二時四十五分
南洞穴から旅館へと向かう道の上で、美千代は立ち止まっていた。サトルが追いついてくるのを待つためだ。
美千代はサトルの走る速度に合わせているつもりだったが、気がつけば後ろにサトルがいた。
もともと長距離は美千代の方が早いのは確かで、それに加えて道の状態も走るには難しかった。
上ったり下ったりを繰り返し、さらに両手にランプと傘を持っているので、それも仕方のないことだ。
サトルはとうとう歩き始めてしまった。
当然だ。なにしろ、ここまで四時間近くも歩き通しだからだ。そこから走り始めたのだから気力も体力も、なかなか続くものではない。
美千代は合流したサトルに声を掛ける。
「ちょっと休もうか?」
サトルに返事はなく、ただ首を横に振るばかりである。これは疲れて声も出せないのだ。
「じゃあ、走れるようになるまで歩こう」
その時だった。
二人は、ほぼ同時に空を見上げた。
「雨だ」
まだ顔に水滴が付着した程度だが、確かに空から降ってきたものだ。
「本降りになるかな?」
サトルが息継ぎの間に言葉を挟んだ。
「まだ大丈夫だろうけど、旅館から屋敷に行く道は降られるかもね」
美千代は、なんとなくそんな気がしただけだ。
「よかった」
サトルが安堵した。
「どうして?」
「これで捜索が中止になる。みんな一斉に屋敷に戻って行くと思うよ」
サトルはすっかり自分を取り戻したようだ。走りながら頭が整理できたのだろうか、いつもの目、いつもの冷静なサトルに戻っているのだった。
雨で捜索が中止。
そうなるといい。
美千代は、雨は恵みだと信じていた。




