間に飲ませるのは大変だが、そこはまあ頑張って、と言われてしまった。


ケビン医師は帰ったが、アンが残って、飲ませ方を教えてくれることになったので、ニールが帰ってくるまで待機だ。


「私、お茶を入れてきます。」


「……そうね、アンさんもおかけになって。」


「ありがとうございます。」


レベッカがお茶を用意して戻ると、ニールはすでに戻っていて、メリーがアンから薬の飲ませ方の指導を受けていた。


「このようにして、一日五回、飲ませるようにしてください。そうすれば、この症状で生命維持に必要な水分と栄養を摂取出来ますので。」


「わかったわ、どうもありがとう。」


「……いえ。」


アンは複雑な顔をした。それもそのはず、薬代にカンパした一人だったからだ。解毒薬の入手先を教えることもアンの役割だった。女たちは人殺しになるつもりはなかった。


「森の魔女は月に一度、騎士団に薬を下ろしに街へやってきます。明日がその日なので、そこを捕まえるといいでしょう。聞き入れてもらえるかはわかりませんが、騎士団に話を通せば会えると思います。森で闇雲に探すよりは早いはずです。」


騎士団には商会も消耗品などを納入している。融通してくれるかもしれない、とレベッカは思った。


「そうね。ニール、悪いけど今から私と一緒に騎士団本部へ来てくれないかしら?レベッカ、馬車を一台お願いしてきて。」


二人は了承し、部屋を出た。アンも挨拶して退室する。


ひとり部屋に残ったメリーは、エリオットの手を取り、甲をさする。


扉の陰に隠れて、サマンサがそれを見ていた。


「馬鹿な息子ほどかわいいのね。馬鹿な女。」


フン、と鼻を鳴らすと、部屋には入らずにそのまま持ち場へ戻って行った。

エリオットママンは息子ラブです。

サマンサはそれが気に食わない。


次回は無事に魔女に会えるのでしょうか。


みなさま、お読みいただきありがとうございます。

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