第十四話 『一歩と万歩』
微かに笑うその美青年は誰がどう見てもその場を支配している事が分かる。常軌を逸している。それは日常に放り込まれていたレンの目ですら彼の背中からオーラのようなものが見えている。
「ここまでよく耐えたよ、レン。そして遅くなってすまなかった。お詫び…と言っては少々血生臭いものかもしれないが、『拳王』の力、特とご覧あれ。そして、この化物を無に帰そう」
背中から溢れ出るオーラが徐々に集約されていく。それは拳一点に固まり、とても大きな迫力があるものだった。
「ガ、ガァァ…!」
この化物ですら格の違いを見せつけられたのか、咆哮しハルスタインへと拳を向ける。が、ハルスタインは横にステップを踏み、躱す。もはや、建物の意味を成していないこの小屋に大穴を開けて、ついに崩壊。その時の破片がレン達がいる方向に飛んでくる。
「う、おぉぉお!!」
こちらには躱す為の力すら残っていない。張り詰めていた糸がハルスタインの登場によってプツリと切れてしまい、今までの疲労が一気に襲いかかってきていた。そんな中、せめてアリシアが怪我を負わないように自分の腹にアリシアを丸め込ませて抱え込む。背中に当たった木の破片が出血を促した。
「が…!」
「大丈夫!?何で、私なんか庇わなくてもよかったのに…!」
慌てふためくアリシアは即座に治癒魔法をレンに送る。
「お、女の子が傷つくのをただ見てられるかってんだよ。何のために体鍛えたと思ってんだ。この時のためだろうがよ。だからさ、『私なんか』とか言うなよ」
優しい、どこか落ち着いた声でアリシアをなだめる。自分でも驚くほど柔らかな声が出た。
アリシアがレンを癒す状況にふと笑みが溢れる。不覚にも願わくばこの状態が続けばなと思ってしまった。すぐ首を横に振って考えを散らす。そして、ハルスタインの方へと目をやる。
ハルスタインは先程の状況にふとはにかんだ笑みを作ると、前を向き、即座に表情を切り替えて倒れ込む巨大な化け物の胴体へと蹴りを入れる。
最早、状況はハルスタインが支配しているだけであった。圧倒的不利と思われた戦況がハルスタイン参加によって圧倒的有利、というか、勝利確定というまでにのし上がってきた。それ程までに彼の実力は常軌を逸していた。
化け物が手も足も出ない、そんな状況。今にも消えそうな、弱々しい姿を曝け出すだけであった。
そんな中、ハルスタインが
「そろそろ、終わりにしよう。この呪われた因果から君を救い出そう。そして全てを無へと帰そう!」
そう言って地面を力強く足で掴む、そして、拳を握りしめて構える。
「眠れ、永遠に」
そう低い声で呟くと、握りしめた拳が一閃――空を切った。
その瞬間、地面が抉れていくのが見え、その中に倒れ込んでいた化け物が咆哮を上げて消えていくのが見えた。
大きな音、音、音。そして激しい衝撃。様々な感触が離れたレンにも届いている。そして―――
化け物は消えた。ここに未来は確定したのである。
誰も死なない、ハッピーエンドが。




