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あまりに外に出たいと駄々をこねる私に、
陛下は話し相手を連れてくることにしたらしい。
彼女はアイリーン・マクベラー嬢。
第二王子のレイド殿下の婚約者である。
神殿に赴いた彼女の華やかな容姿は、
白を基調とする殺風景な(侍女のギリスは神聖だといつも訂正するが)私室では、
とてつもない違和感があった。
金の波打つ髪に、緑の深い瞳。
白い健康的な肌、桃色の愛らしい小さくほがらかな唇。
何より袖の膨らんだ美しい絹のドレスは、
彼女のために作られたのかと思うほど見事に似合っていた。
しかしながら祈りと予知のために作られただけの、この静寂の神殿には
彼女、アイリーンは新しすぎたのである。
「お初にお目にかかります聖女様。私第二王子レイド殿下の婚約者、
アイリーン・マクベラーと申します」
「初めまして。まさかあなたが来てくれるなんて驚きだわ。
ずっとお会いしてみたかったの」
「うれしいお言葉ですわ。私も聖女様にお会いしてみたかったのです。
お噂は陛下や妃殿下より聞き及んでおりました。正確な予知を二か月先まで見えるとか」
「私もあなたに会いたかったの。陛下がよくあなたのことをお話ししてくださるから。
言葉では言い表せない美しい容姿に、
王族にふさわしい高い教養と人格の持ち主だと言っていたわ」
「何をおっしゃいます。私ごときがそのようなこと」
「陛下の言葉は正しかったわ。私、同年代の女性と話すのは初めてだけれど、
若い女性でもあなたのように美しいわけではないと知っているわ。
あなたみたいな侯爵の貴族が、辛気臭い神殿に来ていただくのは心苦しいけれど、
外に出られない私のことを憐れに思って許して下さいね」
「一国の命運を担う聖女様がそのようなことをおっしゃらないで下さいませ。
私こそ誇り高き聖女様にお会いできて光栄に思います」
「同じ年と聞いています。仲良くして頂ける?」
「私で良ければ喜んで」
彼女の美しさと、聞きやすい声の心地よさ、
同年代の女性にすっかり虜になった私は、
彼女にいろいろ質問する。
貴族社会の学校のこと、お茶会での同級生との噂話、
身につけるドレスや装飾品の数々、
この間妃殿下直々に呼ばれたパーティー。
すべての話が私には新鮮で。
羨ましくて。
想像しているだけでこんなにも胸が躍るのだから、
実際彼女はどれだけ毎日楽しく過ごしているのだろうと思わずにはいられなかった。
その中でも、アイリーンの婚約者レイド殿下の素晴らしさを語らせると
それまで以上にアイリーンの話は長くなる。
「レイド陛下と私は生まれた時からの婚約者でして。
彼は学校の成績も首席で、
すでに王族の気品と器量が備わっている人格者なのです。
剣の腕はなかなか見事ですが、実際人を動かす技量の方が勝っていますわ。
心根も優しく、何より平等の精神を持っていらっしゃいますの。
彼のそばにいられるなんて私は幸せです」
ここまで言わせるレイド殿下に、私は一度もお会いしたことがない。
聖女とは日々神殿にこもり、世界のことを学び、
予知をするだけの目的で生きているので、
おいそれと人と面会はできないのだ。
今日のアイリーンとの面会はだだを捏ねた私の我儘だ。
しかしそんな王子なら、私も一度お会いしてみたい。
「アイリーン様がそうおっしゃるなら、とても素敵な方なのでしょう。
アイリーン様は殿下のことがお好きなのですね」
その言葉に、アイリーンは頬をうっすらと染め上げ、貴族令嬢らしく上品に、
美しく微笑んだ。