マリアとアイリーン
生まれた時から並みならぬ守りの光を持ち合わせていた私は、
母と共にすぐ神殿の中奥にまで連れて行かれたという。
生後五日で私はかごの鳥となり、生まれて15年、この神殿敷地内から一歩も外に出たことはない。
なので身分も出自も、容姿さえ関係なく、この年まで祈りをささげてきたことに、
何の疑問を抱かずにいたかといえばそうでもないのだ。
私の生まれた故郷ゴルスーン帝国は、他国に引け目を取らない軍事国家であり、
同時に宗教を重んじる部分もある。
聖女という宗教上の存在と、他国との戦争を同時に並行させる国。
なぜなら聖女とは、教会の祭事に参加するだけではなく、
未来を予知し、人を導く力を持っているのだ。
はるか昔には、聖女には人々を災害から守り、人を癒し、国は栄えたと伝記には残っているが、
今はそんなことをできる聖女はいない。
聖女は国の人間から一人逝去する度に、また一人赤ん坊として復活する。
それは貴族の人間だったり、また辺境の村娘の赤ん坊だったり、無作為に選ばれる。
選ばれた赤ん坊は光り輝き、背中に美しい勾玉の文様が小さく浮かび上がっている。
母はまさか自分が聖女の母になるとは思いもせずに、目を白黒させるばかりであったという。
こうして私は聖女となり、父母と村の村長と共に、
国の中枢市であるラグーン城下に赴いたのだ。
私たち聖女が今できることといえば、未来を映像で予知し、ありのままを国の臣下に伝えるだけ。
国の未来が見えるなんて、今まで役に立ったこともないし、
何よりうら若き乙女である自分が、神殿内で15年も閉じこもっていられることに、
我慢の限界がきていた。
このまま何も外の世界を知らずに、生を終えるなんて嫌!
外の世界がどんなものか私は見てみたくて仕方なかった。