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リバースサイドオブリバースサイド  作者: 粋人
さよならクラスメート
5/21

そして僕は_

宝探しゲームね。人の命がかかっている割には随分軽いネームセンスだ。


路木は早くも何かを考えているらしい。路木の能力は『脳』で、能力も僕らに全て明かしてくれた。僕もいつも居るグループからある程度みんなの能力を聞いたけれど、他の人たちは路木しかわからないだろう。


「よし、まずはみんなの動きを決めていくよ。能力ごとに分かれて、僕と、井熊さんで、どうするかを話すから」


井熊さんとは路木と同じく学級委員の人。基本的に僕は他の人とあまり話をしないのでよくわからないが、宮内が言うには、厳しい人だと言っていた。路木と真逆の性格だとも。


真逆の性格だからこそ噛み合うのかもしれない。意外と路木の言う事は素直に従うらしい。


「そういう意味でじゃないと思うけどね」


宮内はそう言って、苦笑いのような、困ったような顔をしていた。


「…くん、…くん!」


おっと、僕が呼ばれたみたいだ。

考え事をしてよく聞こえてなかったみたいだ。呼ばれた先には先程話題に出た井熊が手招きして僕を呼んでいた。


「貴方には、路木くんから最前線で宝箱を探すように言われているわ。路木くんもしくは私から場所を特定したらすぐ伝えるわ。それまでは二階の中央ホールで待機するように。敵が来たら戦ってもいいし、隠れてもいいけど、倒されないようにして欲しいと言っていたわ」


「そ、そうか。わかった」


「…信頼されてるのね。貴方。そういうの、羨ましいわ」


そのまま井熊さんは他の人にまた説明しにいった。


信頼、ね。


「それは僕の方が知りたいよ」


意識せずについ口に出してしまう。


特技も何も彼等よりも劣っている僕が信頼されていい存在なのか?ましてや今の僕は裏切り者になるかもしれないっていうのに。


「だーかーらー、うるせぇって言ってんだろーがよ」


「話だけでも聞いてちょうだい」


我に帰るとどうやらもめているらしい事に気がついた。さっき僕に話しかけてきた井熊さんが、何やら説得している。


「信じられない事はわかる。私でもそう思う部分はあるわ。けど、万が一って事もあるでしょ。現にあの人の行動も見たでしょ」


「うるせぇよ。大体本当にあり得るわけねぇだろ。こんな事。なんでいちいちそんな面倒事に参加しなきゃいけないんだよ」


「…それは、そうだけど…」


「俺はこんな事に時間を費やしたくないからな。動かねーよ。ここから」


「…それでも、本当だと思ったらすぐ手伝って」


そう言って、また別の人に声をかけていった。


ここに路木が居ればよかったが、あいにく別の人と話していて気づいていないようだった。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


全員に情報が行き渡った後、実際に参加する人数は半分以下となっていた。また、その半分の中でも大半は面白半分で参加したみたいだ。まあ、信じる方が無理があるのはわかる。あの人、名前は確かニナとでも言ったか、その行動には驚いたものの、自然を操るだとか魔法を見せるだとかよりはよっぽど常識の範囲内だった。僕らの能力も似たようなものだ。役割はあるが、それが今の技術で出来ないかと言われたら一概にNOとは言えない。だからこそ路木はニナの話を信じていると言えるのだろうけど。大丈夫なのかな?こちらがやる気のない中向こうが本気だったら洒落にならない。


「路木はその辺をどう対策しているかで決まるな…」


廊下でうじうじと悩む僕。残り30分を切った。路木には先に行くと言って外に出るが、決心が全くつかない。これからどうなるかを考えてはみたが、現実逃避は長くない。この話は現実だけど。


もう少ししたら行こう。それまでは教室に居ようと、何回目かわからない決断の保留と共に扉を開けようとすると、勝手に扉が開き、何かと衝突する。


「痛っ…」


「ご、ごめん!だいじょ…」


ぶつかった方を見るといたのは滝菜火だった。


こちらをちらっと見ると、そのまま廊下で本を読み始めた。


え、ここで読むの?


という台詞を飲み込み黙ってみる。ブックカバーがついていてどんな本を読んでいるかさっきはわからなかったが、中身を見ようと体を傾けて見ると、どうやらゲームに関係した本らしい。パソコン…かな?


「滝菜火ってゲームするのか?」


「………」


返事が返って来ない。本に没頭しているからというわけではないようだ。


「そうだ、お前はどう思う?今回の。信じるか?」


今回のというと前回もあるみたいだが、もちろんそんな経験はない。


「今回って。前回はあるの?」


しかも言われた。


「な、ないよ」


「………」


なんだか、こう、会話が続かない。

遠回しに自分が傷つく。路木ならなぁ。


「お、いや、滝菜火は路木になんか言われた?それとも参加しないのか?」


「うるさい」


「うるさいって…教えてくれるぐらいよくないか?」


はあ、と溜息をつかれ、本を手で挟みこちらを向く。


「それを私が話してあなたに良い事があるの?あなたに私がどうするかを伝えて行動が変わるの?」


「そんな事は、いや、…」


「馬鹿みたいだわ。こんなの何しても対して違いはないわよ。勝つか負けるかなんでしょ。何を難しそうな顔をしているのかしら。生きるか死ぬかなんて決まったわけじゃないのに」


