見張る探偵
「よし、しばらくこのまま安静にすることだ」
大広間に敷かせた布団に義男を寝かせて、敬助は言った。そこで美千代が尋ねる。
「先生、旅館へは戻らないんですか?」
「この調子だと無理だな。別々に行動するのも止した方がいい」
洞穴から屋敷へ戻ってきたところで義男が倒れてしまったのだ。それで敬助が義男の着替えを手伝い、伊月の血がついた身体を拭いてやり、大広間に布団を運んで寝かせたのである。最初は美千代が義男の着替えをするはずだったが、年頃の男の子ということで、敬助がすることになった。
「義男くんの回復次第だが、自分で歩けないようなら、このまま屋敷で一夜を明かす。美千代、いま何時だ?」
「九時です」
と言って、美千代が柱時計を指差した。敬助も確認して、続ける。
「だったら二、三時間様子を見る。時間が来たら、旅館に戻るか屋敷に留まるのか、どちらにするか決めてしまおう。なに、屋敷に泊まる場合は全員で大広間にいればいい。お前たちが寝ている間、俺が見張る。どちらにせよ、今夜は寝ずの番だ」
そう言って、敬助は腕を組み、美千代に訊ねる。
「屋敷の戸締りは大丈夫だろうな?」
「はい。いま、サトルが調べに行っています」
「それにしては遅いな。なにやってるんだ」
「ちょっと心配なんで、呼んできます」
そう言って、美千代はサトルを捜しに行った。しかし、しばらくして、入れ替わるようにサトルが一人で戻ってきた。敬助が、苛立たしげに尋ねる。
「美千代は?」
「おねえちゃんですか? 知りませんよ」
「一人で、どこうろちょろしてたんだ」
機嫌の悪い敬助とは対照的に、サトルは平然としている。
「三姉妹の平屋を見てきました。そこで、微量ですが壁に血痕が付着しているのを発見しました。ちゃんと調べてみないと分かりませんが、おそらく三、四日前のものではないかと」
「まだ一人でそんなことしてんのか。明日警察が来るんだから、それまでじっとしてればいいんだよ」
「すいません」
サトルが素直に謝った。
「で? 戸締りはしてきたんだろうな?」
「はい。さっき僕がすべて確認してきました。それで分かったんですけど、朝、僕たちが最初に来た時、やはり鍵が開いていたのは表の玄関だけだったみたいですね」
サトルが余計なことを付け加えて答えるのだった。気になったのだろう、敬助が尋ねる。
「それがどうした?」
「いいえ。なんでもありませんが」
「だったら余計なことは言うな」
いつもの敬助とサトルのやりとりだった。
「ごめん下さい」
そこへ入口の方から男の声が響いてきた。これはいつぞやの出来事とまったく一緒である。それは声の主も一緒。その声の主は、馬渡清だった。




