第二話 彼女の名前はマコ!?
もお、おっそいよぉ、デクスター、マコはそう言う。鼻にかかった人工甘味料を山になるほどぶっかけたような甘ったるい声。異常に高くキンキン耳にへばりついて離れない。声はこう囁いている。ねえ、今すぐファックして。デクスターはNitroのホームハウス前に止めてあるバギー、それに飛び乗りペニスとヴァギナと生首で出来たネギマの林をかっとばし、途中でアライグマを一匹轢いた。Nitroのホームハウスはモダンエリアの未開発地区にある。未開発というか、元々山を配置してさぁ皆さんハイキングやアウトドアを楽しんでください、と言った趣向で配置されたエリアなのだけども、Faustをプレイするような人間にはポリゴンで出来た山や林や木やアライグマを見て楽しめるような人間は居なかった。時々Faustを動かすVRビューアーを改造したハードウェアおたくがおい、まったく重くならない。まだFPS250をキープしてる。どうだ、どうだよ、オレ様は無敵だぜ。というために訪れるか、Nitroのようなチームがなんとなくハウスを建てる、そういう使われ方をしていた。
マコはデクスターよりも身長が低く髪型は右と左で一つずつまとめ団子状にしているのに、その団子からまた毛束が伸びていて床にまで付きそうなぐらいに伸びている。括っている意味はなんらなかった。Nitroのメンバーは基本的に迷彩柄の野戦服を着ている。別に誰が言い出したわけではないが、全員がしっくり来ると思っているからだ。マコだけは違っていて、赤いブレザーに、紺のスカート、黒いニーソックスを履いている。美少女ゲームエリアでユーザーに人気がある高校の制服だ。マコの目は不自然に大きい。デクスターは気持ちわりいよ、と言った。可愛いだろうが、とマコは言った。
マコは元々美少女ゲームエリアの住人だった。美少女ゲームエリアでは数少ない女キャラクターを動かすプレイヤーで、マコとそのおともだちたち☆というイカの腐臭か閉じられた二枚貝の貝殻の隙間から臭ってくるような臭いでもしそうな名前のチームを率いていた。デクスターとヌードルズが美少女ゲームエリアで騒動を起こした時、マコはフラワーピーシズローリング学院の屋上からデクスターとヌードルズがタイタニックのポーズを決めながらガールズハントをする様を眺めていて、ハンパねえ、マジでイカレてる、最高だ。と呟いた。マコとそのおともだちたち☆の古参メンバーがその後ろに居て、彼は両手で何かを持っていて、それを自らの背中に隠していた。火鼠の生革というファンタジーエリアで少数算出されるレアアイテムだった。彼はそれを渡すために今日はマコと一緒に居た。マコはそれを知っていたので彼の誘いに乗った。くだらない話と嘘みたいな授業の風景に付き合い、体育の授業が終わった後、男は水のみ場で水を飲んでいて、マコはおつかれさまっ、と言って男の頬によく冷えたポカリスエットを押し付けた時なんかは男は卒倒しそうになっていた。ねえ、マコたん、あんな奴ら最低だね、気持ち悪いよ。男はそう言った。マコは本当―、ネチケットとかって、わかってないのかな? ああいう事する男の人って野蛮で気持ち悪いよぉ、あなたはそんな事しないよねっ? というと男は当たり前じゃないか! ところで……と火鼠の生皮をもったいぶって差し出そうとしたのでマコはああくそ早くしやがれと思った。その時にタイタニックをやっていたイカれた二人組の方向を見ると、女キャラクターはバギーの下で下半身がミンチになっていて、船首に括りつけられていた男は脳天を打ちぬかれ地面に脳漿を撒き散らしていた。遠くから見るとまるで腐りかかり灰色になった豆腐を地面にぶちまげたようで、頭が真っ赤になった男が横に倒れているので、なんとかあれは脳なんだとマコは理解する事が出来た。デクスターとヌードルズはインディアンかマサイ族のようにバギーの周りを跳ね回っていた。そうしてその日のうちにマコはデクスターとヌードルズにコンタクトを送った。
私、というかめんどくせえ、オレは今美少女ゲームエリアで中々デカイチームを持ってる。アイテムがすぐに集まるから始めたけど最低だ。Suckだ、クソだ、精神を病んでしまう。Nitroに入りたい。小指一本でチームの奴らは動かせる、入れてくれ。
お、いいじゃん。とヌードルズが言い、デクスターはマコの参加要請を承認した。
デクスターはNitroのホームハウスがある山を抜ける。アフターマスの会場はパンクエリアとモダンエリアの丁度境目あたりにある。デクスターはバギーをすっ飛ばす。アライグマの血がいまだにバンパーにこびりついている。ヌードルズが早くしろよとICQを飛ばしてくる。途中にハードウェアおたくのハイカー達が居たので念入りに散弾銃で撃ち殺した。
