攻城戦を巡る軍議
手篭めにされたのに笑顔になった彼女を俺は訝しんだ。
「どうして嬉しそうなんだ」
彼女は淡々と答える。
「人生に希望が出てきたから」
その答えに納得がいかない俺はさらに尋ねる。
「俺の女になることが何故希望なのだ。まさか一目惚れしたというわけでもあるまい」
俺はいわゆるイケメンというわけでもない。もしそうだったのなら前世であれ程苦しむこともなかっただろう。
「人間なのにオークをそそのかして反乱を起こすなんてまともな発想じゃない。あなたは狂人か天才。そのどちらかあるいは両方」
俺は黙って女の話を聞き続ける。
「私は農奴だからどうせこのまま生きていてもろくなことなんてない。領主や代官のために畑を耕しているようなもの。死んだときにすら税金をかけられる身。それこそオークとさして変わらない。ならばあなたが天才であることに賭けてみるのも悪くはない。あなたが大領主になるのならば妻の私もいい暮らしが出来るでしょう」
おかしな女だ。思わず俺は笑ってしまった。彼女も俺に合わせて笑う。
「名はなんというのだ。お前は」
「マヤ。それだけ。農奴だから名字はない」
俺は笑って彼女の髪を撫でる。
「楽しみにしておいてくれ。期待を裏切りはしない」
その晩、俺は彼女と交わりを持った。栄養状態が良くないのか、彼女の体はスレンダーというよりも痩せぎすといったほうが適切だ。そんな彼女を何度も犯した。
面白いほど解放作戦は順調に進んでいった。同じ手口を使い、俺達は立て続けに多くの村々を解放した。
これまで解放した村の数は五つになる。味方になったオークの総数は二〇〇〇あまり。その中から兵士を徴兵すると五百にもなる。
最も兵糧の問題がある。彼ら全てを連れて遠征作戦をするようことはできないだろう。
俺は最初の村に精鋭一〇〇人ほどを集結させた後は元の村に置いてきた。農作業の必要もあるしろくな寝所もない。
喫緊の問題は城からの視察が近づいていることだった。俺はゴルジなど主だったオークたち及び代官のルカスと軍議を重ねる。
とりあえず代官から城の情報を聞き出すことにする。
「城主と面識はあるのか」
「もちろん私は代官なのだからな」
「城の兵力と人口は」
「人口は数千あまり。職業としての兵士は数十人余りだろう。もっとも市民を徴発すれば兵力はかなり増える」
「城の高さはどれほどなのだ」
代官は思案しながら言った。
「そうだな、私の背丈の倍ほどはあるだろうか」
「ではこれまでどおり夜襲はどうだろう。そんな城壁があるなら、昼間にまともに攻めても勝てまい。梯子を使って、夜ひっそりと登ればいい」
俺の提案に代官が首を横に振る。
「無理だ。夜中でも見張りがいるから必ず気づかれるだろう。暗闇だから見えないが音がするからな」
いつの間にやら代官は俺の従順な協力者となっていた。一旦協力した以上、後戻りはできないと腹をくくったのかもしれない。
俺は別の案を出した。
「では城内のオークを内応させおう」
長老が横から口を挟む。
「城内にオークは少ないだろう」
代官は村長に相槌を打った。
「オークは農業をするものと相場が決まっているからな。肉体労働者として使われているものもいくらかはいるだろうが」
さらに長老は俺達に不利な事実を指摘した。
「それに城内のオークとの交流はない。説得に難儀するだろう」
俺は唸った。どうするべきか。
悩んでいる俺に勇猛果敢なブザビが言った。
「いっそのこと城からの討伐を待つのはどうだろうか。待ち伏せすれば勝機があるだろう」
その提案を俺は却下した。
「待ちぶせと言えば聞こえはいい。だが、討伐ということは敵が戦闘の準備を入念にできるということだ。我々は所詮戦闘経験のない素人の寄せ集め。練度の差など影響しないほど一気呵成に攻め立てる他ない」
ゴルジが困りきったように呟いた。
「全く、うまくいかないものですねえ。今までは内応者がいたから楽だったんですが」
一同に沈黙が流れる。そこで俺に閃くものがあった。
「任せておけ、俺に策がある」
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