二番目の選択肢
夕食を終え風呂に入ってからも、春菜の頭からは病院の一幕が離れないままだった。なんとか無理やりに振り払うと、課題を終えて合作小説のノートを開く。
(ええと……続きは、と……)
森山の書いた部分を読み進めていく。
するとその末尾に、小説と関係の無い一文が添えられていることに気づいた。
(……『明日 四時に1-Fの教室に来てください』……?)
森山の筆跡であることは間違いない。
1-Fといえば生徒数が減ったため、春菜達の代から使われなくなった空き教室だ。そんな場所に呼び出して、一体何の用があるというのだろう。
……もしや掃除の手伝いだろうか。
(明日の放課後は剣道部の応援があるし、昼休みに用件だけ聞きに行こうかな……)
そんなことを考えながら、春菜はノートを閉じた。続きを書き進めたいが、もう少しだけ構想を練りたい。
明日の休み時間を使って書こうと決めた春菜は、涼しい秋風の入る窓を閉めると、早々に眠りについた。
首筋を撫でる感触。
布越しに触れるその指は、何か壊れやすいものを扱うかのように、優しく、そして容赦なく春菜に触れてきた。
首筋から鎖骨まで行き着くと、今度は顎に添えて輪郭をなぞる。重たく思考の回らない頭を何とか奮い起こし、春菜はゆっくりと目を開いた。
「な、何して……!」
「おや、目覚めてしまいましたか」
流れるような銀の髪と意地の悪い笑顔を浮かべたまま、死神は春菜の傍らに腰掛けていた。春菜は慌てて体を起こすと、少しでも距離を取ろうとベッドの端に身体を寄せる。それを見た死神はどこか寂しそうに眉尻を下げた。
「次の取引に参りました。今回選ぶのはそうですね……不器用な求道者『津田篤史』。そして、救われない賢者『森山純』。……さて、貴方はどちらを残しますか?」
「津田先輩と……純君……」
どうしてよりによって、と春菜は瞑目する。
明日は津田から誘われた剣道の試合がある。一方森山には、ノートに書かれていた用件が何か、確認しなければと思っていた。
忘れてしまえば、きっと彼らとの約束を反故にしてしまうに違いない。
(どうしよう……私は、どちらを選べばいい?)