マコとデクスターは現実で住んでいる家が近かった。たまたま現実の話題になった時にお、そこオレの家から二駅だよ、とマコは言った。休みの日に遊ぶ事になった。マコは身長190cm、体重が100kg近くある、メキシコ人と日本人のクオーターだった。本名はマコト、と言った。二人はケーキバイキングに行き延々チーズケーキを食べ続けた。マコトは中岡安治の二倍から三倍チーズケーキを食べた。
中岡安治は聞いた。真さん、なんであんなキャラクターやってんの? 真はチーズケーキを噛み砕き、飲み込み、答えた。楽なんだよね、自分を隠せるし、アイテムだってもらえるしさ、オレっていうより、娘みたいな感覚でプレイしてるよ、男のキャラクターで遊んでもさ、なんだかその、全然違う自分なわけだから、それってホモみたいじゃないか。あ、こいつ気持ち悪いな、と中岡安治は思った。そんなん言ったらさ、中岡さんの方がわけわかんないよ、なんであんな事してんのさ、と真は言った。気持ちいいだろ。現実じゃできないよ。何にも出来ないんだから、現実なんてさ、と中岡安治は言い。確かにそうかも。と真は言いその大きな体を震わせながら笑った。
山を越えるとパンクエリアの景色が目に入る。空を水色のエネルギー体と金属で満ちた大きな宇宙船の母艦が飛んでいる。オレンジ色のエネルギー体を持つ小さな戦闘機級も多く飛んでいる。多分、SFキチガイのチームが自分達の船を見せ合うイベントでもやっているのだろう。地面には空に浮かんでいる超人工的な宇宙船達とは対照的に見える荒野が、どこまでも広がっている。ここに西部劇に出る転がる干草が転がってたらオレは思わずそれらしすぎて笑ってしまうだろうなとデクスターが考えていると、ダンプルウィードが実際に転がってきたのでデクスターは逆に笑えなかった。腰からホルスターで吊るしていた拳銃を引き抜き西部劇のガンマンを真似、腰だめで素早く干草を撃つと干草は跳ねまた転がっていった。
アフターマスはパンクエリア入ってすぐ、核爆弾の余波を受けた古びた洋館の電子コネクタからジョインし、開始される。少し遠くに霞んだ古びた洋館が見える。その前で焚き火をしている連中が居る。そいつらは四人居る。バギーは音と砂煙を上げ前へ前へと進む。四人が大きくなってくる。全員何かを吸っている。口元と消えかけた焚き火から煙が上がっている。三人は迷彩服を着ている。その中の一人はガスマススクを着けていて、迷彩服ではない髪の長い少女は赤い学生服を着ている。更にバギーは音を上げ砂煙を上げダンプルウィードを跳ね上げ地面を這っていたトカゲを轢き殺し何かの染みにする。四人とも呆けている。手には煙の出る何かが握られている。あいつらまさか。
もぉ、おっそいよぉ、デクスター。デクスターがバギーから飛び降りるとマコがそう言った。気持ちわりいよ、とデクスターが言うとマコは可愛いだろうが、と返した。ヘラヘラと唇の両脇をあげ笑っていた。手には煙の出るパイポか何かそういうタバコ型の菓子のようなものが握られていた。おい、お前ら、まさか、オレの分は? デクスターが興奮した様子でガスマスクの男に聞く。半ば怒鳴り声にも近い。ガスマスクの男は手にもったタバコ型の菓子からあがっている煙をぼんやり見つめている。おせえよ、デクスター。もう全部やっちまったよ。ヌードルズは煙を見続けながらそう答えた。デクスターはクソッタレと叫んで地面の砂を蹴り飛ばし焚き火にかけた。一人の男がそれを見て跳ね上がるようにして大きく一度だけ体を震わせた。カリカリするなよ、吸い掛けで良かったら僕の吸いなよ、とカルシャンクスが手に持ったまだ火の着いているタバコ型の菓子を差し出す。デクスターはイライラした様子で受け取り吸い始める。フィンチはあさっての方向を向いている。何を考えているのかはわからない。多分ムカデの事でも考えているんだろう。デクスターは煙を吸い込む。安寧と安らぎと沈静が頭の中に広がる。それなのに心は何かを嬉しがりその嬉しがる対象を見つけるために躍起になっている。たまんねえ、行くぞ! とデクスターは叫び吸殻を地面に叩き落し踏み消す、カルシャンクスはまだ1cmも吸ってないじゃないかとぶつぶつ言う、マコはちょっと待ってマコともからギルチャ入った、と言いガジェットを取り出す、ヌードルズはマコの腋に両腕を通し持ち上げるようにして抱える、もう行こう、とっととやろう、やりたいだろう、オレはやりたい、やるぞ、やる。オレはやれる。オレは何もかもを出来る。そう言っている。ガスマスクの向こうにぼんやり見える目には何も映っていない。濁っている。黒目が白目を覆いつくしているようにも見える。フィンチもゆっくりと立ち上がる。デクスターが猛然と歩き出すと全員後から着いてきて、デクスターはいい気分になった。