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朝起きたら、宇宙征服者の姫になってた!  作者: 七月 夏喜
第2話 正義の覇者、光臨!
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その3

 璃緒が帰宅すると、居間から大きな笑い声が響いていた。


「なんなの、騒々しい」


 玄関の扉を開けるや否や呟く。


「不審者でも進入しましたか」


 カオスは璃緒の前に出て、庇うように歩き出した。


「大丈夫。カオスも不審者に近いけど」


 廊下をスリッパを鳴らして君子が出てきた。


「何だか、光太郎さんとリュークさん、気が合っちゃって」


「お父さんとリュークが? あの堅物と話が合う?」


 想像できない取り合わせに、璃緒は素っ頓狂な声を上げる。


「お酒飲み始めたら、あなたのことで盛り上がってるみたい。リュークさん日本酒が大変気に入って、旨いって連呼してるの」


 璃緒は悪寒に近いものが背筋を這ったように身震いした。


「よくわからないけど、あなた凄いことやってきたらしいわね、リュークさんの宇宙船で。カオスくんを脱走させたんだってぇ」


 君子はいつもより、一オクターブ高い快活な声を上げる。


「あんな色男に、ああまで言わせるなんて、学校の成績以上の事よ。母さん、何だかやきもち焼いちゃうわ。もてる姫に」


 笑いながら、君子は指で璃緒の鼻を突いた。


「ひょっとして、お母さんも酔ってる?」


「少しね、少し」


 ほんのり赤ら顔の君子は、璃緒と腕を組んで寄り掛かる。


「だって嬉しいの。自慢の娘が、璃緒の顔がまた見れて」


「お母さん……」


 寄り添う君子を誘導しながら、璃緒は廊下を歩いていった。


「姫、僕はどうしましょう?」


 独り残されたカオスは対応の仕方がわからないでいる。くすっと笑って、璃緒は手招きした。


「随分と姫はみんなに守られているのですね」


 カオスはひとりごちして、二人の後を追った。


*****


「おお、姫! 今、帰られましたか! 我らの女神、璃緒姫!」


 リュークはご機嫌な声を発した。そしてグラスを傾け、日本酒を飲み干す。


「酔ってるねえ、リューク。リオン姫から、璃緒姫になってるし」


 ダイニングテーブルの椅子に座わりながら、不機嫌そうに口を尖らせた。


「それに、いつ浴衣に着替えたのよ。裾が全く寸足らずだし」


「姫! こちらで一緒に宴を楽しみませんか!」


 大島織りの紺色浴衣に身を包んだリュークは赤ら顔で手招きする。戦闘服に身を包む男の、これほどハメを外す行動は絶対に見ないだろう。璃緒は黙って彼を観察した後、ため息をついた。


「いい。こっちでご飯食べるから。カオスもここに座って」


「そのような寂しいことを申されるな。光太郎殿も願っておられますぞ」


 紅潮した顔に、笑みを浮かべながらリュークは叫ぶ。


「いいってば!」


 苛ついた表情で彼女はそっぽを向いた。カオスはそんな璃緒の横顔を見つめる。


「姫、やはりリュークの奴を懲らしめましょうか。使命を忘れるとは不届きな男です」


 彼は人差し指を立てた。その指を璃緒はむんずと掴む。


「やめて。カオスは気にしなくていいから」


 カオスは彼女の瞳を見つめ直した。


「今日は家族三人で、ゆっくり話したいと思ってたけど……」


 カオスから離れた指を、両手に絡めて璃緒は呟く。


「おい、璃緒。リュークさんはとても愉快な人だ。お酌でもして差しあげなさい」


 思わずリュークは日本酒を吹き出した。


「はあ?」


 箸を片手に璃緒は再び、素っ頓狂な声を上げる。


「こ、光太郎殿、そ、それはいけません。姫にそのようなことされては、私の立場がありません」


 酔っていても、その辺りの分別はついているようだ。


「リュークさん、この家に居る時、璃緒は姫じゃありませんよ。百瀬家の、私たちの娘ですから」


 そのひと言は璃緒の気分を十分晴れさせた。カオスはその顔を見逃さない。彼女はにんまりとした。


「そうよね、随分色々と、お世話になったリュークさんだし」


「リ、リュークさん?」


 男は璃緒の含み笑いに、妙な緊張をして背筋を伸ばす。彼女は飛び跳ねながらリュークの側に寄り、二合とっくりを持ち上げた。


「ささ、リュークさん。一杯どうぞ」


 突然リュークは立ち上がり、胸に手を当てる。


「姫から直接杯を受けることは、我が勲章に値します!!」


 璃緒は浴衣の裾を引っ張った。酔ってる彼は少々足元をよろめかせる。


「はいはい、わかった、わかった。座ってリュークさん」


 赤ら顔の男を璃緒は笑った。


「姫、光栄の至りです!」




「カオスも、こっちくる?」


 彼はテーブルで慣れない箸と苦戦中で、漬け物を口にくわえている。


「僕はここで結構です」


「そうです。奴はあの場所で十分です」


 リュークのその言葉に、璃緒はむっとして声を強めた。


「リューク、リオン姫としての命令です。カオスを呼んで、私の隣に座らせなさい」


「御意!」


 と答えて、男は青ざめてグラスを落としそうになる。


「奴を、私がですか!?」


「そうです。無理ですか私の言葉」


 口を尖らせた璃緒は胸を張った。


「い、いえ!! 姫のご命令とあらば!」


 若干リュークは戸惑いながらカオスの顔を見る。男はいつも上目使いで睨みつけ、交戦的だ。


「奴は我々以外の星々の民も惑わせ、滅ぼしてきた冷酷無比の大敵。触れることも、切ることも出来ない。野放しにして置くなど考えず、幽閉、禁固し、屍にしろとは高老院の考えだった。それが、まさか奴と肩を並べて酒を酌み交わすなどとは……」




「リューク、じゃあ、早く呼んで。宴はみんなで楽しむものでしょ」


 璃緒の言葉は、強い。光太郎がグラスに日本酒をなみなみと注ぐ。


「リュークさん、璃緒は小さい時から、言ったらテコでも動かない、頑固者ですよ」


 君子が付け足すと、リュークは息を吐き、愉快そうに笑いだした。


「あっぱれ。それでこそ我が姫。私の思惑などつまらないものだ」


 その酒を一気に飲み干し、グラスを持つ手を挙げる。


「カオス、姫からのご所望だ。一緒に飲もうではないか」


 男は璃緒の顔を見て頷いた。彼女を間に二人の男たちは揃いぶみする。思いついたように、璃緒は学生服がやけに似合っているカオスを見つめた。


「ねえ、カオスって、いったい何歳なの?」


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