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異世界で俺は生きていく  作者: ちこくはん
第一章 全ての始まりはここから
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第五話 『魔王の血を引く娘』

 高い声が響く。今は顔を踏んづけられて声の主の顔を見ることができないが、性別は女だろうということは分かった。


「だっ…誰だテメェは!?」


 チンピラの声が上ずる。動揺しているのか。そこまで動揺しなければいけない相手なのだろうか。


 男の足が緩み、女の顔を見上げる。


 俺と同じ黒髪で、背中までスラリと伸びた艶のある髪だ。服装は黒。だが、目は碧眼で同じ人間では無いことが一目で分かる。だが、服の間から見える肌は透き通るように白く、相対するギャップを感じさてこそばゆい。

 一言で表すならばーー。

 

「すげぇ美少女…」


 思わず、見惚れていた。


 だが、チンピラは以前態度を崩すことなく、怯えに近い状態だ。


「その黒髪に碧眼…!お前、まさかまおっ…」


 チンピラの言葉が止まる。いや、止めさせられたのだ。彼女から放たれた黒い弓が彼の頬を掠めたことによって。


「やめて。こっちだって迷惑してる…」


 軽く俯き、声が小さくなる。何か、彼女には秘密があるのだろうか。


「けっ!分が悪ぃ!覚えてやがれ!くそったれめ」


 よく聞く捨て台詞を吐き捨ててチンピラは奥へと消えていった。とにかく助かった。このままいけばチンピラに蹴り殺されるか、ナイフで刺されて召喚ライフが終わるところであった。


「………っぁ」


 声が掻き消える。意識が遠のく。感謝の言葉も言うことができずレンは気絶した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「んがっ」

 

 奇声を発して目覚める。先程の出来事は夢では無かったようだ。うつ伏せで寝ていたせいか、顔が痛い。


「と…ありがとう、助けてくれて」


 気絶しまって言うことが出来なかったがやっとお礼を言うことができる。そう思い、振り返る。


 そこに先程いた彼女の姿はなく、ただ一つの置き手紙が残されていた。


「…なんて書いてあるか読めねぇ。いや、字が汚いとかじゃなくて文字自体が読めないって意味で」


 手紙の内容が読み取れない。言葉は通じて文字は読めないとか、飛んだファンタジーだ。


「…しゃーねぇ。今度は女の子を探してふらふらとまいりますか」


 今度は裏道などは通らないように配慮。そして、この辺りに住んでそうな人に聞き込みを行った。


「誰か知らねーのかな。あんだけ目立つ格好してりゃ、チラチラ見られるんじゃないかって思われるんだけど…。まさか!ゆ、幽霊とか妖怪的な!?」


 もしそれが本当ならば恐ろしい。だが、そんな事は無いであろう事はわかっている。実体化できる幽霊などいてたまるか。

 

 いくつかの人に聞いても答えは決まって「知らないなぁ」のワンパターン。それに横目に目を逸らされ話されるのが気になったが。

 とにかく話をしたくない、打ち切ってしまいたいと向こうから話を切り上げられてしまった。


 この世界観は恐らく髪を染めても何も違和感が無いのだろう。黒髪の人物など恐らくは彼女と俺だけではないかと錯覚するくらい皆染めている。いや、染めているのか?地毛っぽい気がするが。


「えぇ…。これほど探してまで見たからねぇとかどんだけミステリアスチックなんだよ。惚れるわ」


 ブツブツ言いながら歩いているとどうやら街の端の方まで来てしまったようだ。

 曲がり角を曲がる。再び肩がぶつかってしまった。


 これは。まずい、デジァヴという奴だろうか。王道展開で行くならば再びチンピラと遭遇。今度はレン自身の力でチンピラを撃破して、少しずつレベルを上げていく展開になるのだろうが。


「すまない、大丈夫かい?」


 やけに透き通るような声。聞く者をふんわりとさせる朗らかな声。その声のおかげで反応が少し遅れた。


「あっ、あぁ。すんませんでした」

 

 先程と同じ地雷を踏まないため、即座に謝る。しかも深々と。これで許してくれなかったらもうどうしようもないだろう。


「いや、こちらに非がある。すまない。頭を上げてくれ」


 どうやら怒ってはいなさそうだ。顔を上げ、相手の目を見る。


 堅苦しそうな格好であった。白い制服だろうか、スラリとした体型にフィットした感じ。見た感じ、この国の警察か、衛兵かなんかだと思う。清々しそうな顔立ちで見るからにイケメン。

 イケメンというと自分の地位の高さを棚に上げ、調子に乗るのがお約束。それを何回もレンは味わって来た。つまり、イケメンにはあまりいい思い出がない。


 だが。この青年はどうだろう。お互いに非があるにしろ、すべての罪を自分で被り、相手に気遣いをする心広さ。これはさしものレンも心を打たれた。


「いやー。こっちも非はあるのに…すまねぇな。えぇっと…」


「ハルスタイン•ガルバトスだ。下の名前は刺々しくて嫌になるよ。ハルスタインと気軽に呼んでくれ」


 名前を名乗り、爽やかな笑顔付き。とてもじゃないが怒るに怒れない。そもそもレンが怒る理由など無いのだが。


「シノハラ•レンだ。よろしくな、ハルスタイン」


 手を差し出して握手を交わす。


 驚いた。彼の掌は何か、『重み』を感じる。レンは一般人故、そんなものは感じる事はできない。だが、彼の手からじわじわと伝わってくる何か。


「ーーっっ!ぇ?な、何だ?お前と手を繋いだ瞬間、なんか変なのが体に流れた気が…」


「あぁ、すまない。僕の力が伝わって流れていってしまったようだね。全く。扱いづらい力を持つとお互い困るよね」


「???全然分からないんだが?ハルスタイン、お前って衛兵とかじゃ...」


 首を傾げる。さっきからハルスタインの言うこと一字一句が分からない。


 すると。


「今の僕の肩書きは『拳王』。これで通っている。肩書きに恥じぬよう、懸命に生きているところさ」


 ニコニコとしていた彼の顔が突然、真面目な顔へと変わる。

 どこか、彼を取り巻く空気が変わった気がした。






 

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