第六話 『拳王と剣王』
「け、剣王だと…!?まさか、この世界にもそう言う最強キャラがいるのか!でも、その割に腰に剣が刺さってないんだな。無刀の剣王とか!?」
「ははは、面白いことを言うね、レンは。恐らくレンが考えている剣王は字が違うと思うよ。この拳だけで世界を守る役割を与えられたのが拳王さ。世間からの期待に応えられるかに押し潰されそうな毎日だけどね」
苦笑いしながら説明する。彼の苦労は底知れない物であるかも知れない。だが、何故こんな所で自分と話をしているのであろうか。
「あ、あのーハルスタインは何でこんな変な奴と深く関わるんだ?じ、自分で言うのも何だけど俺って周りから見たらおかしい奴じゃ…」
流石に気まずいと思ったか、流し目で横を見ながら低い声で呟くように尋ねる。
「んー。君が少し困ったような顔をしてたから、かな。何かあるならこんな僕で良ければ力を貸したいんだ。見たところ君はこの国の人じゃないように見えたのも一つかな」
「こんな僕って圧倒的な力もってんだろーが。まぁ、それだけでありがたいっちゃありがたいんだけどなぁ」
掌を差し出し、自分は味方だと伝えてくる。そこには一点の曇りもない、純粋な善意の塊を感じることができた。だが、事情を説明しようにも語彙力の問題ではなく、ただの妄言虚言と思われかねないのだ。迂闊にペラペラと話すことでもない。
「あ、あんがとな、ハルスタイン。俺はやる事があるから大丈夫だ。何かあったら頼りにしちまうかも知んねーけど、そん時はよろしく」
差し出された手を強く握り返し、硬い握手を交わす。少し驚いた様子のハルスタイン。だが、すぐに笑顔を見せると、
「喜んで。ここを真っ直ぐ進めば街中に出るから、気をつけて」
と言って、去っていった。
「またどこかで会えるかもな...。拳王、か。あの手は尋常じゃ無かったぜ。ゲーム歴十五年の俺が言うんだ、間違いない。あれはいわゆるチートキャラって奴だな。その能力俺に欲しいんだが...」
ため息をつきながらジャージのポケットを弄る。すると、先程自分が気絶した場所の傍に置いてあった手紙の事を思い出した。
「あぁ!こ、これ読めなかったんだ!だ、誰かに...いや、ハルスタイン!!」
ハルスタインと別れたのは僅かの間だ。来た道を逆走すれば会えるはず。加速しながら道を抜ける。すると、何故か大通りに出てしまった。
「ちっ、遅かったか..?くそ、これじゃ、意味ねぇじゃねえかよ」
舌を鳴らし、大通りにいる亜人種の多さに苛立ちを感じ始めた。元々、人混みが好きな方では無かったのだが、人間ではない、二足歩行のまさしくファンタジー世界にいる見たこともない種族が、道を支配するかのように埋め尽くしていると思うと苛立ちを隠しきれなかった。
だが、レンは見た。一人、一人だけ空気の違う何かが歩いていた事を。
気配を感じ、辺りを見回す。
ーーー見つけた。黒服に、碧眼の美少女。まさか、ここで会えるなんて。
気がつくと、肩を掴んでいた。愛おしい、華奢な小さな肩を。その瞬間、驚いたように吐息を溢す。
「なっ、何!?」
すぐさま、警戒に切り替わる。何かあれば即座に抵抗出来る様に。だが、レンの顔を見て今さっき見た顔だと気づいたのか、警戒を解いた。
「さっきの落下……いや、、襲われてた人。怪我は無いようね。まぁ、私が治したから感謝なさい。そ、そこに膝跨いで崇め称えてでもしてもらおうかしら」
「怖ぇよ!何がどうして美少女に膝跨ぎながら崇め称えるなんて絵面、どこの誰が好むんだよ!シュール過ぎるわ!でも、傷確かに治ってる。あ、ありがとな」
ふんっ、と鼻で息をすると、こちらを強く睨みつける色が濃くなった。あまりこちらを見られても恥ずかしい、としかレンは感想が出なかった。
「あなた…私を見て、何も思わないの?」
「思うも何も、可愛過ぎるなーって。何か?口裂け女みたいな感じで訪ねてくるなよ。逆にそっちの方が警戒するわ」
思ったままのことを言葉にして伝える。それが彼女にとってはアッパーをかまされたようで、ぼっ、と顔が沸騰する。
「な、何言ってるのか分かってるのあなたは...。私は魔王の血が…」
「あーー。魔王とか俺知らねーよ。とにかく、俺は助けてくれた君に何かお礼をしたい。何でも手助けするから!」
彼女の顔から動揺の顔が隠せない。それは彼女が自分は周りとは違うと種明かししているようなものであり、他人の感情に疎いレンもそこは容易に察する事ができた。
「とにかく!何でもするからさ、言ってよ。因みに!俺の名前はシノハラ•レン!天上天下、唯我独尊の無一文!!よろしくな!」
最高の笑顔で彼女を迎え入れる。いや、迎え入れると言っては些か強引過ぎるであろう。
大声で叫び、やり切った感半分、白けちゃったらどうしよう感半分。後は彼女の出方次第だ。
「ふっ、ふふふ…」
今にも吹き出しそうな笑いを我慢する声が聞こえる。そしてそれはーーー。
「あはははは!レン、よろしくね。私の名前はアリシア。手伝ってくれるって言ったわよね。なら、一緒についてきて欲しいの」
初めてあった時、どこの誰かも知らない自分を颯爽と現れ、救ってくれた美少女ーーアリシアはレンを真っ直ぐ見つめながら手を差し出した。
その手をレンは迷うことなく手を取って、
「レディー、アリシアが望むなら喜んで」
ここから進んで行こう。時を動かそう。
お互いに手を握り合いながらゆっくり、歩いて行った。
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遅れて申し訳ありませんでした。最後の方は終わりっぽいけど、全然です。ここから、残虐なシーンとか増えていく感じなのでそろそろご注意を。うまく表現できるよう懸命に書いていくので。ではまた。