まどろみ探偵
あれ、朝か、それとも夕方か、一体どのくらい眠ってしまったのだろう。一瞬、分からなくなった敬助だが、あごをさすって、髭が伸びていないことを確認すると、寝入ってからそれほど時間が経っていないことを理解するのだった。
なにか重要なことを忘れている。とても大切で、どうしてもやらなければいけないこと、そう、のんびりもしていられない。ああ、そうだ、俺は大便がしたかったのだ。そのことを思い出した敬助は、便所へと向かうのだった。
陽が傾いたせいか、旅館に入った時よりも廊下が暗い。隣部屋を覗いたが、どうやら美千代とサトルはまだ帰ってきていないようだ。俺に内緒でうまいものを食っているんじゃないだろうか、と気になる敬助だが、出す方が先だと思い、便所に入る。
用を足して、敬助は便所を出た。
それから部屋に戻ろうとする。
しかし、そこで妙な気配を感じたのだった。
振り返る。
廊下の奥に何かいる。
薄暗くてよく見えないが、人が立っていた。
それも二人。
仲良く手を繋いでいるところを見ると、子供だ。
ひとりは坊主頭の男の子。
もう一人は、おかっぱ頭の女の子だろうか。
背丈はサトルよりも低い。
が、年齢はそれほど変わらないのではないか。
子供は子供だが、幼子ではないぞ。
そして、なにが驚くって、二人の顔。
まったく同じではないか。
男女の一卵性の双子だと?
そんなの、この世にありえるのだろうか。
いや、そんな話は聞いたことがない。
敬助はもう少し近くで見ようと思い、足を一歩まえへ踏み込んだところで、当の二人は廊下の奥へといなくなってしまった。
今のは果たして、なんだったのか、船のせいか、酒のせいか、それとも夢か、まぼろしか……。
それから、やはり疲れているのだと思い、ふたたび眠りにつく金田一敬助だった。