プロローグ
私の名前は「百瀬璃緒」。
地元の高校に徒歩で通う、高校二年生。百瀬家の一人娘であり、父親は大手ではないが技術系会社のサラリーマン、母親は専業主婦。郊外の建売り一戸建てに、慎ましく3人で暮らしており、平凡だが何不自由なく過ごしている。
高校での成績は平均的、中の中程度。大学へ進学はするつもりだが、どんな勉強、どんな仕事がしたいかなんて決めてないので、特にどこでもいい。
「将来何をしたいんだ?」という担任の質問は超苦手だ。
正直、回答は「何も無い」だ。
「いや、お前は何も考えていない、何も無いと思っていることが正解だ」と決めつけられている。
進路指導には母親も何度か来ているが「どう進もうと、この娘は大丈夫です」と、のん気な笑顔で豪語する。母親が信頼してくれているのは娘としてもありがたいが、心苦しくもあり、不思議だ。早くから将来像を持っている同級生もいるが、自分には遠い、遠い先のことにしか思えない。
将来は数年も経てば、いずれ来る。これは疑いようのない事実だけど、その時の自分はどうしているのかは、とても想像出来ない。
心の何処かに今と変わらない毎日が永遠に続き、大人になることすら忘れてしまうのではないか、という現実逃避をしていると思う。
いや実際の話、もっと後で考えてはいけないのか。人生は一回限りだ。どうせなら、人と違うことをやってみたい。と思ったが、それは何かと聞かれるとわからない。
面談を繰り返す度に、嗚呼、堂々巡りだ。
そうそう、世界一周、誰かと連れ添って流れ旅。そのまま気ままな生活。異文化交流? で、どこか一国の王にでも娶られるとか!
馬鹿らしい、明日は学校で全国模試だ。この結果が進路を決める。選択肢など多くない。これこそ現実だ。
寝よう。
非現実なことなど、この世に起きるはずは無い。
絶対に無いはずだった。
そう、絶対に。