第一話 『異世界さんこんにちは』
ーーー朝。目覚めたはずだった。いつも通り起きて、いつも通り朝飯を食べて、いつも通り学校へは行かず、いつも通り寝る。繰り返しの人生を過ごすはずであった。
網膜が捉えたのは闇。そこには何もないただ漆黒の闇だけであった。
「暗ぇな…起きる時間間違えちまったか?」
目を擦りながら欠伸をして、背筋を伸ばし、周りを確認。が、
「だから闇しかねぇって。何してんだ俺。一人芝居か?」
何もする事が出来なかった。しばらく考え事でもして、待っていようとでも思っていた。
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その男、篠原 蓮がこの世に生を受けたとき、彼の目が世界を認識したのは五歳の夏、父親の葬式場だった。周りの人が涙を流し、母も涙を流し、自然と自分も涙を流していた。
その時から彼は涙を人前で見せるのは止めた。どんなに悲しくても泣いたら恥だ。と謎の自己理論で自分を組み立てた。
自分を愛し、自分が愛した父が居なくなってからは彼は孤独感に苛まれてきた。いつしか、学校にすらも行かなくなり、最後に学校に行ったのは十七歳の誕生日の日だったか。サプライズで学校に行って、滑って逃げるように帰ってきたあの日から。
ネットにかじりつき、怠惰に過ごす日々。その日々が彼を壊していったのであろう。
自分でもため息を付きたくなる話だ。
「全く…嫌なもん思い出すんじゃないぜ。てか、そろそろ何かしらアクションが欲しいのだがなぁ」
すると、視界の先に一点の光が灯る。反射的に目を瞑ってしまったが確かに見た。
ーーー椅子に座る一人の少女を。
光へと向かう。一歩一歩足取りを確かめながら。
「……」
「あの?ど、どなたかな?これは…夢?」
そこにはクリーム色の長い髪をした少女が居た。身長は百八十程ある蓮よりは十センチ程度小さいか。目の前に行っても何も話さない少女に戸惑いを隠せない。すると
「ようこそ。異世界へ誘われし者よ」
一音もトーンを変えない言葉に思わず驚愕の表情を隠せない。
「あなたはこの世界に呼び出されました。この世界で生きていくことになります。何卒、ご了承を願います。さて、そろそろよろしいですか?」
「待て待て待て待て!!!話を打ち切んな!!なんだそりゃ?んな、馬鹿な話があってたまるか!ちょっ、まっ...」
空間に穴が空いた。そこは固い地面を映し出している。ここは空にある空間なのだろうか。
「…地点のご活用を。それでは」
「な、何!?なんて言っ…」
ーーーー落下。人の話を聞かぬまま、名前も名乗らず勝手に話を打ち切った挙句、空から落とす。
ーーーこれは死の匂いしかしない。
遥か上空で浮いているレンはどうしようか迷っていた。