土曜日の朝
いよいよ八丈本島から連絡船がくる日の朝である。美千代が目を覚ました時、大広間にいる人間は全員無事だった。
朝ご飯の席で、誰が連絡船を港で出迎えるかという話になった。そこで真っ先に手を挙げたのが、意外にもサトルだった。サトルの説明はこうだ。
佐橋さんは足を痛めており、清さんは引き続き屋敷の警護に当たるため、自分と金田一先生の二人が適任だと言い切った。
これに一同納得したのだが、一人だけ異を唱える人物がいた。それは金田一敬助である。
金田一先生は、港へ行かない理由を具体的に説明しなかった上、その仕事を美千代に押し付けてしまうのだった。
金田一先生の意図はなんなのか? いつもなら面倒な仕事を押し付けられたと考える美千代だが、今回ばかりは不安でたまらなかった。
金田一先生も、自分が港へ行かない理由を説明しないし、聞く方はそれを何か深い考えがあるのだろうと、勝手に推察している。そういう金田一先生を取り巻く聖域に、おそろしさを感じる美千代だった。
それから美千代とサトルは港へ向かった。連絡船が来る昼の十二時までには時間があるが、早めに着いて待機しておくことにしたのだ。
途中、旅館で番頭さんと合流するように言われたが、そこは番頭さんとの話し合いで決めると返答しておいた。
屋敷の方は人数が揃っているから心配はいらない。問題は自分たちの方だ。もしあの人が日本刀を持って現われたらどうするか? そう思って、美千代は何度も後ろを振り返った。
やがて旅館が見えてきた。旅館までの一時間、美千代とサトルの間に会話はなかった。美千代が黙っていれば、もの静かな姉弟である。口を開けば事件の真相を喋ってしまいそうだと、美千代は話し掛けないようにしていた。
しかしサトルが旅館の前を素通りした時には、さすがに声を掛けずにはいられなかった。
「サトル、ちょっと、どこ行くの?」
「え? 先に役場に行きたいんだ」
「番頭さんは?」
「先に合流しちゃうと、後で調べられなくなるかもしれないから、先に役場に行こう」
「調べるって、なにを?」
「うん? 村長さんのこと」
サトルは当たり前だと言わんばかりの顔をするのだった。
「だって、役場を調べたくて、こうして屋敷を抜け出したんだから」
そう言って、役場の方へ歩いていくのだった。
サトルはまだ村長さんのことを調べているのだ。この子はまだまだ真相から離れたところにいる。それも見当違いのところを調べている。その証拠に、サトルは役場を念入りに調べた後、「ない」と言い残して、そこから出て行ったからだ。この子に真相を伝えてしまおうか、またしても悩む美千代だった。
それから二人で旅館へと引き返したのだが、どこを捜しても番頭さんの姿が見つからなかった。この時、二人はそのことについて、なんらおかしなことだとは思わなかった。屋敷までの道でもすれ違うことがなかったので、先に港へ行っていると考えたからだ。こうして美千代とサトルは、港へと向かうのだった。




