決断まで一時間
一通りみんなの能力を話し合った後、路木は他の人達に能力を聞きにいった。
相宮はトイレに行くと言って教室から離れた。多分スマホをしたいだけだ。
女子二人は他の女子達の集まりに行き、僕は一人になった。
裏切り者。その言葉が離れない。なんで僕だけこんな気持ちを味わわなくちゃならないんだ。こうなるよりは他の能力の方が良かった。なのに…
とにかく行かなければならない。
ちょうど一人になった事だし職員室に行こう。
立ち上がって教室を出ようとすると、ふと教室の隅に目がいった。
そこには一人の女子がいた。
みんながいくつかのグループに集まって話しているのに、あの子は一人だ。本を読んでいる。
「確か名前は…滝菜火美海…だったかな?」
教室から出る時にふとその記憶が残った。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
「あら、意外と早かったですね」
あの女の人が椅子に座っていた。
平日で本来ならば授業があるのにこの人以外に誰もいない所を見ると、この人の言っている事が本当だと実感できる。
「あなたで二人目ですよ。ここに来たのは。どうやら路木くんと親しい間柄のようですけどね。まあ、そんな事は今話す内容では有りませんね。安心して下さい。完全防音になっていますよ。私の方から教室はモニターで見ていますが、ここはそう簡単なセキュリティーになっていませんので」
ニコッと笑う。
「で、一般人のあなたは何が知りたいのですか?」
「嘘ですね」
この女の人、用心しなければいけない。味方だとは言っても安心できる証拠はないのだから。
「僕が一般人なら、意外と早かった、なんて言いませんよね。しかもみんなと僕は味方なんですから防音にする必要もない。僕の為に作られたんですよね」
「やはり、腐っても進学校。皆さん優秀ですね。では私はあなたが裏切り者である事を知っていると最初からわかってたんですね?」
「いいや、かまをかけただけですよ。相宮からそうトイレで頼まれましてね。意外と早かったという言葉は、二人目にしては、とも取れるし、防音なのも僕たちに何か知られては困る事があるからかもしれませんしね。確実とは言えません」
「あなたも嘘つきですね。トイレでそんな事言ってませんよ。貴方達は」
「お返しです」
「へえ、そうですか」
特に気にしたようなそぶりもなく、話を終わらせる。監視されているのは事実らしい。こんな事言っちゃいけないけど僕らのプライバシーを疑われる。
「で、決めましたか?どちらを選ぶのか」
「それは…」
ここに来る間に決められるかと思ったがそう簡単に割り切れる問題ではない。
「ふふっ。まあまだ時間は有りますので。楽しみにしていますよ」
なんか負けたみたいで癪だ。
「ああ、あと私の名前はニナと言います。今後はそちらで。呼びやすい方がいいでしょう」
「それではまた、何か有りましたら来て下さい。みなさんが勝つ事を期待していますよ」
「あの…」
「はい、なんですか?」
「…いえ、何でもないです」
僕はそのまま流れで職員室を後にした。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○
教室に戻ると、また滝菜火が目に写った。どうやらずっと一人で本を読んでいたらしい。
路木も話を終えたそうだ。
相宮も戻っていて二人で雑談しているれしかった。
「ああ、拓人。どこ行ってたんだ?」
相宮が尋ねてきた。
「ちょっと校内を歩いてた」
もちろん本音なんて言えるはずがない。
ここに来てすっかり気分が悪くなってしまった。みんなも心なしか緊張している。冗談だとは思うが、万が一を思うと、楽観的にはいられないだろう。路木も疲れた表情をしている。いつもと変わらないのは相宮と滝菜火くらいだ。
ピンポンパンポーン
8時50分。1秒のズレもなく、放送が始まる。
「では、これから一回戦の説明を始めます」
女の人の声だ。ニナさんとは違い、ひどく機械音のように聞こえる。
「一回戦は、宝探しゲームです」
宝…探し?
「休憩時間を挟んで二回行います。制限はありません。敵味方で一つずつ宝箱を用意してあります。校内の何処かに有りますので探して下さい。代表者には敵チームの宝箱の位置が記されている地図が渡されます。ただし、一部分しか表示されません。宝箱の中身をとり、十分間保持する事が、勝利条件となります。宝箱の表示は初期にある場所のみとなります。また、敵の宝箱の中身を所持する事は可能ですが、所持した者は、その間一般能力、特殊能力を使用することは出来ません。敵味方で宝箱の中身が同じであるとは限りません。また、状況により、新たにルールが変更される事があります。変更は、休憩時間後の二回目の始まる時の一回のみです。それ以外のルール変更は特殊な事例が起きない限り、基本的にはありません。最後に、このゲームでは、退場判定となっています。そのため、死を超えるダメージを受けても死ぬ事はありませんが、退場後、再度一回戦に参加する事は出来ません。以上で、説明を終わります」
ブツッと音が切れた。
「それじゃあ、作戦会議を始めよう」
手を叩きながら、路木が注目を集める。
僕の決断まで、後一時間。