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日本超常人類対応課

作者: 白烏黒兎

 峠を越えた太陽が室内を優しく暖めるのは、閑散としたオフィス。

 10人分の事務机が並ぶ部屋。

 そんな広いオフィスにたった一人、頭を抱える者が居た。

 座るのは机の群れから少し離れた位置にある一際大きな孤高の机。

「これで今月3件目……本当にいい加減に自助努力ってのを覚えてくれないかね。無理だろうが……」 

 疲労の残る声で呟いたのは男。

 若さも鳴りを潜め、経験が外見に表れ始めていた。

 男はくたびれたスーツを身に纏い、机に置かれた資料を眺めていた。

「まーた王族か。お約束(テンプレ)とはいえ、こうもポンポン来られても困るんだがな」

「――そんな事言ったら、課長の嫁さん達だって全員王族じゃないっすか」

 言葉と共に入室してきたのは若い男。

 成人したての新社会人のような外見だが、中身はそうでないことを男は知っている。

「今日は愛妻弁当じゃなくてコンビニ弁当すか。珍しいっすね」

 言葉と共に向いた視線の先には机の傍にあるゴミ箱。

 そこには2人前は下らない量の弁当の残骸が詰め込まれていた。

 机に座る男、課長は本日何度目か分からないため息を吐いた。

「最近、家族の時間が取れなくてな……。朝は口も開いてくれなかったよ」 

「……あー、ここのところ増えましたっすねー。星辰の位置や空間の歪みから、少なくとも半年は続くって観測が言ってたっすね」

「おまけに世界が秘密裏に異世界との正式な国交に向けて動いているようだしな。おかげで他の部署もてんやわんやだそうだ」

「実働の方は未成年エージェントも動いているんでしたっけ……」

 どこか苦い顔になっているのは他人事ではないからか。

 変に空気を重くしてしまったのを感じたのか、男は話題を変える。

「そ、そういえばさっきの話なんすけど、課長の嫁さん達って大国の王女、亡国の姫、神森の聖女等々、選り取り見取りじゃないっすか。亡国に関しては課長の仕業ですけど」

 こうして他人の口から改めて言われるとよくもここまで幅広いジャンルが揃ったと思う。

 最近立ち読みした週刊誌で言うハーレム系主人公ってやつか。

 ラッキースケベとかは無かったが。

「その肩書きのおかげでこっちに来て散々苦労したわけだが。一般人として暮らすのにカルチャーショックが酷かったからな」

 ようやく笑い話にできる程度には昔の話だ。

「それに、そんな事を言ったらお前だって色々大変だったろうに」

「いやぁ、その節は嫁さん共々課長にはお世話になりましたっす。課長とこの課が無ければこっちでも荒事で生計立てていたかも知れませんでしたから」

「お前なら案外、何とかやって行けそうだがな。あと、悪いがこの仕事だって荒事が無いわけじゃないけどな」

「それでも“私欲の為”と“誰かの助け”になるのは違うっすよ」

 そう笑う男に課長は含んだものを読み取る。

 彼の出自を知る身としては、想像はできてもその内心は理解はできない。

「そう言ってくれると助かる」

「この課の設立者に言われると照れるっす」

「持ち上げてもコーヒー位しか出せないぞ?」

 長時間の着座で固まった筋肉を伸ばしながら席を立つ。

「さて、この後の打ち合わせがてら、先日貰った菓子を食べながらゆっくりしようか」

 コーヒーメーカのスイッチを入れ、近くの戸棚から目的のもの探す。

 そうして取り出すのは一つの小さな木箱。

 地球上に自生していない木の小箱は触るとひんやり冷たい。

「おお、魔術世界の銘菓っすね。現状公的貿易が無いからなかなか手に入らないレア物じゃないっすか」

「大事に仕舞って腐らせるよりはマシだろ。あと、この後に大事な仕事が控えているから英気を養う意味もあるな」

 課長用の立派な机に広がる資料は仕事の前情報が殆んどだ。

「資料を見る限り、大分理性的で温厚な性格らしいっすね。嫁さんは一人連れ帰った位で問題は特になさそうっすね」

「今回はその伴侶が問題なわけだ。だが、温厚だからって腹の中は分からんぞ? “勇者”活動は精神を削る事が多いからな」

「感知術式を使っても誤魔化されそうっすね」

「“勇者”みたいな実力者相手だとなぁ……、結局最後に信じられるのは自分の直感な訳だ」

「結局、アナログどころかオカルトな手段じゃないっすかー」

「ドラゴンの直感。頼りにしてるぞ」

「救世主な課長程の精度は無理っすからね?」

 淹れたてのコーヒーと茶菓子を摘みながらの打ち合わせはのんびりと進んだ。

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