我奇襲に成功セリ
「決起するにしても敵の戦力を知っていないと話しにならん。だが俺はあいにく天から来たものだからこの世界については疎い。教えてくれるか」
長老は俺の申し出を快く受けてくれた。
「よかろう。この村にいるドワーフとエルフは各々三十と言ったところか。エルフは弓に長け、ドワーフは斧と剣に長けている。あと人間も十人ほどいるが、この村を治める代官とその補佐役、つまり文官と司祭だから数のうちにはいらんだろう」
「お前たちはどれぐらいこの村に住んでいるんだ」
「だいたい五百人と言ったところか」
「そのうち何人を集められる?」
長老はちょっと考え込み、他のオークと話し合ってから言った。
「三、四十人といったところだろう。あまり集めすぎると計画が漏れる」
「お前たちも一枚岩ではないということか」
長老はため息をつきながら答えた。
「残念ながらな。人間に媚を売って利益を得ようとするものがいる。今の村長などまさしくその典型だ。仲間を売って自分だけ甘い蜜を吸っている。それに一揆を密告すると褒美が与えられる」
「ドワーフとエルフを合わせて六十人に対してこちらは三、四十人か。奇襲するにしても少し戦略差があるな。まあ不死身の俺がいれば結局は勝つか」
長老が補足する。
「合わせて六十人といっても戦える男は二十人程度だろう。女子供が多いからな。それに戦うことに長けたものは今いない。鍛冶屋などの職人と役人たちだ」
「それはありがたいことだがどうしてそんなことになってるんだ」
長老は息を吸って言った。
「徴発されているのだよ。戦争に」
これは重要な情報なので詳しく問いただす。
「どこと戦争しているのだ? どのくらい期間?」
「どこと戦争しているかなどわしの知ったことではない。わしらは戦争に行くことはないからな。戦争は人間とドワーフとエルフのすることだ。ただいつからといえば一年ほど前からだ」
オーク達が頷く。長老の話に私はゴルジの妻と話した時と同じ印象を受けた。彼らは人間によって情報を遮断されているのだ。そしてまた戦争に行くことを免除されることによって同時に武力を養う機会を奪われている。
翌日夜陰に乗じてオーク達が集結した。あまり計画を練れなかったのは不安だがしょうがない。俺の存在を悟られると計画は水泡に帰す。俺一人だけ生き残って勝ってもしょうがないのだ。それではいずれ行き詰まる。仲間を増やしていかねばならない。
オーク達は松明を持ち包丁や鍬で武装していた。長老が何かを持ってコソコソと口上を始めた。長老が持っていたのは一枚の紙だった。円形になる様に放射状に名前を書いてあった。聞くと自分の名前を書けないものもいて他のものに教わりながらなんとか署名したという。口上の途中で長老にそれとなく聞いてみた。
「これは一体何だ」
「伝統あるいは作法だよ。こうすることで首謀者を隠せるだろう。それに文字通り上下の差をなくせる」
村長は答えると口上の締めくくりを小さいながらもはっきりとした声で言った。
「これでわしらは一心同体。もはや裏切りはありえない」
オーク達が悟られないように控えめな鬨の声が上げる。そしてゴルジの家にいなかった連中のために俺はもう一度蘇りのデモンストレーションをした。驚きと喜びを口にするオーク達。畳み掛けるように俺はオークに命令した。
「代官の家には火をつけるな。捕えていろいろ問い質したい。それと馬を確保しろ。馬で逃げられて連絡されてはたまらない」
オーク達は松明で一斉に家々に火をつける。慌てて住人たちが飛び出してくる。寝こみを襲われて満足に武装できずに状況を把握できずにむざむざと討ち取られていく人間とエルフとドワーフ達。たまに反撃するものがいれば俺が先頭を切って戦う。俺がオークを不死身の能力で文字通り体を張って守ると相手は畏怖したように戦意を喪失した。たいしてこちらの士気は否応なく上がる。面白いぐらいの大勝だった。
代官とその家族が連れてこられた。代官は支えてもらえないと立っていられないぐらいに震え、オーク達が嘲笑を浴びせている。金髪の妻と娘のほうがまだ気が確かだ。
生き残った人間とドワーフとエルフたちを一箇所に集める。なるべく臆病で従順そうな奴をエルフ、ドワーフ一人ずつ選び出した俺の近くにこさせた。おどおどと二人が歩いてやってきた。その目は恐怖で満たされている。
「安心しろ、お前たちは運がいい。成人した男は代官とこの二人を残して殺せ!」
エルフとドワーフ達が必死になって逃げようとするが拘束された上、多勢に無勢で逃げようもない。次々と首を跳ねられ、心臓に剣を突き刺されていく。気づくといつのまにか最初の決起に加わっていないはずのオークまで制裁に加わっていた。彼らは喜びと怒りがごちゃまぜになって殺害を繰り返していた。まるで血の匂いが彼らを駆り立てているようだ。彼らの家族たちがその光景を見て失神したり、放心したりしている。すぐ横で音がした。代官が気を失って倒れこんでいた。
「御立派な御尊父をお持ちで」
代官の嫁と娘に皮肉は言うと娘は髪を振り乱して叫んだ。
「黙れ、下郎が!」
「さていつまで強気でいられるかな」
俺が顎に手を掛けると娘は嫌悪感を露わにした。
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