処刑
司祭と村長が引き立てられてきた。彼らは自分の末路を想像しているのだろう、青ざめている。オーク達が小突いたり、つばを吐きかけたりしている。司祭が勇気を振り絞って怒鳴った。
「貴様達! こんなことをしたら地獄に落ちるぞ。悔い改めるのだ」
オーク達が罵声を上げるが、中には本当に怯えているものもいる。司祭は図に乗って説教を続ける。
「人間に奉仕するのがオークの本領だ。そうすることによってお前たちの罪を贖うことが出来るのだ。なのにこのような暴挙を犯していると天罰が下るぞ」
「分かった。じゃあ神に祈れ」
俺は代官から奪った剣を司祭に突き刺した。司祭はあまりにあっさりと絶命した。
その光景を見た村長が跪きオークたちに懇願する。
「しょうがなかったんだよ、お前たち。そりゃあ年貢の取り立てなどで腹が立っただろうが代官に脅されてやっていたんだ。許してくれ」
俺は呆れながら村長に言った。
「お前の罪は最も重い。人間とオークの闘いはどちらかが死ぬか隷属させられるかの闘いだ。ある意味そこに善悪はない。敢えて言えば強いものが正義という世界だ。しかしお前は仲間を裏切ったのだ」
俺は村長をオークに渡していった。
「簡単に殺すなよ」
オークたちの憎悪のこもった暴力に村長は長い悲鳴を上げ続けた。あまりに激しい暴行に最終的に村長の体は四分五裂した。それをオーク達が踏みつける。あまりに損傷してもはや人間の体と判別できないほどだ。娘が忌々しそうに俺に言った。
「こんなことをしてどうするつもり。今はいい気でもそのうち討伐軍がやってきてあなたは八つ裂きよ」
俺は笑いながら答えた。
「馬鹿者め。俺はオークが主人の国を作るのだ」
娘は放心した後に呆れるように笑いながら言った。
「馬鹿はあなたよ。そんなことは不可能だわ」
「はてそうだといいがな」
俺はオークたちに後始末の指示を出した。生き残った人間、ドワーフ、エルフたちを焼け残った建物になるべくぎゅうぎゅうに詰めさせた。そして代官に水をぶっかけてなんとか意識を取り戻させる。長老とゴルジを従えて代官宅のなかで質問する。
「聞きたいことがある。嘘をついたことが分かったらもちろん殺す」
代官は恐怖から言葉を発することも出来ずにただ頷いた。
「まず第一にこの国はどこと戦争しているんだ」
代官はぼそぼそと答える。
「ソワソン王国とだよ」
「敵の兵力は? そしてこちらの兵力は?」
「分からん」
俺は剣を抜いた。代官は慌てて答える。
「本当だよ! 寒村の代官にそんなことを知る権限はない。だいたい諸侯と傭兵が入り乱れて頻繁に裏切っているから正確な数など上もわかっちゃいないんじゃないか。まあ大まかな数でいいなら両方とも十万ぐらいだとは思うが」
「良かろう。この村に討伐軍が来る時期と兵力を答えろ。推定でかまわん」
代官は考えこんだあとに言った。
「定期的に月に一度城から使いが来る。今日から数えればあと一〇日ほどだ。その時には確実に露見するだろう。準備をする時間を考えても二週間ほどで討伐がなされるだろう。数は城と近村の兵力を合わせて二、三百人といったところか」
ゴルジがため息を付いた。無理も無い。決起の成功で兵力が膨れ上がったとはいえ一〇〇人を少し超える程度。練度を考えればまずまともに戦って勝ち目はない。
「装備は」
「基本的にはこの村と大差はないが、城には騎兵がいる。一〇名ほどだが」
そして行政文書の在り処を白状させ、代官への尋問をひとまず終わらせた。ゴルジが不思議そうな目で尋ねる。
「殺さないんですか」
「あいつにはまだまだ利用価値があるからな」
そして長老に尋ねる。
「近隣の村長とは面識があるか」
「僅かだがな。人間はオーク同士が繋がるのを恐れていた。それでも境界争いやら水利権について話しあうために手紙のやり取りなどしていたのだ」
俺は長老に紹介状を一筆頼んだ。ゴルジが尋ねる。
「これからどうするんで」
「一眠りして俺は隣村を焚きつけてくる。お前たちは連中を見張り、また鍛錬を少しでもいいから重ねろ。そのためにドワーフやエルフを生かしたのだからな」
ゴルジがしっかりと頷く。そして俺は代官宅の寝室に入った。そこには縄で縛られた代官の娘がいた。解いてやると罵声を浴びせかけてきた。呆れながら答える。
「あまり体力を使わないほうが身のためだぞ。名はなんというのか」
「貴様に名乗るなどない」
どこまでも強気な所に俺は笑ってしまった。耳を澄ますと女性の悲鳴が聞こえる。おおかたオーク達が犯しているのだろう。あまりの軍規違反は考えものだが士気のためにはある程度仕方ない。それになんだか愉快な気持ちになった。これからの自分の運命を察したのか娘は叫んだ。
「殺せ!」
俺は頬を平手で打ってこう言った。
「そこは殺してくださいだろう」
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