朝(2)
2人での朝食を終え、俺たちは歯を磨き、顔を洗い、髪を整え…と身支度をしていく。
「ほふぃい、はひほへふはふふふへはひはははっへふへはひ?」
「ああ、いつもの結び方でいいのか?」
無言でこくりと頷く。どうやらちゃんと唯愛の言いたいことを理解できていたらしい。
俺は慣れた手つきで唯愛の絹のような色の薄い髪を梳かし、結わえていく。当の本人はたって歯を磨きながら眠りそうになっているが。
「唯愛、朝から早く起きて食事を作ってくれているのはありがたいが、歯を磨きながら寝たら危ないぞ。せめてそのブラシを口から出してうがいしてからにしてくれ。」
「ははっは。…お兄、たまにそういう口うるさいところあるよね。いちのことを思って言ってくれてるから文句なんて出てこないし、ありがたいけど。学校ではそんなことしてないよね?」
「してるわけないだろ。ほとんど喋りもしない根暗野郎みたいな扱いを受けてるくらいなんだから。」
「この口うるさいお兄がねぇ…?」
「ほら、そんなこと言ってる間に髪終わったぞ。さっさと家出る用意済ませておけ。」
「ん。」
とてとてと荷物を取りに自室に向かう唯愛を眺めながら思う。やっぱり唯愛は可愛い。絹のようなサラサラの髪の毛に少し眠たげな、でもぱっちりとした大きな目。身長は低めでそこもまた小動物的な愛らしさを感じる。
しかし何よりも可愛いところは、学校こそ違えど俺との繋がりを持っていたいといういじらしさだろう。
お揃いのヘアピンを買ってきた時には男である俺にそんなものを着けろと…?と思ったが、いざ着けてみたらそれほど違和感を感じない。恐らく、自分にも俺にも合うものを唯愛は選んでくれていたのだと思う。
可愛い。こんなに可愛い唯愛に将来男が出来るのかもしれないと思うと悲しくなるくらいには唯愛のことは大切だと思っている。
傍からみると、シスコンと言われるのだろう。別にシスコンでも構わない。俺は唯愛のことが好きだ。勿論家族として、だが。逆に家族愛以上の愛情を持っては行けないことは重々分かっているはずだ。
だと言うのに、その一線を超えかねないこの思いは一体何者なのだろうか。
と、少しモヤモヤしながらも玄関に飾られている家族写真に挨拶をして、俺と唯愛は家を出た。