その5
数十分前、クルスはひとり体育館の一角でノートパソコンのような機械の前で、汗を垂れ流していた。
空中に投影されている画面には、楕円が二つ円を描いてる。
「まさか、幾ら何でも、こんなことをやるとは……」
彼は画面を指で辿った。地球を真似た球体と岩のような石が回っている。それは少しずつ進んでいた。
「やっぱり、あんたの仕業なのか」
クルスは聞き覚えのある声に振り向く。
「関口……」
「一体、何をしたんだ。いや、何が起こっているんだ!」
クルスは沈黙のまま男を見据える。
「もうネットでも騒いでいる奴がいるな。巨大な隕石が地球に向かってきている。そして、衝突する」
丁度、十五インチのノートパソコン程度から浮かび上がる映像装置を、クルスは関口の目の前に置いた。矢印が点滅し、岩らしきグラフィックの行き着く先には惑星を模した玉がある。関口はそれが地球だとわかった。
「黄色の数字が、隕石が地球に衝突するまでの残り時間だ」
下部には黄色のタイマーらしきものが、秒単位で時間を忙しく刻んでいる。
「ええ!? あと四十五時間!?」
数字が減っていく様を、そのカウンターは正確に現していた。
「どうして、こんなことを! おまえは地球を救うんじゃなかったのかよ!」
「先生に向かって、タメ口はいかんだろ。関口くん。曲がりなりにもここでは教師になっているから」
無言でクルスは立ち上がる。
「一ノ瀬に、この学校の人間の意識を調整してもらったからな」
振り返ったクルスはため息を漏らした。そして道化師のように顔を歪め、おどけて笑ってみせる。
「しかし、一気に生物を滅亡させるっとは乱暴な手法だ。数百年は住めはしない。一からやり直させる気か」
男はまるで気が狂ったかのように、その場で回った。汗が辺りに飛び散る。
「おまえはまだ、百瀬がこの地球を征服するとでも、思っているのか!」
関口はクルスを掴んで思いっきり押し飛ばすと、カウントダウンしている機械の上に倒れた。男は仰臥位のまま動かなくなる。男の腹部を透過して、衝突起動と時間を現すグラフィックが動きだした。
「……思って、ないさ」
背中から機械を取り出して、腹の上に置く。
「あの姫が、そんなこと考えてるなんて、思っていない」
「おまえ今、そう言ったじゃないか」
「恐らく、この隕石をよこしたのは、ザベリンを敵対視する者の仕業。それをやったのは……、カイザル星の連中だ」
関口は目の前にある機械を再び見降ろした。着実に数字は減っている。
「で、でも、おまえはまだここに、いるじゃないか……」
「俺は見捨てられたのさ。しかし誤算だったのは、お姫様がこの地球にいないことを知らなかったことだ。まあ人類が滅んでしまえば、あいつらがここを征服する意味が無くなる。大きな犠牲だが、ある意味地球としては救われたんだ。それで良しとしようじゃないか」
関口はクルスに跨り、胸ぐらを掴んで起こす。
「奴らは助けになんて来ない。もう行き場所など、何処にも無いんだ。終わりだ」
「終わりって、言うな」
「関口、わかっていないな。どこに逃げ場がある。隕石がここに衝突したら、人類は滅亡だ。俺たちはもう見捨てられてるんだよ」
クルスの乾ききった笑いが、室内に力無く響いた。
「百瀬は……、戻ってくる」
「おまえ、何言ってるんだ。冷静に考えろ。仮にお姫様が戻ってきても、どうやってあの大きな隕石に立ち向かう?」
「だ、だから……」
「いいか、もう一度言う。隕石の大きさは、推定四百キロだ。この惑星のハイテクな核ミサイルを全部打ち込んでも、破壊は出来ないし、軌道を反らせるかどうかもわからない。確実に衝突する」
関口は黙り込む。
「百歩譲って、仮に破壊しても数キロでも破片が落ちてきたら、この一帯など吹き飛んでしまうさ。それが世界に幾つも降り注ぐ」
「で、でも」
「完全に消滅させるしかないんだよ。全てを消し去って無にするしか手はないんだ。あのお姫様にそれが出来るか!! 出来るものか!!」
男たちの背後に、人影が映った。
「でも姫は……、姫は、それでも来ます」
「……カオス、お前はわかるはずだ」
カオスはクルスの機械を指さす。
「そ、そんな……!?」
二つの楕円の間に、もう一つ小さな物体が出現していた。




