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つながる環

 美千代とサトルは港へ向かう道を歩いていた。相変わらず会話はなかった。それはサトルが考え事に没頭しているためである。そこで美千代は、サトルが何に頭を悩ませているのか探りを入れることにした。


「何に引っ掛かってるの?」

「うん? べつに引っ掛かってるとかじゃないよ。状況から見て単独犯ではないことは明らかなんだから、絞り込みができれば、残った人たちが犯人さ」

「え? 犯人が分かってるの?」

「うん。今朝、旅館で番頭さんが脅迫状を読み上げた時、ピンときたんだ。あとは伊月ちゃんが握っていた十字架ね。分かってしまえば、後悔しか残らないんだけど」


 その時、二人の正面から走ってくる一人の男がいた。それは屋敷にいるはずの清さんだった。その姿を目で捉えて、サトルは異様とも思えるくらいに興奮するのだった。


「おねえちゃん、あれ、馬渡さんだよ」

「うん。馬渡さんも屋敷を出たんだ。それにしても、いつ追い抜かれたんだろうね」

「そんなはずないよ」


 そう言われても、目の前に馬渡さんがいるのだから、それしか考えられないではないか。きっと役場を調べている時に、追い抜いて行ったのだろう、と美千代は考えた。


「大変だ」


 遠くから清さんが叫ぶ。美千代とサトルは、小走りで清さんと合流する。


「何があったんですか?」

「死体が消えた。屋敷にあった神主さんの死体がない」

「どういうことですか? それは」


 清さんはすぐに答えず、大きく息をして、呼吸を整える。


「分からない。分からないけど、港小屋にあった土門さんの死体もなくなっている。きっと、犯人が死体を隠したんだ。警察が来る前に先手を打たれたよ」


 そう言って、清さんは額にたまった大粒の汗を手で拭うのだった。


「それより、どうして馬渡さんが、ここにいるんですか?」


 サトルは今も目が点になっていた。


「どうしてって、やっぱり二人だけでは危険だと思って。まだ犯人の計画は終わっていないんだ」

「そうではなくて、僕が訊きたいのは、どうやって僕たちよりも早く港に行くことができたかということです」

「ああ、それは屋敷から近道を使ったからね」

「えぇ!」


 驚いているサトルが、さらに目を丸くするのだった。


「危険な道だから二人には教えなかった。港から崖伝いに屋敷へ行く道があるんだ。ほら、北の洞穴の奥から外が見えるようになっているだろう? 実はそこと港が繋がっているんだ」

「だって、あの先は崖下になっているって言ったじゃないですか?」


 それを聞いて、清さんは苦笑いを浮かべる。


「だって、そうでも言わないと、近づいて海に落ちたら大変じゃないか。騙すつもりはなかったんだ。分かってほしい」


 サトルは空を見上げて、なにやら考えているのだった。そして、訊ねる。


「その道は、屋敷から港へ行くだけではなく、港から屋敷へ行くことも可能ですか? 今度は正直に教えて下さい」

「うん。それは可能だけど」


 と、清さんの表情が曇った。


「今から僕をその道に連れて行って下さい」


 サトルが清さんの目を真っ直ぐ見てお願いするのだった。


「ほら、これだから教えたくなかったんだ。真似すると危険だって、口で言っても分からないんだもんな」

「お願いします」


 サトルが頭を下げた。


「いや、ちょっと待てよ。確かに港からならその道を使った方が早いけど、外輪山を超えてしまったら、旅館のある道を引き返した方が早いんじゃないかな」

「いや、早いとか遅いとかは関係がないんです。実際に外輪山の内側から、港へ行って屋敷へ戻ることが出来るかが問題なんです。それでも時間がまったく関係ないということもありませんが、駆け足で時間を計ってもいいですか?」

「いいけど、本当に行くのかい? 危険なんだよ? 一度でも足をすべらしたら海にドボンだ。それでも行くなら止めないけど」


 清さんがサトルの熱意に押されるのだった。こうして美千代とサトルと清さんの三人は港からの近道へと走り出すのだった。



 外輪山の頂上から眺めた海は穏やかだった。これなら連絡船も運航できるはずだ。


「サトル、港で連絡船を待たなくていいの?」

 港へ着いてから、美千代が尋ねた。


「まだ時間はあるよね? だったら一度、屋敷へ戻ろう」

 そう言って、屋敷へ急いだ。



 屋敷への近道は、崖の切り崩しで、人間の肩幅ほどの道があるだけである。強い風が吹きつければ、容易に海の中へ落ちてしまいそうなほど、道が困難になっていた。


「ここから道幅が狭くなっているので、気をつけて下さい」


 先頭を歩く清さんが、後ろに向かって注意する。これ以上、まだ道が狭くなるのかと、美千代が気を引き締める。


 道もそうだが、美千代は前を歩くサトルにも注意を払わなければならなかった。もし、この子が海に転落するようなことがあれば、迷わず海に飛び込む覚悟はできている。この子を生かすことだけが、今の美千代の人生そのものだからだ。


「もうすぐ洞穴です」

 清さんが声を張った。


 早い。確かに近道というだけのことはある。港から二十分くらいだろうか、道幅が狭くなるまで走ったので、大幅に時間が短縮できているのだ。


 そうか、昨日も清さんはこの道を伝って屋敷へ来たのだ。昨日の清さんは、港へ行くと書き置きを残し旅館を出た。


 そして午前中の内に屋敷へ来ていた。ずいぶん早く屋敷に来られたものだなと思っていたが、こういうからくりがあったのだ。


 つまり、清さんは屋敷へ行く途中の道で伊月ちゃんの死体を発見したにすぎないということである。


 あれ? そうなると伊月ちゃんを殺した犯人も、この近道を使えたということにはならないだろうか?


 だとしても美千代の推理は崩れない。どちらにせよ、洞穴には抜け道があったということだ。より確かな抜け道が。


「ああっ!」


 清さんの声だ。


 清さんの姿が見えない。海に転落した様子はないので、洞穴の中に入ったのだろう。そこで悲鳴を上げたのだ。


 サトルに続き、美千代も洞穴の中に入る。


「あぁ!」


 美千代は思わず手で口を押さえた。そこで見たものは、お腹から血を流した義男くんの姿だった!


 義男くんは、血まみれで横たわり、すでに息絶えていた。なんと、その傍らには金田一先生の姿があるのだった!


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