十一時十五分
首山の頂上へ登る道はまだ先にある。九人の捜索隊の列はすでに伸びつつあった。そこへ最後尾を歩く美千代に幸子さんが話し掛けてきた。
「美千代さん、美千代さんは怖くないんですか? あたしはもうずっと怖くて仕方ないんです。だって、どこかに犯人が潜んでいるかもしれないんですよ」
幸子さんが一番参っている様子だった。屋敷にいる時も、常に何かに怯えているようで、美千代は他の誰よりも気掛かりだった。
「休んでもいいんですよ? 具合が悪いといえば黒川先生だって無理をさせないでしょうし、本来、これは警察がやる仕事なんですから。引き返すなら早い方がいいですよ」
「はい。でも姿が見えないお嬢さまや、大奥さまのことを思うと、やっぱりそれもできないんですよね」
幸子さんの言葉に、自分と同じ思いを感じる美千代だった。やはり島に一人きりで渡っただけのことはある。幸子さんには芯の強さを感じていたのだった。
美千代もそうだ。怖い怖いと、あえて口にして怖さを克服する種類の人間なのである。それに警戒してアンテナを張っておくほうが自分の身の安全にも役に立つ。恐怖心も利用するに越したことはないというわけだ。