「なら」


僕の今の状況も知らずに何もせず、本に目を戻す滝菜火につい声を張り上げて反論してしまう。


「お前はどうするんだよ。もし今の状況から自分だけ生きるか死ぬかを自分で決められたら」


「生きる方を選ぶに決まっているじゃない、馬鹿ね。私は別に自殺願望がある訳じゃないわ」


「他人を見捨ててもか?自分だけ助かるのか?」


「私にはそんな友達はいないわ」


どうやらこの会話に嫌気がさしているらしい、滝菜火が苛々しているのがわかる。


「それでも…同じクラスメイトだろう。見捨てる事が簡単な筈がない」


うざったいように滝菜火は本に目を戻す。


「あなたの友達がどうかなんて私には関係ないわよ。友達ごっこがしたいなら、すれば良いじゃない」


「でも…!」


苛々している自分に気づく。


「お前は、一人だけ助かる方がいいのか。自分だけ生きる方を選ぶんだな」


苦し紛れにそう言う。


この選択肢は僕が望んでいるかもしれないのに、それを押し付けている。まるで、滝菜火がいいと言ったら、それが絶対正しいと思える程に。


すると、滝菜火は本を今度は完全に閉じ、こちらを睨みつける。


「さっきから、あなたのそれ、気に入らないわ」


「気に入らないも何も反論しているのはお互い様だろ」


「そんな事は問題じゃない。嫌いなのはあなたのその話し方よ。友達がいるから、違う。でも友達がいいならいいなんて、判断基準を他の人に丸投げ。友達でもなんでもない今初めて話す私にさえも判断を委ねている。自分は何も考えず、他の人任せれば安心なんて、反吐がでるわ。」


やめろ


「だったらどうすりゃいいんだよ!」


やめろ


「さっきから言ってるけど、私が決められるわけないじゃない。あなたの問題でしょ。私に正解を求めないで」


やめてくれ


「僕はお前みたいに簡単に一つに決められねぇんだよ!だったらみんなから話を聞いて答えを出せばいいんじゃねぇのか!」


そこで、滝菜火の表情は変わった。みるみると怒りの表情を浮かべる。


「そうやってさっきからあなたは言い訳ばっかで、私の話なんかまるで聞かずに…あなたは何を基準にしているの!友達だの見捨てられないだの私とは違うだの好き勝手言って!あなたの一番大事なものはなんなのよ!他人に合わせて決めるなんて…私がそれでいいと言えばいいの?馬鹿にしないで!友達の意見がどうかなんて関係ない!率直に決めればいいじゃない!助ける助けないじゃない、生きたいか生きたくないかじゃない!二択問題に縛られるな!あなたの意思を聞かせろ!」


「ハァ、ハァ…どうなのよ。答えてよ…」


「……………」


圧迫された。何も言い返せないくらいに。それくらい、滝菜火の言葉は僕の内面を正確に正確に、見抜いていた。


それに、すっかり、毒気を抜かれてしまった。


「怖いんだよ。僕は」


何を言ってるんだ?僕は。


「昔から、僕の周りにいる奴らはみんなできる奴ばっかでいい奴ばっかだ」


でも話し始めたら止まらなかった。


「僕だけなんだ。何も特技を持ってないのは。いや、持ってるんだけど…というのが正しい言い方だけどね。そんな僕がこの事件でチャンスを得られたと思った。みんなの役に立ちたかった。いつも助けて貰っていたから。ああ、違う。この言い方じゃない。僕はみんなに嫌われたくなかったんだ。ずっと仲良くしていたかったんだ」


「僕はそんなにできた人間じゃない。死にたくないし、友達のために命を張れるかと言われたら無理かもしれない。いや、多分無理だ」


「だから僕は他人に判断を任せるようになった。役者が嫌いになった。僕にとって自分はなによりも信頼できない対象だ。そんな僕には指針が必要だったんだ」


これが今までの僕だ。奥底に思い出すまいとしていた僕の習慣だ。


「君はそんな風に僕が言うと、また腑抜けているとか言うんだろう?」


「…いや、もういい。なんでこんな恥ずかしい事言ったんだろ…。こんなモブキャラに」


「おい」


「…冗談よ。いいんじゃない。素直で。私が言えた台詞じゃないけど、今のあなた、結構スッキリした顔をしているわよ」


「それは…」


それは、多分溜めていたものを全て吐き出したからだろう。自信をもらったからかもしれない。『僕』としての。


「でも、そんな僕でもいいんだな?勝手に、身勝手に、言っちゃ悪いがこんな初めてあった奴の話を鵜呑みにして自分で決めても」


「他人に任せっきりにした事と、聞いてから自分で決める事は違うわ。それがたとえ全く同じ意見だとしても、あなたがいいと思ったのなら間違いなく大丈夫よ。なにせ、自分が一番その事を理解できるからね。強いて言うなら、その、いいんだよな、って言うほうをやめなさい。あくまでも、決めるのはあなただわ」


「そうだよな。いや、そうだ。そうなんだ。これが『僕』だ」


誰かに意見をもらう事でしか動けない僕はこうして初めてあったクラスメイトに怒りをぶつけ、本音を話し、怒られた。それでも…


「決めたよ。僕は…」


「そんな事、いちいち言わなくてもいいわ」


滝菜火に遮られる。


「…そうか。わかった。…その、なんだ…ありがとう。決心がついた」


「なーんだ」


滝菜火は酷く、馬鹿にした表情で、馬鹿にした口調で、思いっきり嫌味を言いながら、


「自分で、決めて伝えられるじゃない。自分の感情が、ありのままに」


いつもなら苛々とするその言葉も、なぜか心地よく聞こえた中、


初めて僕に笑顔を見せたのだった。


○○○○○○○○○○○○○○○○○○○


こうして、裏切り者としての彼は、一足先に、表舞台から姿を消した。


《残り35名》

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