表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

笑う哀れな少女

 実は俺とブザビは事前に打ち合わせをしておいたのだ。俺達のやり取りは芝居だったというわけだ。

 そうとも知らないオーク達の士気は否応がなく上がった。

 数こそある程度集まったものの俺達の装備は劣悪だ。


 剣と鎧を両方装備しているのは十名程度。他の者達は鎌などの農機具や包丁で武装している。

 内応する隣村のオークたちも同様だろう。

 練度も高くないので士気は極めて重要である。


 夜、俺達は静かに行軍を始める。今回の襲撃の肝は戦闘自体の勝利にはない。

 勝利事態はいともたやすく達成できるだろう。重要な点は我々の蜂起を周囲の人間に知らせないことだ。


 農村地帯ということもあり日が落ちると明かりなど存在しない。松明はめいめい持っているがまだ火を灯すわけにはいかない。気づかれる恐れがあるからだ。

 夜襲をするには向いているが迷わないようにするのに一苦労した。


 無事に俺達は隣村へとたどり着いた。到着を知らせるためにブザビを使いに送る。

 またこうも付け加えた。

「村の者たちに馬小屋を見張っておくように言っておけ。逃げられたらかなわないからな。あと案内役として村人たちを何人かを連れてくるように」

 

 役目を終えたブザビが村人たちと帰ってきたところで皆に宣言した。

「これは偉大な一歩である。お前たちは自分のためだけではなく他の者達のために闘うのだ」

 オークたちは力強くうなずき、松明に火をともした。数多くの松明が一斉に作り有様は壮観である。

 

 一斉攻撃を命じるとオークたちは勢い良く飛び出していった。

 彼らは人間、エルフ、ドワーフの家々に次々と火を放っていく。

 また扉を蹴破り、中に侵入し首を取る。火災に気付き家々から飛び出してきた人間達を討ち取っていく。


 前回の襲撃の経験もあり、オークたちは少し手慣れていた。

 もはや戦闘というよりも一方的な虐殺の体をなしていた。俺は気を良くしてさらなる命令を下す。

「代官は殺すな。なるべくなら生け捕りにしたい」

情報を聞きたかったからだ。それに、どうせ殺すにせよ公然で処刑したほうがオーク達の士気が和了る。


 オークを引き連れ代官の館の前に俺は向かった。代官は呆然としながら館の前に立っていた。

 人間、エルフ、ドワーフたちの悲鳴やオーク達の歓喜で村は騒然としている。そのざわめきで異常事態に気づいたのだろう。

だがもはや遅い。


「捕まえろ!」

 俺はそう叫びながら代官に突っ込んでいく

 そこで意識が切れた。気づいた時には代官が数名のオークたちと一人でやりあっている。

 意外なことに隣村の代官はかなりの剣の使い手であったのだ。

 

 舌打ちしつつ周りのオークたちに告げる。

「俺が一人で突っ込んであいつの攻撃を封じる。生け捕りが無理だったら殺してもかまわない」

 俺の適当な剣筋など通じるわけはない。代官が鋭く剣を俺に向けて振る。

 俺は代官の剣を体ごと抱き込むようにした。

 強烈な痛みが俺を襲う。


 意識が戻った時、見た光景は傷だらけの代官が寝転がっている姿だった。

 さしもの剣の名人も俺の文字通り決死の攻撃には対応できなかっと見える。

 さして寒くもないのに代官はカチカチと歯を鳴らしていた。恐怖のあまりだろう。

「助けてくれ」

 助けるも何もこんな出血量で、この世界の医療では助かるまい。


 俺の取りうる選択肢はもはや一つだった。

「嫌なこった」

剣を刺された代官はあっけなく死んだ。結局俺が死んだのは代官との戦闘の時、二回きりだった。


 夜襲を受けた人間、エルフ、ドワーフたちは完全に混乱していた。

 事情を知らされていなかったオークたちも俺達の味方に加わった。そんな数的圧倒有利もあり、こちらの損害は怪我人を含めても五人ほどだった。


 捕虜となった人間たちを一箇所に集める。そして成人した男たちだけを適当な建物にぎゅうぎゅうに閉じ込めていく。

 歯向かうことがなさそうな貧相な男達をただ数人だけ残して。


「出してくれ。言うことは聞くから」

建物のなかから哀れな嘆願の声が聞こえる。

「この責任はお前たちにあるのだ」

 俺は静かにそう告げてからブザビに命令する。

 

 ブザビは火をつけた。オークたちが歓声を上げる。気づくと村のオークたちは完全に我々の味方になっていた。

 それから俺は残った女たちを地面に立たせ物色し始める。

 エルフもいいかもしれないなと思ったが好みのものはいなかった。


 最後のあたりで一人の少女と目があった。

 顔立ちが整った彼女は恐ろしくみすぼらしい格好をしていた。もはや原型がよくわからないほどボロボロの服を着ており、体の汚れも酷い。

 年は元の世界ならば中学生ぐらいだろうか。


 彼女は冷めた目で投げやりに言った。

「選ぶなら早く選んでよ。ずっと立たされていたら辛いから」

 彼女の知り合いや肉親も死んでいるだろうに。どうしてこんな態度が取れるのか。俺はそっと彼女の小さな肩をとって告げる。

「分かった。お前を選ぼうではないか。哀れな人間の少女よ」

 彼女は笑顔になり歯を見せた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