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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第1話 征服者、光臨!
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その4

 無慈悲過ぎる刃を喉元に置かれている空間の中、関口は微動だも許さない状態にいた。捕えられている彼の額に、瞬時にして汗が吹き出す。


「あ、あなた」


 璃緒は忘れ去っていた朝の出来事を思い出した。紅色の軍服の強面の男性が枕元にいたことを。


「最後の忠告と思え。姫の手を今すぐに離せ」


 関口の手が震えていた。只ならぬ状況と緊張のせいで、強張った手は意志と反対の行動をとっている。


「そうか、聞けぬか。ならばその手ごと体からこの刃で削ぎ落とすまで」


 その男は剣の鍔を返し、刃を手首から喉元に向けた。


「姫に危害を加える者は何人たりとも許せぬ。王の使命のもと、おまえを葬り去るのみ」


 男の冷酷なまでの瞳は、確実に殺意を見せている。


「ちょ、ちょっと!」


 璃緒は慌てて、関口の手を掴んで振り解いた。


「は、離れたわよ! ほら!」


 彼女は両手を男に広げて見せる。だが関口の喉元にある剣は、未だ鈍い光を衰えさせていなかった。


「ねえ、もういいでしょ! 彼を離してあげて!」


「姫、このような不埒な無法者を野放しにしておく必要はありません。このまま一掃致します」


 男は真剣な顔で静かに告げる。関口の引き吊った顔から、汗と鼻水と涙がこぼれ落ちていた。


「だめだったら! 今はあんたが無法者よ!」



*****



「おい、そこ! 何してるんだ!」


 璃緒は目を丸くする。薄暗い周辺を照らすLEDライトを光らせながら、パトロール中の警察官が自転車から降りた。

 同時に冷酷な切れ長の目が警官を刺し睨む。闇から威圧を感じた警官は、もんどり打って自転車と共に倒れた。


「お、お前! 不審な奴だ! そ、そこを動くな!」


「早くその剣を締まって。じゃないと、変なことになっちゃうじゃない!」


 もう一度、軍服の男は警官を凝視する。その度に警官は動きを封じこめられ体を固まらせた。


「あの輩も、姫に危害を加える者とならば、仕留めてご覧にいれましょう」


「な、なに、馬鹿な言ってんの、もう! とにかく剣を隠して!」


 靴先を地面に擦り付けながら、警戒した警官が近づいて来る。璃緒は目の前の男を見据えた。


 しかし男はその剣の手を緩める気配はなく、今にも襲いかかる敵意が滲み出ている。


「あなたは王様の命令で、私を守っているのね」


「畏れおおくも」


 男は少しだけ視線を璃緒に戻す。


「じゃあ、私の言うことも聞いてくれるの」


「王の勅命を受けている私は、姫の忠実なる家臣でございます。姫のためならば敵と刺し違えて死することも覚悟しております」


 それを聞いた璃緒は大きく息を吸った。


「だったら、その剣を隠して」


 しかし男は首を横に振る。


「生命的危機状況の場合、いかなる時も姫をお守りするのが至上の命。姫、無用な哀れみなど必要ございません。たかが小童ども二人、瞬時に仕留めます」


「哀れみじゃないし、お願いじゃない」


 璃緒は殺竟を剥き出しにする大きな男を睨んだ。


「姫の……」


 彼女は眉間に皺を寄せ、唇を噛んで決心する。


「姫としての命令です。剣を鞘に納めなさい」


 手元そのままに眼球のみ動かした男は、その真摯な顔を見て取った。


「御意」


 関口に迫っていた剣は、首もとから離れていき元の鞘に収まる。腰から崩れていき、力無く地面に座り込んだ。


 璃緒は男に小声で呟く。


「剣全部、丸ごと隠して」


 まるでマジシャンのように、その長い剣を腰裏にて一瞬で隠した。


「おい、あんた。さっき物騒なもの持ってなかったか? 銃刀法違反だぞ」


 警官は少し顔を引き吊らせながら、LED懐中電灯を顔に浴びせる。


「な、何でもないんです。友達が急に気分が悪くなったので、一緒に看てもらってたんです」


 璃緒と関口の顔を警官は覗き込む。


「そうなのか」


 関口と男は答えられないが、璃緒は大きく何度も頷いた。


「君がそう言うなら、いいのだが」


 警官は今でも璃緒の顔を見て、訝しげな表情をする。彼女は努めて明るく微笑んだ。

 璃緒の細長く、毛先がカールしたブラウンのセミロング髪、血色の良い肌、顎が引き締まった端正な顔立ちに、大きな茶褐色の輝く瞳が印象的だった。


「そうです。この人たちは、とても安全なんです」


「しかし、この人はコスプレが趣味なのかね」


 若干まだ戦く警官は如何にも怪しい軍服の男をチラ見する。そして「もう遅いので、早く帰りなさい」と付け加えた。

 軍服の男は不思議な顔をして口を開く。


「姫、コスプレとは何ぞ」


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