朝(3)
「じゃあまた後でね、お兄。」
「ああ。」
唯愛と別れ、それぞれの学校へと向かう。
俺たちの暮らす椿区は、高校は中学生時代の成績により通う学校が変わってくる。
唯愛は中学生時代に好成績を収め続けていたのでレベルの高い女子高へ、俺は中の上から中の下をずっと行き来していたので普通の共学へ。
最初、唯愛はその事実を知ってかなり凹んでいたし、自分の成績を下げるように学校に訴えたりもしていたが、最終的には諦めがついたようで今は普通に登校している。
唯愛の成長に安堵しつつ、俺は通い慣れた道を歩き、振り当てられた学校へ向かう。
「ゆっいくーん、おはよー!!」
毎朝聞く、聞きなれた甘ったるい女子の声。
振り向くと、これまた見なれたつややかな黒髪の少女が満面の笑みを浮かべて立っていた。
「ああ、おはよう、詩織。」
「うん、おはよう、ゆいくん。本当はいっちゃんにも挨拶したかったんだけど、寝坊しちゃって出来なかったんだよね…。いっちゃん、ツバジョ生だから少し前から道分かれちゃうし…。」
「それは寝坊したお前が悪いだろ。諦めろ。」
「だねぇー…。」
少しどんよりとした雰囲気を纏いながら俺の隣を歩く詩織。
幼馴染にしてクラスメイトだ。
正直に言ってバカだが憎めないやつ。そして、俺たち兄妹にとっては一緒にいて安心できるやつでもある。
「ゆいくーん……生徒会本当に入らないー?」
…唐突にこのようなことを言うことを除けば、だが。
「だから入らないって言ってるだろ、そんな時間的余裕は無い。」
「でもぉー…ゆいくんならちゃんとお仕事してくれるじゃない?真面目だし先生たちからの評判も悪くないし」
「面倒事を起こしたくないだけだ。校内で呼び出しくらったりしてたら唯愛と過ごす時間が減っていくだろ?」
「相変わらずゆいくんはシスコンだねぇー。世の中そこまでの人っていないと思うよぉー?」
「シスコンってほどでは無いだろ別に。唯愛の優先順位が他よりも高いだけだ。」
「いやいや、それをシスコンって言うんだと思うんだけどなぁー?」
などと、いつもと同じような会話をしているうちに学校に着く。
「おはよ、茨木、月詠。」
「かいちょー、おはよー!」
「大和か、おはよう。今朝も御苦労だな。」
「別に苦労とは思ってないけどね。一応生徒会長だし自分の学校に通う生徒の健康チェックとかは大切だから。…体温測るからちょっと大人しくしてて……っと、2人ともOK。頭痛とか腹痛とかもない?」
「無いな。」
「同じくー!」
「それなら大丈夫。通ってよし!茨木、昼休み会議あるからよろしくね?月詠も生徒会に興味があるなら顔を出して貰えると嬉しいかな。」
「悪いがあまり興味は無いな。放課後の自由時間が減るのは痛い。」
「そっかー。月詠、妹さん大好きだもんね。まあ、気が向いたらおいで、ね?」
「そうだな。いつかそんな日が来たら行くかもしれない。」
このような所で長話をするのも他の生徒の迷惑になりかねないので、ある程度のところで話を切り上げて教室に向かった。